南の自衛隊一日入隊体験(2)ー@輸送機

「とはいえ、今自分も所属している特殊部隊は、警察ではあるがそういう意味では自衛隊に近い。現在の役割を比較するなら、市街戦は特殊部隊の得意とするところであり、都心外、野外戦は自衛隊員の十八番でもある」

「確かに、ゲリラ戦とか迷彩服とか野外なイメージ強いよな」

「迷彩服着て街をうろついてたら、目立つだけだし」


ぜんぜん「迷」彩になっていない件について。


「幸い……という言葉は適当ではないのだろうが、海外での戦争がなくなったことで自衛隊は縮小されはした。が、自衛隊は本来この国を守るための組織、今は国内の災害復旧や救援活動に専心することができている」

「そういえば大きな災害が起きた時は、自衛隊の人が配給したり行方不明の人、捜索したりしてますよね」

「戦闘とは程遠い活動だけど、戦争しないってそういうことか~」


それが正しい解釈なのかはわからないけど、そう言われると国内で戦車が出動しているところなんて天使相手の時以外、見たことないもんな。

初めて本来の存在意義を理解した気がする。


「しかし、思ったより緩い」

「ははは、いきなり訓練体験なんてふだん身体を動かさないオフィスワーカーにはきついだろう? 今日は楽しく体験して普段見てもらえないものを見てもらえたらいいんじゃないかと」


南さん、参加者じゃなくて自衛隊の人目線になってますよ。


「しかし、大規模戦闘を想定しているだけあって演習場は広いなー」

「街中じゃ戦車の大砲とか打てないし、スケール違うよな」


格納庫で戦闘機のスクランブル発進に湧いた後、やってきた演習場は地平線まで見通せそうだ。そこで装甲車や戦車に乗せてもらったり、アトラクションのように土塀につっこんでくれたりされて、合間に説明を受けていると、空から輸送機がやってきた。


「何か来た!!」

「明日の演習地まであの輸送機で送る手筈になっててな」

「マジですか!」

「すげー!!!」


なんだかんだ言って、戦闘機なんて見るだけでもみんなテンションを上げていた。今度は輸送機で空輸されるとか、もうこれ、体験としては一生ないタイプのやつだ。


バラバラと複葉のヘリ数機が機体を水平に保ちながら降下してくる。

降下した場所は少し離れているが、爆音と風がものすごい。


「実際輸送中ついでで、現役隊員も乗っているから分からないことがあったら聞いてくれ」


と、なぜか耳栓を全員が渡された。


「こういう形の、一時期海外産で有名だったよな」

「あぁ、事故よく起こしてたやつだろ」

「不吉なこと言わないでくれるか。それと輸送機と言っても 物資の輸送と人員の輸送、いろいろ用途があって滑走路があればもう少し快適な空の旅もできるんだが……」


え、むしろ南さんのその発言にオレ、不吉な予感を覚えるんですけど。


「人員の輸送って何人くらいできるんですか?」


忍の質問タイム。相手を知っているだけに気さくだ。小学生よろしくはい、と手を挙げて、南さんが向くのを待ってから聞いた。


「通常の航空機型だと100人以上は可能だ。内装は巨大なトンネルの中に白いエア式の緩衝材が張り巡らされているイメージで、そこにひらすら折り畳みで椅子が縦数列に格納されてる、という感じか」


100人乗っても大丈夫! ……100人も乗れるとかジャンボジェットでもないのにすごいな。

しかし、オレたちは物資の輸送も兼ねるこちらに、別れて乗り込む際に、その意味を理解した。


「こんにちは!」「お邪魔しまーす」と物珍し気に乗り込む面々。すでに椅子に座っていた自衛官たちは割と笑顔で迎えてくれる。


機体の壁(?)に設置されたのはハンモックのような網の椅子だった。これが人員専用機ならたぶん、もう少しグレードアップされているんだろうが「物資の輸送メイン」であることがなんとなくわかる。内装もさっき南さんから聞いたものより雑多として見えた。


「全員乗ったかー?」

「悪いけど、確認してやってくれるか。耳栓とベルト」

「南一佐、こちら完了です」


一佐って何。元の部下か何かだろうか。知り合いは多いみたいだったけど、うっかり現役時代の役職名で、自衛官の一人が報告している。


「じゃあ動くけど。これも体験だからな」

「え。どういう意……」


耳栓をしていても聞こえるしゃべりっぷり。その瞬間、機体が浮き上がり


「うわぁぁぁぁぁ!!」

「きゃああぁぁぁ!!」


オフィスワーカー各位から悲鳴が上がった。


「半端ない!なにこれ、半端ない!」


まず、椅子がハンモック状態なので安定しない。そして躊躇なしの離陸。ちんたら上がるどころの騒ぎじゃない。水平にも上がれるはずなのに、無茶苦茶斜めでみんな傾く。

悲鳴を上げていないのは、特殊部隊の人達と自衛官のみなさまだけだ。


「おー。アトラクションみたいだな!」

「絶叫コースターも真っ青だ」


むしろその程度の認識の特殊部隊の人達は笑顔さえみられる。「だけ」と言ったがそれから忍もそこに足しておく。

時間はそんなに大して長くなかったろう。爆音や傾きに戦々恐々としている中、爆睡してたり新聞読んでる自衛官にも驚嘆する。


むしろ慣れが怖いわ。



そして、本日の宿泊地に到着をした。

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