4.特殊部隊親睦会(前編)

大抵の組織では……なぜか勤務とは関係のない時間に、親睦会のようなイベントが開催される。

そして勤務時間外なのに、親睦が目的のはずなのに、なぜかほぼ全員強制参加なんて言うのもよくある話。


「今年のスポーツ大会は、テニス? ……やってたやついそうだな」

「いそうですね。割と平和的な種目に落ち着きましたね」


本当に平和なのか、特殊部隊という組織にとっては謎だ。

なぜなら、彼らは戦闘訓練を受け、強化などの神魔に対抗しうる術式も施されているのだからして。


「……本気でスキルのあるやつが打ってきたら、即死しないか?」

「頭とか致命的なところに当たらない限り、大丈夫じゃ?」


危なそうなら「避ける」という選択肢がある。

しかし、そこで避けていたらゲームにはならないわけで。


「それにハンデもあるでしょうし」

「あぁ、そうだな。経験者と有力者はハンデが……」


どんなスポーツでもゲームとして行う場合は、ありがちな気遣い(ルール)だ。

不利な人間が、あからさまに有利な経験者相手でも勝機ができるようにハンデでもって調節する。

そのハンデ表を手にした司の言葉はそこで一旦止まる。


「……俺のハンデが、経験者と思しき面子並みなんだが」

「司さん、テニスの経験ないんですか?」

「ない」


浅井がハンデ表をのぞいてくる。なるほど、ハンディキャップの数値は相当だ。


「……これ、誰が設定してるんですかね」

「今年の実行委員が関係者にヒヤリングして決めてるんだろ。あとは……」

「だったら仕方ないですね。司さん、戦闘という名の実践上、身体能力が高いから」


浅井が司を隊長、ではなく名前で呼んでくる時は同期としての感覚に近い。

はは、と笑ってはいるが……笑いごとでないだろう、これは。


「陸上競技系ならともかく、明らかにテクニックが必要なスポーツでこれはないだろう」

「意義申し立てしますか?」

「切実だ」


そう、この親睦会。

結末がけっこう悲壮なのだ。

男性ばかりの職場のせいか、年齢的に近い世代で固まっているせいか、



ものすごくバカな優勝商品が用意されたり、罰ゲームが用意されたりする。



優勝の場合は大して問題ないが、問題は下位に与えられる罰ゲームだ。

あり大抵に言うと、女装を課せられたりする。


………………なんだかんだ言って、二十代(男)の発想である。


「橘と御岳も逆ハンデ持ちだな。南さんは……年齢ハンデだろうか」


つまり、本来ハンデは不利な側に加算されるポイントなので、逆ハンデというのはトータルポイントからマイナスされる分だ。

なぜか、プラスではなくマイナス表記なのがまた、危機感をあおってくれる。


橘と御岳は幹部クラスなのが災いしてか、同じように逆ハンデを背負っていた。

が、同じ隊長クラスの南のハンデはそうでもない。


南増長(みなみますなが)氏は、30代だったか40代か。元自衛隊員だけあって鍛えられているが、年長者の分プラスになっている。

……何か、失礼じゃないか?


ともかく。親睦会は親睦会と言いつつほぼ強制参加なのでその日はやって来る。

時間外の練習なんて、よほど自信がないか運動音痴でもなければわざわざしない。

運動音痴がそもそも特殊部隊として戦闘に参加できるはずはないので、必然的に昼休みに中庭で球の打ち合いが始まる程度の話だ。


……この程度、というのが曲者で、球技が競技の場合、白熱してくるとうっかり庁舎の壁に小さいながらもクレーターが穿たれたりするので油断ならない。


「けっこうストレス解消になるな!」

「スポーツってたまにはいいよな」

「物品を破損させた奴は給料から差し引かれるからな」


司も誘われて参加するが、そこはきっちりと告知しておく。こんな時はすっかり同年代モードなのでゼロ世代の面子はあまり聞いてない。

手加減というのも、実戦において大事なスキルだ。


第二部隊の庁舎が心配だが、管理責任はすべて御岳にあるので気にしないことにする。


「いいなー私たちも参加したーい」


そんな特殊部隊のお遊びを、事務職員の女子が見に来る。

いや、絶対無理だろ。悲鳴上げる前に即死だろ。


そんなわけで、これはあくまで特殊部隊内の親睦会行事だ。

しかし女子の声援があるので、年相応に違う意味で俄かに盛り上がっている。


「俺、テニスって学校の授業でしかやったことないんですけど、結構面白いですね」

「基本的には個人競技だし、嫌いではないな。でもわざわざコートに出て練習に行くほどではない」

「司さんらしい」


当日は、世間一般的には休日。はっきりいって日曜出勤者もいるから全員参加は無理なのだが、そこは競技によって柔軟な対応が可能になってしまう。


* * *


そして日曜日。訓練場が、いつのまにか屋内テニスコートと化していた。


「なんで俺の管轄内に勝手にテニスコートが出来てるんだ?」

「それはな、ここが一番広いからだ」

「せめて許可くらい取ってもらえるか」


現在三部隊に別れている特殊部隊であるが、割と最近まで一部隊編成でここが本部だった。

なので必然的に施設的な面で、もっとも充実していて、対応の間口が広いのは否めない。


「あれ? 俺、利用申請出しておきましたけど届いてなかったですか?」

「浅井」

「見てません」


始まる前から何か波乱の前兆が起こっていた模様。

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