15.その先へ

「情報局の仕事はどうなってるんだ? レクチャーの方は一通り終わったんだろう?」

「予定より早く及第点が取れたんだけど」

「アスタロトさんか」

「予定より早いので、予定まで魔界の大使館に出向しているつもりです」


……。


進捗状況、完了しましたで報告してないだろ、お前。


「ヒマだから、秋葉か司くんのところ手伝いに行こうか」

「……すごく有り難いけど、自分の仕事は?」

「自分の仕事は概ね理解したから、それより他のことがしたい」


すっごい単純明快だなーーーー……


「外交の仕事はいつも見てるだろ、書類整理とかお願いできるの?」

「嫌いじゃないけど、どうせならもっと未知の世界がいい」

「そんな世界ないから」

「じゃあ秋葉のとこはいいや」


しまった。手伝ってもらうように誘導するんだった。


「司くん……」

「特にない」

「嘘だ、絶対そこは忙しい」

「何を根拠に?」

「御岳さんのところに行けば、すぐわかるはずだ。そっちに行ってみよう」

「………………やめろ」


どういう意味でか、止めている。


むしろ歓迎されるんだろうが、面倒なことにしかならなそうなのはオレにもわかる。

主に司さんが。


「そうだ、宮古さんのところに行こう。監察とかちょっと面白そうだし」

「だからやめろと言っているだろう!」


嫌がらせにしかなってこない。

もっともそれは……


「じゃあ、司くんのところで何かない?」


ここでYESと言わせる布石だ。

ちなみにNOの選択肢はない。


「仮眠室の掃除とか」

「いや、お前変わったことしたいって言ったよな? そこまで行ってなんで掃除なの?」

「掃除は割と好きだから」


うん、知ってる。

一度情報局の忍のデスクを見たことがあるが、明らかに周りの人と違っていた。

未処理の書類はすべてレターボックス内で分類されていて、文房具も常に使うペン以外はすべて引き出し。

引き出しの中に無駄なものはなく、電話を取った瞬間にメモ用紙すら引き出しから出す始末。


どれだけ物ないんだよ。


そう、それは片付いているを通り越して必要最低限のものしか置かれてませんという感じだった。


一方で、ミニ観葉植物とマイポットは常駐だ。


「それは専門の人がいるから」

「仮眠室だったら、いろいろ持ち込んで住めそうだよね」

「……暮らすの? そこ拠点化するつもりなの?」


やりそうで怖い。


「司くんのところは、夜勤があるから家電も給湯室内のIHも、シャワーもベッドも一通りそろってるんだ。レンジは休憩室にある」

「なんでチェック済なんだよ」

「秋葉、ホテルに着くと忍が一番にすることは何か忘れたか?」

「……」


探検ですね。


「ただ、俺はいつそれをやられたのか知らない」

「監視カメラチェックしてるの、誰」


司さんではないだろう。


「人の家はやらないよ? 公共の場所だから探検してみただけで。ちゃんと許可も取ったし」

「いつ、誰に」

「南さん」


それって部隊別れる前の話だよね。

大分前だよね。


っていうか、一番何も考えずにOK出してくれそうな人に許可取ってるよこの子。


「こういう時だから、都心を離れちゃダメだとは思うんだけど……」

「司さん、こいつOKださないとこれ、関東圏外に行っちゃうフラグですよ」

「関東圏内だっていいんだけど、駄目だと思うと行きたくなるよね」


わかるけども、一番危険なパターンだ。


「ギリギリで日帰り圏内だろう」

「……ギリギリ日帰りってどこまで行けるの?」

「……」


東京は、交通網が発達しすぎていて、新幹線にしろ高速道路にしろ、どの方向にでも行けるのがポイントが高い。


「6時間くらい現地滞在するとして、朝7時出発、2時間圏内で9時から15時、帰着が17時。……結構遠くまで行ける気がする」

「待て、調べるな」

「でもそういう忙しい行程好きじゃないんだよね。一泊するくらいの余裕は欲しい」

「普通に旅行にでも行くの? お前」

「お土産、何がいい?」


もう行く気だ。

こうなるとこいつは動くのが早いぞ。


「どこに行くのかも決まってないのに土産とか」

「日程、森ちゃんと相談しよう」

「だから待てと言ってるだろう!」


もうそのつもりはなかったと思うのだが、司さんが白旗を挙げた。


「なんでそこで森が出てくるんだ」

「いろいろあったし、リフレッシュしたいかなって」

「…………ちょっと連絡してみるから、待ってろ」


え、それどういう展開ですか。

完全に白旗ですか。

司さんも一緒に行っちゃうフラグですか。


ちょっと離れて何事か話していたようだったが……


「泊りに来ていいそうだ」

「……伝言ゲームじゃないんだから、趣旨を捻じ曲げなくていいんだよ」


無理やり都内にとどめる作戦だった。


「まぁいいや。じゃあ近くにお邪魔します。旅行の打ち合わせに」


なんの解決にもなっていなかった。

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