14.日常は止まらない
要石の破壊は、止まった。
当然に、修復も進む。
結界は、網目のように張り巡らされ、その交点を石が結んでいるらしい。
度重なる破壊に、新たに敷設しなければ、それが緩んで自壊の可能性もある、というのが現状だった。
割と、恐ろしい事態になっている。
そんな時だから、それなりに戦力になる本須賀は、特殊部隊が手元に置いて監視する意味もあり謹慎処分を受けるだけで除名されてはいないらしい。
この際だから、どこか全く関係ない場所に飛ばした方がいい気もするが、代議士の方が何の罪にも問われていないので権力を持ったまま。
除名に至るまでの、証拠がないというのも理由のひとつだった。
本須賀の言っていたことの半分は嘘。
オレたちに消させようとしていた文字は、要石を守る意味での呪印であったようだし、監視カメラは当然のように人を瞬間移動させる力を持った悪魔相手には意味を成してはいなかった。
「少しは反省してるんですか」
「さぁ、本須賀は南さんの管轄だからな」
謹慎なんて甘い。
オレも忍も思っている。
むしろオレが謹慎命じられて、おうち時間を満喫したいわ。
……しかし、どこにいても何かしらやることをみつける忍はともかく、オレは長く続かないだろうおうち時間。
やっぱり外の空気がいい。
「反省だけならサルでもできる」
「それは形だけだろう」
「形すら反省しない人間もいるよね」
「……うん、まぁそうだな」
天気がいいので、日差しが暖かい。
なんとなく、本須賀の話題を避けていたが今日は聞いてみた。
南さんは大変かもしれないが、司さんの下じゃなくて良かったよ……
多少の情報は入って来ているかもしれないが、思い煩うほどではないらしい。
やってたことは犯罪クラスだけどな!
「結界が全部敷設されるまであと2か月だっけ?」
「全部再構築するらしいから、それまで現状を維持しつつだし、大変だと思うよ」
確かにあれ以来、清明さんともキミカズとも会っていない。
術師は裏舞台でものすごく動いている人たちだから、今が正念場なんだろう。
「なんかさ」
ぼーっとしそうなのどかな日向でオレ。
「することないよな」
「ないね」
「……」
通常勤務、つまり日常が戻っていた。
にもかかわらず、なんだこのぼんやり感。
全然平和だとも思えない。
実際、平和そうな裏に何があるか知ってるからこうなるんだけども。
「することないっていうか、できることないっていうか」
「お前は何もしなくていいんだ。とりあえず、今は何もないんだから大人しくしててくれ」
「……司くん、私はけっこう大人しい方だと思うけど」
ある意味な。
目の前を、OLという名の妙齢の女性たちが通り過ぎていく。
昼休み。
大体、あれらは、そこにはいない人のことを話題にしていたり、愚痴っていたり、そして大きな声で笑っている。
すべてがそうではないが、大体、3人以上になると声が倍になり、比例してしゃべる量も倍になり、その中身は半分以下になる。
わけもなく手首のスナップを効かせて人の肩を叩いたりしてくると、おばさんとお姉さんの分岐点を左に向かって進んでいくことになる。
そういうお年頃だ。
それを見ていると、忍は確かに大人しい。
と、いうかそういう意味ではさっくりしていて付き合いやすい。
「大人しいって言うか、静かなのが好きです」
「知ってる」
「自分でそこ、訂正するところなの? 大人しくないって自分で言ってることになるけど」
「秋葉」
何か、哲学的な問いを投げかけられる予感。
「大人しいって何ですか」
ほら来た。
「大人しいって、漢字で書くと大人入ってるよね。しいっていうのは一体何なの。大人らしいのら抜き言葉なの?」
「……考えたこともないって」
「私もだよ」
それを今、疑問に思って一気にそこまで辿り着くところがすごいわ。
「どっちにしても、大人っぽいとかそういう意味だよね。そうすると本来は子供に向けられる言葉なわけ? 大人みたいに静かで落ち着いている子供ですね、という感じで」
「知らないよ!」
「……そうすると残念ながら、私は大人しくない」
いや、静かで落ち着いているけども。
「そうだな、お前の行動範囲は子供並みだからな」
「迷子になった時用に、待ち合わせ場所はいつも決めてあった」
「どんな子供時代だよ」
迷子になる前提なのか。
お前の親、すごいわ。
「探すと余計見つからなくなるからって」
「……それな、山で遭難した時は動くなとか言うやつじゃなくて?」
「ある意味、迷子って街で遭難するようなものじゃないかな」
その通りだ。
「暇すぎて、疑問しか出てこない」
「……お前、いつも余暇をそんなふうに過ごしてんの?」
オレも疑問だわ。
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