EDOへ参る(6)ー異常で正常な思い出
神魔が街歩きをするようになった日本の新スポット、EDO。
オレたちも初散策で、港に向かっている。
「今日はショーがあるらしいよ。入り口に書いてあった。もうすぐかな」
何のショーかと問えば、海戦という。なんか本格的だな。
島なので、割とどこからでも海の方が見えるので、ものすごく混んでいるという感じでもなくオレたちは小高い丘の上に出た。
「海戦っていうか」
「海獣が」
「いや、怪獣だろ」
どうみても船VSモンスターの構図がそこにあった。
「間違っている。色々と」
「ショーじゃなくて神魔が飛び入りで日本海軍と戦ってみるというオプションみたいだよ」
「船沈みますよ!?」
「船の方にもボランティア参加の神魔が乗ってんだよ。絶対沈まない」
EDO……むちゃくちゃだろ。
内湾では怪獣大決戦が始まってしまっている。
黙示録の獣のごとき怪物に、海は荒れに荒れまくり、余波で津波が島を襲ってくる。
「きゃー!」
丘の下の方で見ていた人間の小町娘から悲鳴が上がる。
当然のように、それは防波堤のような見えない何かで目の前で高くしぶきを上げただけで誰の上にも降りかからなかった。
「大迫力!」
「あれどうやって勝敗決めるの? 船の方……」
「大砲乗ってるぞ」
ドン!ドン!と鈍い音を立てて、モンスター……じゃなくてどこかの神魔のヒトに向けて砲撃が繰り出される。
「CGですか?」
「うん、もうここまで来ると意味わからなくて笑うしかないね」
さすがオプションだけあって、制限時間制だったようだ。15分ほどで何事もなかったかのように船も神魔のヒトも陸に上がってきた。
「……ナニコレ。ここだけ異世界感」
「いや、面白かったよ?」
「運がよかったな。あれはけっこう手間だから、年中参加するやつがいるわけじゃないんだ。見る方が面白かったりするから、今日はアタリ」
怪獣大決戦見ただけだよ。江戸関係ないよ。
「この節操のなさが日本人ていうか」
「どっちかっていうと、いまいち方向性が分かってない感じが、政府のやること、みたいな感じだよ」
「いい得て妙だね」
しかし、しぶきを浴びるほど近くで見ていた人間も大興奮だ。アトラクションで水被る系でテンション上がる人には溜まらないだろう。実際しぶきも被りはしていないが。
「吉原とかあるんですけど、これは一体……」
「ダメだろそれ! どこまで節操ない再現なの!?」
「吉原?」
「非合法なアレだよな? 女の人売り払ったり……」
「ぶー。それははずれです」
さすがにアスタロトさんの知識もそこまで飛んでいなかったらしい。というか興味の問題か。なんか近年のコミックや何かのイメージで、あまりいいイメージはないんだが……なぜか女子二人から答えが返ってきた。
「元は幕府公認の花街だよ。廓(くるわ)ともいうんだっけ」
「娼館も確かにあったみたいだから、イメージ的には混沌としてるんだろうけど……江戸時代の歌舞伎町かなぁ?」
いや、全然違うと思うよ?
花街って言うとそれもオレのイメージと違うけど、花魁とか芸妓メインの場所みたいだ。名前の通りさぞかし華やかな和服に身を包んだ女性が見られるだろう。
「芸妓遊びとかさせてくれるから、さりげに神魔に人気だぞ」
「お前……行ったんか」
「異文化理解」
「庶民の生活の方が気になるから、通り過ぎるくらいでいいんだけど……あぁ、そういえばボクは忍に召喚してもらえば、過去見でホンモノが見られるんだった」
ちょ、アスタロトさん。それ一番希少な観光。むしろもはや時間旅行状態。
「過去を見るってどういう感じなんですか? バーチャル的な?」
「場所を見る場合は実際行くのと同じ感じもできるよ。でも現代の状況を知っているとそこに行くこと自体に違和感があるから、これくらいでいいかな」
なんかさりげなく凄まじい能力の話が流されている。
もちろん、見るだけだろうし誰かを連れて行けるわけでもないから「その程度」くらいの認識なんだろうけど……
「アスタロト、明日の株価はどうなっている」
「情報と心理戦でチャレンジ中なんだろう? ボクに聞いてきたら手数料破格でもらうけどいい?」
「だから何の話?」
「あーあれな、ダンタリオンの遊びすぎてる話だから聞かなくていいんだ」
ものすごく真剣な顔しているが、遊びは真剣にやれということだろう。
そんなふうに一周してゲートに戻ってきたのが、3時くらい。
「意外と見どころあった」
「あとは野良犬がいれば演出として最高だった」
危ないだろそれ。
忍と森さんは満足したようだ。
特に何もないといえばない一日だったけれど、それなりに面白く。
「パンデミックな何かが明日起きれば株は暴落するな」
「今の状態だと社会が崩壊する方が先じゃないか? FXやってる暇あると思ってるのかな」
魔界の公爵二人が珍しく肩を並べて歩く姿がオレ的には一番、印象的だった。
司さんと森さんと忍の着物姿もめちゃくちゃ新鮮だったんだけど。
なんでいつもと大して変わらない姿の方が記憶に残るのか。
オレの記憶、捲き戻れ。
なんてちょっと、思いながらもまた異常で正常な思い出が増えた日だった。
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