2.シフト表はこうしてできた(前編)
夜勤日勤、不定時間の勤務が存在する警察……とくに特殊部隊は、シフトの調整が必須だ。
毎月、先の希望を取って決めるが、家族がらみではずせない用事のある者などから優先される。
司は特に、そういったものがないので大体最後に回覧されて希望枠に名前を書くわけだが……
「なんで今月は白紙なんだ?」
全員回覧済であるはずのその用紙には、誰も希望を記入していなかった。
「珍しいですね、みんな予定ないのかな」
「そういう浅井は?」
「あ、俺ふつうに予定なかったんで後でいいかなって。……さっき返って来てびっくりしました」
これは一体どういうことなのか。
手近にいた人間に聞く。
「え? いや、ふつうに予定なかったんで後でいいかなって」
……浅井と同じことを言った。
その隣にいた人間に聞く。
「え? 俺も、ふつうに予定なかったんで後でいいかなって」
全く同じことを言った。
ちょっと飛ばして隣の係の人間に聞く。
「え? ふつうに予定なかったんで……」
不自然すぎるくらい聞いた全員が同じことを言ってきた。
最後に言われたのがこれだ。
「ほら、こういう時って夏休みの予定なんかと一緒で、上の人が入れてくれないと入れづらいじゃないですか。司さんからもう一度回してみたらどうですか?」
……何か引っかかるが、らちが明かないので適当に入れて至急のタグをつけて回しなおす。
返ってきた。
「浅井……」
思わず頭を抱えそうになりながら、それを持ってきた浅井に副長として意見を求めた。
「これは一体どういうことなんだ?」
全員が、司と同日に希望を入れてきていた。
正しくは、割れてはいるが、必ず複数個所でかぶっている。
「あーわかった。これ、差し入れ期待者じゃないですか」
「差し入れ……」
そういえば。
年末に鍋を囲んで、隊員と面識ができた森が、時々忍と一緒に差し入れを持ってくる。
夜勤にあたるときの軽食などだが、ちゃんと他の夜勤者の分もあって……
「それは、ここ数日で始まったことじゃないだろう?」
「えぇ。でも前回来たときに……」
そこで浅井は言葉を止める。
何があったのかは、言われなくても思い出せた。
定時で上がって合流し、帰りがてら差し入れに寄る。
少し遅い時間になると人も少なく、入り浸ることを覚え始めたあの二人は……ついでに仮眠室で休んでシャワールームを使って帰っていった。
「…………」
「まぁ、健全な世代の男子ですから」
沈痛な面持ちで額を抑えた司に、浅井は苦笑とともに声をかける。
この希望は、下心が見え見え過ぎる結末、というわけか。
「煽りあってるな」
「最初だけだと思いますけど、どうします?」
司は添削よろしく赤ペンを手にすると、シフト表に名前を描きこんでいく。
白上・浅井
白上・浅井
白上・浅井
白上・浅井
……希望表上で、夜勤コンビが出来上がった。
「司さん……」
気持ちはわかるが、一応、正副隊長が組んでその日以外に何かあったらと心配そうな様子。
「じゃあ今月は浅井が決めてくれるか」
「えぇっ!? 俺ですか!」
「それが一番確実だ。他にも何か方法がないか、ちょっと相談してみる」
相談? 誰と。何の。
いうが早いか私物のスマホを手にして、司は部屋を出ていく。
ここから、浅井のターン。
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