南の自衛隊一日入隊体験(8)ーバトルリレーロワイアル

しかし、一周程度では差が縮まらないと判断したのか帰ってくる南さんからのOKサイン。

拡声器でルール変更が告げられた。


『ルールの変更だ! アンカーの特殊部隊は3周がノルマになる!』

「……よっし、見てろ京悟。絶対追いついてやる」


もう半周位離れてるんだが。遠目に司さんのげんなりした表情(かお)が見えた。

そんなことを言っている間に、距離の開いていた4,5番手のバトンが渡り、6番以降は団子状態。


しかしゲームはここからだった。


「ふっ、因縁とはこのことか……白上、御岳、今日が己の最後の日と知るがいい」


5番手の宮古が不敵にそう受け取ったバトンを握りしめたその時。


ズシャアアァァァァァァ!!!


ありえないくらい見事にすっころがった。


「ごめんな、オレ、足が長くて」


御岳さん、あなた小学生ですか。

ふつうに足を引っかけたようだ。そして団子状態の後続、迫る。


「大丈夫ですか、宮古さん」

「浅井さん……なんていい人なんだ……宮古まで助けようとするなんて」


とオレは遠目に思ったが、見てしまった。浅井さんが助け起こしたと見せかけて、トラックの内に向かって宮古を突き飛ばすのを。

というか実際は突き飛ばされたというほどではない。立ち上がった背をちょっと押した程度だ、が。


「おっと、と……めまいが……」


ふらりとしたその先には司さんがいて、司さんは華麗にそれを御岳さんの方に向かって払いのけた。


「おわっ」

「ぎゃあー!」


宮古を起爆剤にして前走者ともども、文字通り団子状態になって何人かが転がった。

ほとんど同時に自チームのバトンを受けて、スタートを切っている司さんと浅井さん。

すごいところで第一部隊のコンビネーションプレイが出た。


「とりあえず俺は最下位にならなければそれでいい」

「俺もです。共闘で行きましょう」


目の前を走りすぎる時にそんな会話が聞こえる。アクシデントが起きてこそ、盛り上がるのがリレー。……年齢層が上になるほど、転ぶ率が高くなるよな。今のは違うけど。


さすがトップレベルのゼロ世代だけあって、あっという間に第四走者まで追いついた。オレはよく知らないが、前は前で橘さんが狙われていて、そのせいでスピードを落としている。後続が抜ける可能性は十分だ。


が、その丁度間にいる第四走者がダンタリオンだった。


「ツカサ! まさかオレに妨害をしかけてくる気じゃないだろうな!?」

「公爵が何もしてこないならしませんが。というかそのコートがすでに後続妨害なんですけど」


走りながらしゃべっているので、割と声が通る。聞きながらそうだな、と完全同意しかない。翻る黒のロングコート。すごく、邪魔だ。


「掴んでいいですか」

「ダメに決まってるだろう!」

「司さん、先に行きま……あ」


これは不測の事態なのか。ダンタリオンを抜くために加速した浅井さんは翻るコートをすり抜けた際、視界を遮られたのかバトンを接触させてしまう。


「……と」


体勢を崩しながらも落としかけたバトンがトラックに着く前に拾う。一番早い素質があると聞いていたが、なるほど、随分小回りがきいてそうな動き方だ。そのまま減速しないで走れる体勢を維持する。

ダンタリオンの方はというと、後ろから抜きに来た浅井さんと接触したのでバトンは……


「くっ」

「すみません、公爵!」


当然後ろに落ちるわけで、前にバトンを飛ばしてしまった浅井さんはそのまま抜き去ったが、振り返らざるを得ず。


「……ツカサ」


次の瞬間に、自分の持っていたバトンが司さんの手の内にあるのをダンタリオンは見る。


「落とし物ですよ、公爵」


そして有無を言わさず翻ったコートをそのバトンでトラックに縫い留める司さん。


「うおぉぉぉ! ふざけんなぁ!」


こうなるとバトン自体がもう武器だ。トラックに深々と突き刺さったそれを抜くのに、ダンタリオンはタイムロスすることになる。

振り返った時に嫌な予感はしてただろうけども。そんな服装してリレーに参加する方が悪いよ。


しかし、先ほどの浅井さんの接触は、アクシデントなのかそれとも……


始めのコンビネーションを見てしまっただけにわからなくなってくる。

ともあれ、大番狂わせが始まっていたことに、歓声は止まない。


「しめさばぁぁぁ!! 後ろの二人を止めろぉぉぉぉ!!!!」

「しめさば言わないでください!」


猛追をしている御岳さんが3番手にいる人に声をかけた。あ、この人見たことあると思ったら、盗撮事件の時に御岳さんと一緒にいた人だ。

本名は不明だが、呼ばれ方が印象的だったのでよく覚えている。


「浅井さん! 隊長命令なのですみません!」

「いや、しめさばさっきから京悟さん狙ってたよね、けっこうやっちゃうタイプだよね」


浅井さんが非敬語になっている。浅井さんを目上っぽく扱う三番手のその人は、敬語でありながら、けっこうやらかす系の人らしい。ゼロ世代の個性が垣間見える瞬間。


「……」


牽制。

その間に一番手の橘さんと、二番手のどこぞの隊員が……バトンを使ってバトル状態になっている。なんだろう、これ。



リレー?



「すっげーな! 特殊部隊のガチ戦闘!」


いや、戦闘じゃないよ? 多分、遊び程度だよ?

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