悪魔たちの遊戯+1(2)ーゲーム開始

「……」


1分が長い。


「まぁ5分あれば結構遠くまで行けますよね。ってダンタリオン、何見てんだ」

「シノブはGPS機器オフにしてんだよな。何かあったらどうすんだ」

「文明の利器に頼ってんじゃねーよ。何かあったらどうするってこの場合、全然いらない心配だろうが」


制約を受けている悪魔と、強化を受けている人間。

約束の5分が経過して、それぞれが動き出す。

その間は気配を探るなどもNG項目にしていたため、はじめはかくれんぼ状態だ。


まず、各々忍をみつけるところから……


すぐに司さんが帰ってきた。


「どうしたんですか」

「秋葉。秋葉だったらここで真面目に参加して忍を探す気になるか?」

「すみません。愚問でした」


やはり不承不承なのでやる気はないらしい。


「でも元々アスタロトさんのヒマつぶしっぽいお遊びだし、付き合いきれないっていうほどでは?」

「いや、だから誰かが忍を見つけたら、それを追う側で参加する」


そうだなーそれも一つの手だよな。

むしろ忍を最初に捕まえたヒトが追われる側になるんだから、追う側の方がいろんな意味で序盤は有利な気がする。


ガチャ。


ドアが開いた。集まる視線。


「「……」」

「忍……」

「すぐ誰か来ると思ったんだけど、来ないから戻って来てみた」


いや、お前どこにいたの? 最初は完全に追尾できない条件あったけど、魔界の公爵二人躱して戻ってきたの? ていうか


「5分の猶予時間は一体……」

「灯台下暗しも、基本だと思うんだ」


つまり、割とすぐそばの部屋に隠れていたらしい。


「司さん……これ、連れてここ出てないと、何言われるかわからないフラグですよ」

「やる気ないっぷりがバレバレになってしまうね」


ため息をつきつつ司さん。忍の方に向かっていくと……例によって小荷物状態で脇に抱えた。


「……司くん」

「路線変更だ。早々に見つけてもらって、どちらかに受け渡す」


そしてまた、一休みをするつもりらしい。


「えと、行ってらっしゃい」


司さんはドアの前で一呼吸入れると、バン!と扉を勢い良く開けて廊下を左に向かって全力疾走していった。


「……あーあれ捕まえるの、確かに神魔でもけっこう運動になりそう」


無論、常人には無理だろう。

割とすぐに、離れたところから叫び声が聞こえてくる。


 「みつけた! 発見者はお前か、ツカサ!」


ダンタリオンだな。そっちの方にも大きな階段があったから、その辺りで争奪モードに移行しているんだろう。廊下でやり取りをするより、派手な音と叫び声がする。

主に聞こえてくる音声はダンタリオンのみだが。


そして、しばし。


静かだった。制限時間はとりあえず、30分で様子見をしている。

それから屋敷のどこからも騒いでいるような音すら聞こえてこなかった。


ガチャ。

再び、扉が開く。入ってきたのはアスタロトさんだ。


「どうしたんですか、アスタロトさん」

「あぁ、全員の動向が掴めない。司が忍を連れているなら、ダンタリオンが騒ぐだろうからおそらく今、忍が捕まっているのはダンタリオンだろう。想定外の膠着状態に入ってしまって」


言葉の意味は半分わかる。司さんが追われているならダンタリオンが騒ぐ、しかしダンタリオンが追われる側なのに、誰も騒がない。

この後半をアスタロトさんはどう解釈しているのか……


「ルールの追加をしよう。秋葉、君にも協力してもらうよ」

「え!? 協力って…何かできるんですか?」

「ここをモニタリング室にして見ててくれるかい? で、今みたいに誰も動いていない状態になったら適当に中継して」


あぁ、状況を動かす係ですね。

ここに来た理由は新ルールの追加のためか。


アスタロトさんは通信用の石を手に取った。


「聞こえるかい? ダンタリオン」

『なんですか? アスタロト閣下。全然追ってこないけどもー?』


してやったりな声は聞こえた。


「君が忍を連れて5分以上動きがない。司も全く動く気がないようだ」

『……』


これ、司さんにも繋がってるな。微妙な感じの沈黙が伝わってきた。

直接責めたりしないのはアスタロトさんなりの配慮なのかなんなのか。

ともあれ「誰も騒がない」の意味は理解した。司さんはきっとどこかの部屋で様子見に徹しているんだろうことは、アスタロトさんが見抜いている。


「そこでルール改訂だ。ボクはスタート地点の部屋にいる。秋葉にモニタリングをしてもらって適度に『おいかけっこ』が成り立つように中継してもらう。常に回線をつないでおくから、会話もお互いに入るからね」

『いくらオレが見つからないからって自分に有利になるルール改訂はないんじゃないかー?』

「君のいる場所くらいお見通しだよ。ボクらの真上、つまり屋根の上だろう?」


……オレは窓を開けて上を見上げた。

確かにいつもの派手な貴族っぽい格好をした黒コートの姿と、抱えられた忍の姿がある。

しかし。


「司にもやる気を出してもらわないとボクが本気で遊べない。そのためのルール改訂だよ。それから3分以上同じ場所にとどまるのもNGにしよう。というか、君のところのお姫様、そろそろ退屈で非協力的になると思うけど」

『!』


アスタロトさんの声を聴きながら再びオレは高い屋根の上を見る。

そう、忍は自由意志で動いていいことになっている。つまりつまらないと感じたら……


「誰でもいいから早く代わってくださーい!」


自ら脱出するのもあり、声を上げて居場所アピールするのもありなのだ。

そうだよな、ただ抱えられただけでずっと同じ場所にいてもつまらないもんな。

忍はそういう趣旨で参加したわけだから。


「司、君もいいかい?」

『わかりました』


振り返ると、いつのまにかモニタリング用のモニターがセッティング済だった。

ボール……もとい、忍のいる場所を中心にどういう仕組みでか、時々周囲に視点が切り替わる。


「なんかオレも参加してる感じ」

「ただここで待つより面白いだろ? ……司が動いたね」


さすがに今度こそ「参加」の方向で腹をくくったのか、バルコニーに姿が見える。この部屋から外に向かってちょうど左下くらいだ。窓から見れば直接見えるだろう。


そして、次の瞬間


『こら、シノブ、暴れんなー!』


声とともにモニターを見ると、その位置を確認した忍が飽きさせたダンタリオンのもとから脱出を図っていた。

というか、屋根から自由落下をしてしまっている。


「!」


しかし、声をあげなかったのはそれを司さんが待ち構えているからだ。

多分、忍も狙ってそっちに移動を決めたんだろう。


しかし、遊びで身投げを選ぶとかお前、どんだけ安全装置が周りにあると思ってんの。

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