悪魔たちの遊戯+1(4)ールール無用

「お、お前いきなり何すんだ!」

「何って、公爵も散々アスタロトさんにやっていたことじゃないですか」

「そうだね、攻撃してはいけないというルールはないからね。……ダンタリオン、君、因果応報って言葉知ってる?」


博識ですね、アスタロトさん。

それより褒めてやるとか上から目線に対する灸が据えられ始めているだけだと思うが。


「知ってるよ! 忍に当たったらどうすんだ!」

「そのまま返します。とりあえず、俺が狙っているのは首から上なので、腕から下にいる忍には当たりません」

「お前それ、オレに攻撃したいだけだろ、当初の目的遠くに置きすぎだろ」


それは お前が 悪い。


「司、時間がないから一気に攻め落としてくれていいよ」

「いや、攻め落として何になるんだ!? オレが落ちるとどうなるって!?」

「公爵が倒れれば、忍は後から回収するだけなので問題ないです」

「お前が今日、一番過激な手段に出てるんだよ! ツカサ!!」


だから下手にいじっちゃダメな人だって大分前に言っただろうが。ダンタリオン、あの時お前はそれを承知したはずだ。忘れたのか。


己が教訓としたことを忘れる輩には大抵痛いことが待っている。


「そこでそのかっこで黙りっぱなしになってしまったお姫様、ボクが預かっておこうか?」

「ゲームの趣旨どこ行った!」


めっちゃ無表情になってるぞ。たぶんそれ、待遇不満なのかつまらないかのどっちかだぞ。

忍の処遇も気になるところだ。


ダンタリオンは司さんの連続攻撃に、お姫様抱っこの姿勢が崩せず避けるだけだ。

そうか、前にお姫様抱っこの非合理性について話したことがあったけど、これがそうなんだな。

両手がふさがり、かつ、重い。

この場合、重さは関係ないだろうが下手に両手をふさいでしまったので、態勢も変えづらいという悲劇。


「アスタロトさん、お姫様は自分から屋根からダイブしたりしません」

「うん、今やっちゃダメだよ。回収がさっきより大変だから」

「じゃあ司くんと公爵の戦いの行方を静観しようと思います」


静観って言うかもう、ただハンモックに乱暴に揺られている状態だよ。

アスタロトさんも参戦してないけど、下手に手を出すと司さんの矛先向きそうだからなんじゃないかと思う。

そこまで空気を読まない無粋なヒトではない。


って


「……アスタロトさん、運動は?」

「あぁ、司から本気で攻撃されるのも面白そうなんだけど、あとあと遺恨が残っても困るし、この状態も面白いからもういいかな」

「この状態が面白いってなんだぁ!!」


モニター越しにアクロバティックなパルクールを存分に堪能したオレは、すっかり傍観者と化しているアスタロトさんにモニター越しに話しかけたが、応えは例によって例による。


「じゃあボクも参戦しようか? さっきみたいに二対一で?」

「やめろ、この状態で事故とか言って別の場所攻撃されたらオレは死ぬ」


回避より加減なしの攻撃の方が得意そうな魔界の公爵が、精神的に重傷を負いかけはじめている。


そして、司さんは……


ヒュオッ


「刀はやめろー! ってかどっから出した! さっきまで持ってなかったよな!?」

「公爵たちが空中戦で、足場のないところを足場にできるのが可能なら、こちらが所持した武器を使うのもルール内かと」

「ルール内ならいいってもんじゃないの! 自分で真理にたどり着き、正誤を判断するのが賢明なやり方だろう!」

「つまりルール無用ということでOKですか」

「OKじゃないわ!」


ダンタリオン抹殺の判断が下されそうになっている。

そうだねー。そもそも争奪戦相手に褒めて遣わすとか何様だと思うよねー

ただでさえ、強制参加のゲームだし。


その時。


ピピピピッ ピピピピッ


いつ仕掛けられていったのか、タイマーが鳴った。


「時間だね」


通信越しに聞こえていたのか、アスタロトさん。


「なんだ、最後はダンタリオンが勝ちか。延長します?」


オレはなんとなく提案してしまう。


「これで勝ちとか、腑に落ちないわ! ってかツカサ! もう一撃放ってきそうな構えを解け!」

「忍を楽しませたら勝ちじゃなかったんでしたっけ?」

「ルール捻じ曲げんな。全然楽しそうじゃないだろ、もう」


それな、お前のせいだ。


ダンタリオンは司さんが動きを止めたことでようやく忍を解放するが……腑に落ちないのは司さんと忍もそんな感じだ。


「つまんない」

「いや、お前は盛り上がってたよね!? パルクールのあたり」

「なんだっけ?目的。遊び?運動?」


そう考えると忍にとっては何ひとつラスト付近で消化されていない事実について。


「ストレスが溜まった時は運動をするといいよ、はい」


いや、今まさにそれやってたはずなんですけど。

そう言いながらアスタロトさんは忍を司さんに渡した。小荷物のように。


「?」

「延長戦。君が逃げてるパターンがなかったから、10分行ってみようか」

「!!」


微笑むアスタロトさん。

げんなりとしたダンタリオンは参加するのかしないのか。


それが冗談であったのか、人外レベルのパルクールは続行されたのか。




その後の展開を語ることは、避けることにする。

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