5.新宿地下(2)

「そして、忍が召喚者だということを少なからずの権力者たちには知られてしまった」

「非公式で発表とかしたんですか?」

「していない。けれど、少なくとも本須賀……代議士の本須賀も、本須賀葉月も知っているし、そこから漏れないはずがない」


一度やらかした人間は、徹底して警戒しているらしき清明さん。もっともやられていたことがやられていたことだ。看過できるはずはない。


「利用しようとする者もあらわれるかもしれない。そうなると厄介だ。……悪魔以上に」

「なまじ人間社会のことだから、輪をかけますよね」

「お前が危ないって言われてんの。素直に感想述べてないでもっと戦々恐々としてみたら?」

「そういえば、召喚用のデバイスはアスタロトさんに預けていたんだった」


そういえばじゃねーよ。今の清明さんの話だと、オール オア ナッシングみたいな感じで何もなければいいけど、何かあったらすごくやばいってことだよ。


「司はしばらく忍の警護に徹してくれるか? 忍も慣れた人間の方がやりやすいだろう?」

「むしろ何も変わらないから緊張感はなさそうですね」

「その言い方。いいことなのか悪いことなのか、微妙」


司さんはきっちり仕事モードな上に事の重要性を理解しているので、表情から全く気も抜けていない。「わかりました」とはっきり意思を返している。


「日常の延長であれば、不自然さはないからむしろそれがいい。忍もGPSはこれからちゃんとオンにしておいて」

「……常にオフになってることよく知ってますね」


現在位置を把握するための忍自身のGPSは、忍の脳内にある。故にバッテリー消耗をするだけのスマホのGPSは必要時以外はオフになっているわけで。


「でもスマホ自体持ち歩かないことも多いんですが」


予想の斜め上が来た。


「本末転倒すぎるだろ。なんで持ち歩かないんだよ」

「最近のスマホって画面大型化しすぎて重くない? ポケットとかに入れても邪魔だし、散歩くらいなら用もないし持ち歩かないよ」


情報部にいながらにして、現代の必須アイテムともいうべきそれを邪魔扱いとは……

しかし、依存症も増えている現代だから、そこで切り分けるのは使いこなすという意味では間違ってもいないのかもしれない。


「俺たちが使う小型の専用機を渡すから、それは持っててくれ」

「落とさないかな」

「どこまで手ぶらでいたいんだお前は」


特殊部隊……警察の実働部隊だからそれくらいは当然あるんだろうけれど、小型は小型で妙な心配をしている忍。


「忍の位置把握は任せるから」

「なんか見張られてるみたいで微妙だなー……」

「そんな感覚でGPSオフにしてるんだろ。ステルスしたいんだろ」


わかってきた。


「でも司さん、どうしたって通勤時とかプライベートな時間は別行動それなりに多いですよね。どうするんですか?」

「……しばらく、泊りに来るか?」


まさかの提案来た。


「忍と森は親友だったね。いいんじゃないかな。そういうことなら、エシェルのところで合宿やってもいいし」

「それ、キミカズの意見だろ。本人に了承も取らないで合宿って何。怒られるの?」

「そうしたら僕と秋葉も参加できる」


完全にキミカズの希望に入っている。

うん、まぁ清明さんも疲れてるだろうから、気が抜ける場所が欲しいんだろうけど……


「俺はシフトの関係もあるからやるなら週一くらいにしてください」

「毎週末はフランス大使館に集合か。決めておけば問題ないだろう」


問題ありまくりだよ。家主が全く会話に参加してないし。


「護衛という意味では鉄壁だ。司に術師である僕、そしてエシェル」

「ある意味人間相手に最強なのはわかるけど、それ、とってつけただけだろ」

「というか、エシェルが日本の内政干渉に値しそうな、召喚者の護衛とかしてくれるわけはないのでは」

「……天使って言うのは忘れてないけど、どうもそこは失念するね」


清明さん、けっこう天然だよな。キミカズとして明確な時はそうでもないんだけどブレンドされるとそんな感じの時がある。

それほどおつきあいはないが、前回のフランス大使館の「プリンか杏仁豆腐か」の時の忍との会話がオレには忘れられない。


「けど、なんだかんだで力になってくれる」

「頼るのはどうかと思いますが、まず有事が発生しづらい状況だろうから反対はしません」


そんなわけで。

忍はしばらく司さんの監視下……管理下……じゃなくて、なんといったらいいのか他に言葉が思いつかないんだが、少し一緒に行動することが増えそうだ。


日常のそれは変わらないのだろうけれど。

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