悪魔たちの遊戯+1(3)ー争奪戦

ダンタリオンの居場所はこの真上、そして……


「!?」


アスタロトさんの姿が消えた。ように見えたが、一瞬遅れて窓の方を見ると、窓の外で司さんが忍をキャッチする一歩手前だった。

コマ送りで見ないとよくわからない速さの出来事だ。


落ちる忍。受け止める寸前の司さん。そして一気にこちら側からそれをかっさらうアスタロトさん。


「!!」


司さんの手は空を切った。


「だからボクの居場所の真上だって言ったじゃないか」


アスタロトさんはそのまま忍を片腕に抱えたまま、足場のない中空で反転して、みっつほど離れた部屋のバルコニーの上に後ろ足から着地した。


さすがに足場のない空中戦は特殊部隊でも無理なので、建物から離れすぎないというルールは司さんが参戦するにあたっては理に適っている。

基本、身体だけで移動できる場所で遊ぶ趣旨のようだ。


ていうか、これ、遊びか?


珍しく、ちょっと悔しそうな司さん。


「司! それくらいよく聞いとけ!」

「……」


ダンタリオンが追い打ちをかけている。これ、何かの訓練なの?いや、もう訓練状態だよね。

オレの認識が甘かったのか、司さんのスイッチが入ったようだ。

ダンタリオンも交えた、半空中争奪戦が繰り広げられている。


「なかなか速いね。忍は君に協力的だし、ダンタリオンより要注意かも」

「ふざけんな。人間は何もない空中で反転は出来ないんだよ。それだけでもこっちが有利だろが!」

「それは同じスタート地点だったら君が不利になるって言ってるようなものじゃないかい?」


えっと、これなんだっけ。

忍がちょっと前にやりたいって言ってたやつ。


オレは何かを思い出しかけている。

障害物をものともしない追いかけっこ。


「結局屋外戦か~パルクールみたいで面白いわ」


そうだ、パルクールだ。

自分の周囲にあるものを使って、走ったり跳んだり、あらゆる方向に移動を行い、特に強化など受けていない人でも、建物の上から飛び降りたり障害物を乗り越えたり……スピード感と芸術性すらあるスポーツのようなものだった気がする。


動画で見たことがあるが、まさにこれだ。移動高低差は比べ物にならないけども。

というか、忍、なんて余裕なんだ。


「庭だと平地だし、建物内はある程度広さが必要だからね。まぁ想定内かな」


アスタロトさんも余裕だ。

これ、アスタロトさんから忍を奪い返すの無理じゃないだろうか。

ダンタリオンの時と違って、忍が面白がっていて協力的だというのもある。


協力的というか、いかに忍を飽きさせないかが大人しくさせているポイントでもある。


「えぇい! 吹っ飛べ!」


ダンタリオンの攻撃! アスタロトさんは片手でそれを払いのけた!


「ってか、人間いるのに攻撃するやついるか!? 馬鹿!」

「バカってなんだ! 実際ほこり一つついてないだろうが!あんなもんなあいつにとっては目くらまし程度にしかならないんだよ!!」


なんか、本気になってきてるけど、お前さっき「吹っ飛べ」って言ったよな?


ある意味、三つ巴になっていてオレの中継は今、必要ないので通信機を通して会話のみしている。


「うーん、でも片手が使えないっていうのはけっこう辛いかな。二人同時に来られると……」


と言いながら、巧みに移動と牽制を続けているアスタロトさん。

一方で遂に遮へい物のない屋根の上に上り詰めてしまう。

ちなみにアスタロトさんの忍の抱え方は、ふつうに片腕に固定式で、小荷物扱いではない。


「これで追い詰められたっていうんじゃないのか? 曲がりなりにもツカサの洞察力は伊達じゃないぜ?」

「公爵に褒められると複雑なんですが」


思わず本音が漏れている司さん。ダンタリオンと、二人で挟み撃ち状態に追い込んでいる。

さりげなくアスタロトさんは退路をうかがっているようだが……横に逃げる。のは、飛び降りる前にどちらかに進路をふさがれそうだ。


動き出したら足を止めた時が危ない時だろう。


……なんて、バトル並みの真剣実況になりそうな白熱した状態と化している。

やはりこれは、ゲームではない。


ダンタリオンが正面から仕掛けた。


「うらぁ!」

「君、そんな声出して攻撃してると脳筋だと思われるようになるよ」

「メンタリスト設定活かしてみたらどうでしょうか、公爵」


忍がアスタロトさんのマスコットオプションみたいになってる件について。

躱すその後ろからあくまで司さんは忍狙いなのだが、ダンタリオンの側に体を向けられているので手を出すのが難しい。


なんか、騎馬戦とかって相手のハチマキ取ったら勝ちなんだっけ?


いろいろなスポーツゲームがオレの脳内をよぎりだした。


「っと」


もはや「攻撃」と化しているダンタリオンの拳を空いている右手で受ける。

当然左は、空いていないのでにやりと笑ってそちらも狙うダンタリオン。

次の瞬間、アスタロトさんは左腕で抱えていた忍を器用に反転させて肩に乗せると左腕で攻撃を払いのける。


……今まで前向いたまま抱えてたのもすごいんだよ。たぶん、後ろ向きにすると忍が飽きるからだと思うんだけど。


しかし。


「!」


その隙をついて司さんが、当然に自分の側に身を乗り出す形の忍の腕を引こうとする。

想定内。前を向いたまま、身体ごと横に傾けて避ける。


……なんかアスタロトさんて魔法あんまり使うイメージなかったけど、すごい回避能力だよ。全然後ろ見てないのに360度見えてる感じがするよ。


だがそこは相手は二人組だ。そして、最小の動きで躱してはいたが、支えがない忍の方にアクシデントが起こったりするわけで。


「あ」


再び左腕で攻撃を払いのけた瞬間に、左肩に乗せていた忍は羽織られていたコートとともにずり落ちた。


「よっしゃぁ! 奪還!」


ゲットしたのはダンタリオンだった。


「……いつも肩掛けにしていたから、コートごと落ちることは失念していたよ」


いや、今まで落ちなかったのが不思議なくらいです。

屋根の上に落ちてしまったコートから軽くほこりを払う仕草をしながらアスタロトさん。


「ツカサ、よくやったぞ。褒めてやる」

「……」


うん、司さんが割と後ろから気を逸らしたりしてたからな。

コンビネーションとは言わないが、どっちが拾ってもおかしくない状況ではあった。が。


ヒュッ!


「うおっ」


次の瞬間、凄まじい勢いの一撃がダンタリオンめがけて繰り出された。

なぜか余裕しゃくしゃく戦利品をお姫様抱っこなんてしてしまっていたダンタリオンは危うくそれを躱すのが関の山だ。


攻撃は頬をかすめて、余裕の表情を引かせている。

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