南の自衛隊一日入隊体験(9)ーレジェンド
「かっこいー!」
「公爵もがんばってー!!」
どういう応援だよ。
とにかくそんなことをやっているものだから、どんどん前後の差が縮まっていく。ラスト一周に入った。
「もうこれ、罰ゲーム以上の激しさじゃね?」
「でも最下位はチーム全体が罰ゲームだったわけで。蹴落とそうとする組と、防衛組に分かれているわけで」
いつのまにかゴール付近に集まる出番のないオレたち。
「ゼロ世代同士で蹴落としとか……オレ、見たくなかったよ」
「醜い争いを仕掛けているのはごく一部だから。それかただの遊びだから」
そうだな、足引っ張るとかガチ戦闘じゃ全くないもんな。ただの遊びだよな。
そんなただの遊びも、運動神経が半端ないとものすごいことになっている。
「白熱してるなぁ」
「南さん、特殊部隊ってすごいですね」
自衛官の皆さんも、初めて目にする特殊部隊の本気の遊びっぷりに目を見張って感心している。
「連れてきた甲斐があったな。あいつらには俺の好きだった職場も見てもらえたし、お前らには今の仲間も見てもらえたし」
まとめに入ってますが、そもそもそういう趣旨でしたか? 南さん。
「南さんは満足そうだね」
「一人で次元の違うところにいるからな。一佐って言われてたけどそれって何?」
「軍で言う大佐だったか中佐だったか……よく知らないけど、南さんは管理職だったんだねぇ」
ゴール地点。ほとんど横並びで駆けこんで来るアンカーたち。
ゴールテープが切られた。
……知らない内に。
「…………………………えーと」
その端を持っていた自衛官が立ち尽くす。
「すみません、早くて誰が一番かよく……」
「オレだよ!」
「俺だ!」
本気の競技ではないので、審判員などいるはずもなく。
自己主張の強い組が勝者として手を挙げている、
「醜いぞ、お前ら! わからないのであれば、みんな仲良く一等賞でいいではないか!!」
宮古が小学生っぽいがいいことを言っている。
ぴたりと、主張が止まった。
「そして最後尾からここまでやってきた人間に敢闘賞でもくれてやるべきだろう!!」
「お前は自分が何かをもらいたいだけだろう!」
「誰だこんなリレーを始めたやつは!!」
主張組から八つ当たりという名の暴力を受けボコボコにされている宮古。
防衛組は大人しく、バトンを自衛官の持つ回収ボックスに収めて解散を始めている。
「すっごいもの見ちゃいましたね、先輩!!」
「一木……何興奮してんの?」
「いや、なんか特殊部隊の人たちも一緒に体験に来たら、ぐっと距離が縮まって見えたって言うか」
お前があそこに入るのはあらゆる意味で無理だ。近くで聞いていた南さんが低めの一木の頭を若干強めにがしがしとかき回した。
「ははは、彼らだって人間だからな。ああいう一面があるのも当然のことだし、自衛隊と同じでこの厳しい訓練を乗り越えた頃には、それなりの絆というものが生まれているってことだ」
厳しい訓練って言うか、もうリレーの印象強すぎてあれほど印象強かった昨日の輸送機の印象も吹っ飛んだよ。
概ね他の参加者から自衛官までみんな同じような感想だろうが、誰もかれもとても感激した顔をしていた。
この後に。
昼食をはさんで午後の課業と、放課後に値する課外訓練があるわけだが、そんなものは運動会のラストを飾る、花形のリレーには叶うわけもなく。
問題さえ無ければ罰が下ることもなく。
マジメに授業を受けて、マジメじゃないヤツは罰を受けて、なんとなく中学生気分を味わって。
自衛隊の一日体験入隊は幕を閉じることになる。
のちにこの日の一件は「バトルリレーロワイアル」と命名され、護所局、自衛隊の間で伝説的な出来事となった。
普段身体を使わないオフィスワーカーには、地獄の筋肉痛を残しつつ。
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