11.答え合わせ
「概ね正解」
宿題に口述でレポートを提出しました。
アスタロトさんは、特に表情を崩さず、そういった。
ダンタリオンの公館。
その一室にオレたちは集まっている。
オレと忍と司さん。アスタロトさん。大体いつものメンバーだ。
ダンタリオンはまだ来ていない。
ので、今はまだ、司さんの方に大きくだろう関わる本須賀のことを話す段階ではなく、そんな話をしていた。
「だからボクはあまり介入しないし、必要でなければ時間見の力は使わない。下手に動くとリスキーなこともあるからね。……そんなことしなくても、魔界は実力主義だから、上位悪魔に下位の輩は逆らうこともできない」
「下剋上とかは」
「よほど力をつければありなんじゃないかな? でも下手に争いを起こせば叩かれるのは目に見えているからね。人間社会も一方的に戦争始めると国連が介入してくるだろう?」
今、国連とかないと思いますけどね。
なぜこのヒトは人間社会の仕組みにこんなに精通しているのだろうか。
「それ以前に、魔界では格の違いはイコール命の重さの違いと言ってもいい。いくらネズミが騒いだところで、獅子には勝てない。……疫病でも蔓延させない限り」
「そこで可能性を残すところがすごくらしいですよね」
「感心するところはそこなのか?」
今のは、アスタロトさんも今思いついたみたいな感じで付け足したから、本当に可能性の問題なのだろう。
大体、獅子がネズミを襲うかも怪しいが、そうなったらネズミは逃げるしかないだろう。
そういう意味では、わかりやすい。
「悪魔相手に過去や未来を知っていて損なことはないけれど、立ち回りに余計な神経を使う羽目になるから、微妙なこともある」
意外と、本人にとっても扱いやすいとは言えない能力のようだ。
多分、その気になったらフル活用するんだろうけど。
「でも説明しなくても一瞬で通じるっていうのは便利といえば便利……?」
「一方的には読めるけど、会話にならないから逆にボクが説明する羽目になる。ボクが自分の都合で動く分には問題ないけど、双方向で意思疎通が必要な場合は、場合によっては不便」
それもあって、忍はあの時説明を一瞬止めたんだろう。
読んでもらった方が早いと。
本来的にはそういうことは嫌いだが、本須賀の方の過去を読んだことで、アスタロトさんは忍やオレの記憶は読まなかった。
あの時は、そんなところだろうか。
「まぁ、使いどころだね。どんな力でもそうだけど」
どんな力を持っていても、使いこなせなければ意味がないというのは人間でも共通見解だ。
……世の中、いろいろままならず、文明の利器に振り回されている人は、結構多い。
「待たせたな。やっぱり怪しいのはハルファスだったんだと?」
ダンタリオンが現れて、珍しくソファに座っているアスタロトさんは振り向きもせずに言う。
「さも怪しいと思っていた発言はやめてくれないかな。あの時、軽率だと君に言ったのはボクなんだけど?」
あの時。
そんなに時間は経っていないので、割とあっさり思い出した。
どこかで聞いたことのある名前だと思ってたら……
ハトかカラスだ。
「やっぱり、あの鳥事件の」
「……要石の事件に、あの時、姿を戻せなかった悪魔が関係していたんですか」
今の時点で、司さんには誰がどう関わっていたのかは話していない。
全員そろってから、ということで悪魔が関わっていたことと忍がアスタロトさんを喚んだことしかまだ、話してはいなかった。
ここからが本番だ。
「まぁな。姿が戻らなかったのは、何度も結界のほころびと修正が繰り返されたり、天界の奴らが出入りしたことで、この辺りの磁場がおかしくなっていたのが原因だったらしい。だからそっちは大して問題じゃなかったんだが……」
魔界に戻したらあっさり姿は戻った、とは聞いていた。
何度も忍からハトだと思って餌……もとい、食事を提供されていた悪魔からは、忍宛に菓子折りまで届いていたという顛末。
……犬小屋で保護されるよりはそりゃマシだろけどさ。
ダンタリオンはソファではなく、自分の執務用の机について組んだ手をそこへ乗せる。
「あの時ははっきりわからなかったから、名前を伏せていたけれど……その内の一人。ハルファスという悪魔が関わっていた。そもそも彼が来ていた時点で、要注意だとボクは踏んでいたわけだけど」
「なぜ?」
「滞在神魔もいるっていっただろ? ハルファスは元々要塞だの塔だの建築関係に秀でているんだ。荒れた街の復興要員で来てたんだが……」
街が何度壊れても、何事もなかったかのようにすごいスピードで修復される。
それは、神魔のヒトたちがほぼ力を使ってくれているからで、あの悪魔もその中にいた、ということか。
「オレも違和感はあったんだ。あいつは善意から人間界に来るような奴じゃないから」
「だったら君は彼の動向をしっかり監視すべきだったね。大使として」
「……こっちから要請かけた都合もあるんだよ。指名したわけじゃないしな。だから違和感というのは訂正する。珍しいとは思ったくらいだ」
まだすべて聞いていないにもかかわらず、危機管理レベルの差を感じる。
「元々危険な悪魔だった、ということですか」
司さんが聞く。
話は順を追っていくだろう。
オレや忍よりも司さんの管轄に近いので、任せることにする。
ダンタリオンが答えた。
「そうだな、あいつは戦争屋だ」
単純明快な説明。
シンプルすぎてわかりづらい。
「シノブ、七十二柱にハルファスは存在しているだろう? 説明してやってくれ」
「私が知っているのは能力と人間の間で伝わる記述くらいですよ?」
「いい。違ってたら直すし、補足する」
自分たちが一から説明するより、忍に説明させた方がオレたちにわかりやすいと判断したのか、アスタロトさんも任せている。
……七十二柱だったのか。
あの時点でオレたちは、あの悪魔が何なのかわからなかったから、今日の説明を待つつもりでいたが、七十二柱であれば忍のデータベースにも入っているはずだった。
「ハルファスは、序列38、26の軍団を指揮する伯爵。さっき公爵が言ったように、戦争の専門家で能力は築城、塔の建設だとかに秀でている。一番多い記載はこれくらいだけど、戦闘要員を、瞬時に的確な場所へと配置することも可能であるとも言われていて……」
「……それで、本須賀を石のところに直接運んだんだな」
「……本須賀?」
あ。
しまった。つい納得して相槌を打ってしまったが、司さんはそこはまだ全く話が通っていないところだった。
順を追って話すつもりが、いきなり本題に飛んでしまった。
「……本須賀葉月。彼女が『石』を破壊して回っていた人間側の犯人だ」
こうなると、アスタロトさんが説明せざるを得ない。
オレたちはその辺りはまだはっきりとわからないのだから。
「!」
さすがに驚きの色を隠せない。訝しそうに聞いたその後、険しい顔になる。
「それは、どういうことですか」
「だから、順を追って説明するよ」
そして、アスタロトさんがまず簡潔に概要を述べはじめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます