7.EDOへ参る(1)ーみんなでおでかけ
EDO、と呼ばれるエリアがある。
天使が世界に現れてから3年が経とうとしているが、表面上、何事もない日常が戻った中で、一番大きく表面からして変わった場所だ。
お台場と総称される湾岸エリア。その沿岸には神魔の力で早々に「再興」したものとは違う新しい施設が出来ていた。
お台場、という名前の由来は文字通り「砲台があった場所」。外国船の襲来から江戸を守るために築いたといわれる大砲台の跡地だ。
ペリーが来航したのは横浜だが、これがあったために品川沖から引き返し、そちらに寄港したというのは、あまり知られていない。
というか、お台場がそもそも人口の大砲台跡地であることも、ほとんど知られていない。
当時は8つまで完成しかけていた島は今はふたつになっている。
そんな島のひとつが立ち入り禁止だったのだが、これがそっくりそのまま、しかもエリアまで拡張されて、一大観光施設となっていた。
「私、ここ来るの初めて」
「オレもだよ」
なぜか、現在の下町江戸っ子も真っ青な着物姿でオレと忍。
着物といっても、華やかな正装用のものではなく……着流しだとか時代劇でよくみる城下町のそれだ。
なんでこんなことになっているかというと、ここが政府が作り上げた「神魔のためのテーマパーク」だからである。
「私も」
「右に同じく」
これは森さんと司さん。
神魔のためのそれっぽい異文化体験施設ではあるが、人間の観光客も相当多い。
しかし、生粋の東京生まれは敢えて観光地に行くことはあまりない。
地元だから、いつでも行けるから、近すぎて特に興味が、など理由は様々だがこれはどの地域でも割と共通している現象だと思う。
「オレは二度目だな。けっこう忠実に日本文化ネタが入ってて面白い場所だぞ」
「アスタロトさんは?」
「こういう目立つ施設はあまり興味がないんだよね……でも、眺めている分には意外とおもしろい」
なんだろうか、この面子は。
よくわからないんだが、遊びに行くことになった。理由は特にない。たぶん、前回の忍の「どっか行きたい」現象に続き、みんな天使襲来とかで内心辟易してるんだろう。
今やることないし、でもじっとしてても落ち着かないし、息抜きした方がマシ。
みたいな現象じゃないかと思う。
魔界の貴族二人はよくわからないが、提案者とふつうに観光神魔だ。
「神魔ターゲットにした観光施設のわりに、日本人が多いな」
「日本人が入るときは、強制的に着物着用だろ? それが逆に無料で江戸情緒が味わえる、みたいな口コミで、ウケてるんだよ」
そう、オレたちの着物姿は好き好んで衣装を借りたわけじゃない。
人間は、神魔が雰囲気を味わいやすいようにセッティングされたエキストラなのだ。
江戸を模した街並みに、江戸文化の服を着た人間。
ある意味、ロケ地かというくらいの光景だ。
「各地にある江戸村とか、衣装貸出あるけどふつう有料だもんね。無料で貸してもらえるなら自撮りに励む人達はやっぱり来たがると思う」
あちこちで自撮りをしている日本人の姿が見える。
というか、明らかに神でも魔でもないなんか、和風なヒトがいるんだけどアレは一体……
「妖怪がいるんですけど」
「あれは観光神魔だな」
「いや、どうみても日本の妖怪なんですけど」
「人型を模せないタイプの神魔が、がんばって和風に決めてるってところか」
……頑張るほどではないのでは。
「アスタロトさんは着物着ないんですか」
人型神魔は意思を尊重されているので、服装は自由だ。ダンタリオンは着流し姿だが、そもそも髪が黒かったり、パッと見、違和感がないので、スルーすることにする。
「ボクはそこまでしなくても、見てるだけで十分だよ」
「この奥ゆかしさ」
「違う。オレの現地にさりげなく溶け込もうとする気遣いこそ真の奥ゆかしさだ」
……公爵服とか西洋ファンタジーで来られたら異世界感満載だわ。
それが違う意味で目立ってしまうのは重々承知なのだろう。アスタロトさんはいつものコートを肩にかけた格好だが、ダンタリオンのように派手ではないので、こちらはこちらでさりげに違和感はない。
「まぁでも、なんか写真を撮りたくなるのはわかるかな」
「オレを撮っていいぞ」
「ポーズ写真とかより雰囲気写真がいいよね」
女子二人にスルーされている……いや、ふつうにナチュラルな演出の方が好きという話を二人はしているだけなのだが。
「司くんと秋葉はあそこの団子屋に行って適当に何か買って、外の椅子で適当に食べて雑談してきて」
「それ撮ろうとしてるだろ。さりげに被写体にしようとしてるだろ」
「自然なのがいいよね」
わかったから。
「どうせ撮るなら女子の方が絵にならないか?」
「男女差別反対」
「いや、それふつう女子喜ぶところ。差別されてんの男の方」
撮られるのは嫌らしい。
「せっかくかわいいのにね」
「「……………………」」
だから、ことごとく一般女子と逆の方向で反応するのやめなさい、二人とも。
せっかくアスタロトさんが褒めてるのに、揃ってその微妙そうな顔。
さすがのアスタロトさんもその反応に、釣られたかのようにいつもの笑顔を収めて
「ボク、何か悪いこと言ったかな」
「言ってないです。この二人は大体こうなので気にしないでください」
女子って自覚に欠けるんだよな。別に僕っ子要素もないんだけど、敢えて言うなら何を基準に女子として見られるのかがよくわかってないんだろう。
司さんがフォロー……というか、事実のみを簡潔に述べている。
「たぶん、強制的に着替えっていうのもひっかかってるんだろうな」
「森さんは知らないけど、大学んときあいつ、女子は赤というお決まりの配色嫌がって、赤好きな男子と青いスタッフジャンパートレードしてた」
「女子という自分に違和感があるよね」
男になりたいとかではないので、趣味趣向の問題と確定する。
「着流しの方がかっこいい」
「Sサイズなら着られるのでは」
「コスプレになるからやめとけ」
いや、十分コスプレ状態なんだけども。
そういう趣向の場だから仕方ないだろう。神魔の人達をおもてなしする演出であって、人間はあくまでお迎え側だ。
悟らせるつもりはなかったが、そんな話をすると、あっさりふたりは納得した。
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