シフト表はこうしてできた(後編)
「……決めろと言われても」
静かになった部屋で、混沌とした希望表を前に、悩む。
下心……というかたまにはこんなおバカな出来心は同期としては仕方ないとして、問題は……
対象が司の妹と忍ということだ。
浅井は忍の人となりを少なからず知っているのが、あまりよくわからない上に司の身内である森の身に何かあったらと、案じてしまう。
……その点で、冗談抜きに信用できる人間を、組ませなければならない。
というか、全員希望をかぶらせてきている時点で、少なからず全員何かしらに希望を持っているわけで
誰も信用できない
結果、しばらく悩んだ挙句に司の当初の案に同意することにする。
一番信用できるのは己の身しかないという短い時間で出た結論。
……人間不信になりそうだ。
「組めそうか?」
「いや、いいと思いますよ……どうせ来月だけだし」
ふふふ、と悟りの境地で遠くを見やる浅井。
そう、再来月には通常運行に戻っているであろう。
「でも人数枠がまだ空いてますが、どうしますか」
「もう一度回してくれ。俺は何度か日を移動する。様子を見てしつこく食い下がるやつから落とす」
妥当だ。
というか、容赦ない。
「それって今相談した誰かとの話ですか?」
「あぁ、今話したのは忍の方だ。ここの事情に明るい方」
森と忍。当人のどちらに相談しても良かったのだろうが、納得。
「さすがエアさん……」
「ついでに下心満載のしつこいやつには、罰ゲームも決めた」
「え。罰ゲームとか。なんですか」
「知り合いの神魔の、ゴツムキマッチョな感じで、差し入れをもらったら二度と同じ気を起こさないようなみせしめにあってもらう」
みせしめとか。
これは司が言い出したことなのか、忍が言い出したことなのか。
敢えて浅井は判断しない。
これで間違いなく再来月分は、いつも通りの真っ当な希望表が出てくるであろうから。
度台、司の身内相手に下心を抱くなど、そこから間違っていたのだ。
それはつまり、司を敵に回すようなものなのだから。
わかってたけど。
「最近事件も続いてたし、みんな何かバカやりたかったんでしょうね」
「バカに飢えているのはわかる。ストレスが溜まっているのもわかる」
バカに飢えるという感覚は、女性にはわかりづらいものかもしれない。
忍や森はわかるかもしれないが。
男というのは時々どーしようもなくバカをやりたくなるものだ。
そして、女性に子ども扱いをされる。
そういう意味では、噴出タイプの花火の残骸に他の花火の火薬を詰めて、点火を試み同性の先輩に怒られた(?)という忍のとある夏のエピソードは、男の側に近いものがある。
忍や森は、点火した花火をもって逃げまくる男性職員を追いかけるタイプだ。
そういうのは大体男のやることで、女性職員はいいとこ笑って、参加はしてこない。またバカやってーという女性の比率は妙齢になるほど高くなる気がする。
ともかく。
そこは二人の遊び心でもって、更なるフォローを期待したい。
「普通ならストレスでもたまらない限り、こんなバカなことはしてこない面子だからな」
「司さんがバカバカ言う方がダメージ大きい気がしますけど」
「今後の職務に支障が出ると困るから、それは言わない」
お気遣いというべきか、大人の対応というべきか。
森が忍に似ているというのなら、司の方が大人役(ほごしゃやく)になるのは、妥当な選択なのだろうと浅井は思う。
「今回の件は、今回処理すればいいだけだ」
「その割り切りはありがたいと言っていいのか、合理的と言っていいのか」
苦笑、というか乾いた笑い。
司もため息を小さくついて、呟くように言う。
「みせしめまでが、バカの一環だろ」
「……確かに」
後日、そのみせしめを受ける羽目になったメンバーを笑って、終わる。
そこまで考えられているのかどうかは謎だが……
男なんて、そんなものだ。
浅井は消した苦笑を小さな笑いに変えて、希望表の挟まれたクリップボードを手に取ると、その部屋を後にした。
……なお、後日。
みせしめになった数人のメンバーは、しばらくマッチョな嫁が出てくる悪夢にうなされることになったという。
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