特殊部隊親睦会(中編)

「あれな、却下されそうだから局長に直接出しといた」

「お前は実行委員でもなんでもないだろうが!」

「今年はオレの十八番だから、活躍見せてやるぜ」


ものすごく順番を飛ばして一番上から許可が出ていたらしい。

その上、この口の利き方だと御岳隼人はやはり経験者組だ。


しかし局長許可が下りたからにはこの行事は続行だ。諦めて、軽く実行委員からの挨拶、組み合わせなどの発表後、3コートに分かれて試合が始まった。


「今回はトーナメント方式か」

「これ、早々に負けると暇なんですよね」

「早く暇になりたいが、負けると下位決定トーナメントに進むことになる」


やる気ゼロの司。しかしそれなりにみんな楽しそうなので人の楽しみに水までささない。

基本的に体を動かすことが嫌いな奴はここにはいない。


「今年の能力補正ってどうなってるんだ?」


隣に座って眺めていた実行委員に声をかける隊員。実行委員が答えている。


「経験者はレベルに応じて攻撃系の強化レベルの軽減。防御系は対戦相手が強化持ちになるので、危険回避のためにこちらはそのままですよ」


攻撃系の強化は単純な例を挙げれば「力」に相当する。それをなくしてもそもそもスキルがあるのでまぁ妥当なハンデだ。


「他の基本能力は?」


司が聞いた。


「スピード系については若干の減です。これもスキルでカバーできるとみなし。基礎体力も経験者の意見を聞いて、全部は削ってないです」

「……」


この情報が、意外と有益なことは、お遊び気分で参加しているだけの隊員は知らない。


「司、お前いきなり隼人と組まされてるけど大丈夫なのか?」

「橘」


司がやる気ゼロの理由。それはこの組み合わせに大きな原因があった。声をかけてきた橘……妙にメガネとテニススタイルが似合っている……は、心配してくれているようで少し眉が寄っていた。


「ふつう、部隊長クラスはトリだろう。なんでこんな二回戦くらいで当たるんだ?」

「トリも何も経験がないんだから、何の盛り上がりにもならないぞ。経験者同士を当てるんじゃ?」

「いや、ある意味司と御岳の対戦を楽しみにしている同期はけっこういる」


迷惑な話だ。第三者も介入してきて妙な盛り上がりを見せている。大体、経験者とハンデが同じだけでもおかしいだろう。橘もそれを心配しているのだ。


……下手を打つと、一気に下位転落の可能性もある。


「え、何? お前、経験なかったの? ハンデポイント高かったから、つい経験者かと思ってたけど」


現れるなり、ぷぷっと嫌らしい笑いをする御岳。

相当自信があるらしい。


「……形から入るタイプなのかと思っていたが、そのウェア、自前なのか」

「なんて失礼な言い方だ。テニスはいいぞ。ひたすらに球を追い、清々しい汗を流し、そして、女子にもてる」


清々しく前髪をかき上げるしぐさに、有志のギャラリー女子からきゃーと声が上がっている。……増々テンションが落ちる演出だ。


「マジメにテニスやってたヤツ。俺と交代して御岳をボコボコにしてやってくれ」

「無理です」


周りにいたほとんど全員に拒否られた。


「司さん、御岳さんは経験者だから強化が解除されてますよ。ねらい目は十分あります」

「そうか。それにしてもハンデが同じなのはおかしいから、防御系の強化も解除しておいてくれ」

「ふふん、テニスの貴公子と呼ばれたオレの球を打ち返そうなんて司でも100年早いぜ」


年に一度のスポーツ懇親会。

しかし、毎回競技が違うのでこんな展開にはあまりなったこともなく。


「なんだか、久しぶりだなぁこういうの」

「最近、大変な事件も多かったしな」

「訓練期に戻ったかのようだ」


ゼロ世代が和やかな目線でそれを眺めている。

なぜかうふふふ、と遠い思い出にでも浸るような姿が、それだけ近頃は大変だったということなのか、もう何か訓練時代の思い出したくないことまで思い出してしまっているせいか。各々の反応が若干違うのが、謎ではある。


特に三部隊に分かれてから御岳隼人という人間の制御役(主に司と京悟)がバラバラの配属になったため、第二部隊の隊員たちはことさら遠い日の出来事を眺める目線だ。


「大丈夫か、あいつらは」

「人の心配してる場合か? ほら、オレたちの番だぜ。楽しみ!」


何が。

しかし、その意味は割と早い段階で思い知ることとなる。


「司くん、どうしたのかな? このままだとオレのストレート勝ちになっちゃうぞ?」


地味に腹立つ。


決して司の腕が壊滅的というわけではなかったが、さすが経験者だけあって、御岳は相当に左右に振って来る。

むしろ、わざと振り回されているような状況だ。


「楽しいなぁ。司を翻弄できる日が来るなんて思わなかったぜ」


……それを自ら口にしてしまった御岳。


まわりが懐かしいな、ウフフという空気からはらはらしだしていることには気づいていない。


「お前、未経験者を駆けずり回らせて楽しむとか、趣味悪すぎ。周りの女子が引くぞ」

「幻滅されるのはお前の方だ。隼人さまのテニスの王子さまっプリを見るといい!」


見たくない。

御岳は大きく振りかぶって最初のサーブを打ち込んで来る。これを返してからが、振り回されるか否かの分岐点だ。

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