11.天気図(2)

奇しくも今の天気で思い出した。

そんな他愛ない話をして、ダンタリオンの公館を後にする。

忍たちとは一旦別れて、オフィスに戻る。その少し前。


「アスタロトさんて」


濡れた石畳の道を歩きながら、忍がぽつ、と呟いた。


「やっぱりエシェルのこと気づいてるんじゃないの?」

「……なんでそんなこと急に言うんだ?」


確かに話が出るとわかっているのかいないのか、ちょっとぎくぎくするが、確定する要素はない。が、忍は何か気になったようだ。


「だってさっきの天気の話」

「アガレスさんの?」


それはウァサーゴさん……つまりアガレスさんを助けたとある事件の後、告げられたオレの「未来」。


「くもりのちゲリラ豪雨。オレ、忠告されたのにあの後、割とすぐにそれに遭遇した」


都会じゃあるあるだが、よく当たったとげんなりしながら思ったのは記憶に鮮明だ。


「その後、まだ続いてたよね。その未来」

「……そうだっけ?」


思い出す。くもりのちゲリラ豪雨。……アガレスさんが言っていたのは短い天気予報だけだった気がする。


しかし、ゲリラ豪雨って曇りの後に来るだろうか。晴れてていきなりなのがゲリラな感じがする。さっきみたいに急に暗くなってってことか?それなら当たってるけど……


今更、その違和感が気になりだした。


「……その後。話さなかったっけ? デビルレイとかなんとか」

「それはゴッドレイから引っ張った公爵の話だろ。確かその前に……」


司さんと忍が、なぜかそこで黙した。


「?」


オレも思い出す。時系列的にデビルレイになったのは、ゴッドレイ(神の光)の話が出たからで、なんでゴッドレイが出たかって言うと


「……天使のはしご」


思い出した。それは天使のはしごという雲間からさす光の柱の別名だ。


「あれ? でもそれ言ったのアガレスさんだった? 雨が降った後に見えるかもとかそういう話だったっけ?」

「アスタロトさんなんだよ、それ言ったの」


………………………………………………え、まさか。

その時から何か気づいてたとか。


「ないだろ、天気予報とエシェルはさすがに関係ない。実際すぐオレその天気予報的中されたし」

「そうだね。でも考えてみると、その後、天使の襲撃があって……」

「突然の襲来。それがゲリラ豪雨として」


と司さんも続く。


「「エシェルが天使だと判明したのはその直後だ」」


何それ、怖い。

まさか、あの時の会話はそれを全部予見していた?


アスタロトさんは時間見の力は制限されているが、アガレスさんがウァサーゴさんとしてオレの未来を見たなら、当然にそれは会話として共有されているだろう。


オレは、なぜか突然に、その声を思い出した。



雨が去れば晴れるだろうし、西日がさせば天使のはしごでも見えるかもしれないよ



「……いや、それはない」

「何で言い切るの?」

「例えが単純すぎるから」

「……」


偶然の解釈。人はそれっぽいことが起こるとこじつけて、占いが当たったとかいうのだと、忍から前に聞いたことがある。

なぜか断固の勢いできっぱりと言うと、司さんも忍も同時に沈黙した。


「……そうだな、ゲリラ豪雨と襲撃、天使の単語だけで結びつけるのは早計だな」

「そうだね、もしかしたらその後のことを言っているのかとも思ったし、解釈次第だね」

「何だよその後って」


忍に別の可能性を提示されて、逆に気にかかってしまう。なんとなく断固譲ってはいけない気がする一方で聞いてみたい。


「曇りっていうのはその後の、結界が壊れる前兆の天気でもあるのかなって思った。最初のは厚木から逃げた個体の襲撃だから、どっちかっていうとゲリラ豪雨は外部からの強襲かなって」


……確かに、豪雨的にはそっちの方が、強度が高い。


「晴れはその後、まがりなりにも日常がすぐ戻って来て、そしてその後、エシェルは何かと協力してくれている」

「……こじつけだろ」

「秋葉にしては珍しく意固地に否定しているね」

「まぁ、わからないでもない」


そうなんだ。それを認めるとアスタロトさんは全部知ってて黙ってるという、ある意味怖い構図になるから、オレたちはきっとそれを知らない方がいい。

というよりも、人間は未来なんて知らない方がいい。


はっきり言って、そう思う。


知ったところで振り回されるのがオチだから。


そんな話を雑多とすると、忍も納得したようだった。なんとなくそうなんじゃないか、くらいで止めておく。未来予想図なんて、それくらいでいい。


「でも知ってて黙ってるんだったらお泊り会に招待しても面白そうだよね」

「いや、アスタロトさんはともかくエシェルが大変なことになる」

「……そうか」


何となく想像できてしまう。神魔が嫌いということで通っているが、実は嫌いなわけじゃないから、オレたちの手前、笑顔のアスタロトさんを「人間として」邪険にできないエシェルの姿が。


「むしろオレが大変なことになる」

「そうだね」

「それを言われたら俺も気が気じゃなくなるから、そこは今まで通りきちんと線引きをしておこう」


今までがきっちり区分していたわけではないけれど、エシェルと会う時はなんとなくキミカズが一緒で神魔はいないし、ダンタリオンと会う時は無論、その二人はいない。逆も然りというやつだ。


「じゃ、予定通り終わったら集合で」

「送れそうだったら連絡する」


それが本当だったら、な話をただの雑談として流してそうしてオレたちはいったん解散した。

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