4.転移
「ここどこ!?」
「ですから、その重要施設内です」
どこでもドアですか。
ドアを抜けた瞬間にどこか知らない場所にワープしたよ。
これ、大丈夫なのか? 本当に大丈夫なのか?
と、周りを見渡すと……監視カメラがある。
なぜだかほっとした。
「この建物は、新宿駅の東側に位置しています。地下四層の非常に広い場所なので、迷子にならないでくださいね」
「……新宿駅近って、ほとんどビルとか地下持ってると思うだけど、それより深い場所ってこと?」
「むしろ地下鉄もあちこち通ってるだろ。相当深いってことじゃないのか」
それくらいオレにだってわかる。
新宿駅は各方面からの電車のハブ・ステーションで地下改札も存在する。
それらが縫いまくっている地下より深い位置でないと、そんなに広大な地下空間は確保できないはずだ。
「……」
「忍―? と、まさかの案内図か」
詳細は記されていないが、非常口へのルートだけがシンプルに記されている案内板があり、忍はそれとにらめっこをしている。
「大丈夫ですよ。ちゃんと案内しますから」
「いや、あれただの習慣だから」
こうなると本須賀に頼るしかないというのが複雑なところだが、そこからいくつか段数の少ない階段を下りて、どんどん下る。
「なんか、もう四階分以上降りてない?」
「半階も多いんです。作りが複雑なので。あと、広大な空間は四層までで、それ以下は狭いです」
全部で四層、という意味じゃなかったのか。
忍はこういう時、黙って辺りを見回している。
ただ歩くのではなく、無意識に周りを確認しているんだろう。
「それなりの場所なので、幻術のトラップも通りますので離れないくださいね」
いつのまにか、辺りの様相が変わっていた。
はじめに要石について聞かされた、清明さんに呼び出された場所に似ている。
無機質で近代的な施設、というより呪術的な要素の強そうな文様があちこちに描かれているし、配色も白と黒の曲線を用いた雰囲気で、何と言ったらよいのか現代的ではない。
「ここです」
そして、辿り着いたのは……
「すみません、見るからに結界とかお札とか、何か封じられてるっぽいんですけど」
「えぇ。ちょっとこのお札、取ってもらえませんか」
「取れるかぁ!!!」
そんな簡単にこんなもんに触れるわけないだろ。
明らかにこっちが黒焦げになるとかペナルティくらうに決まっている。
「冗談ですよ。ほら、行きます」
そして本須賀は閉じたままの扉に向かって一歩踏み出す。……消えた。
「あいつの冗談、こわいよな」
「……この扉も幻術なんだろうか」
触ろうとした忍にやめろと言って、背中を押すと前のめりになった姿がそのまま消える。抵抗が消えた勢いでオレも一歩踏み出す、とまた違う部屋にいる。
いや、今の部屋の中、か?
暗闇に沈む部屋。
その部屋の中央には、紅の光を静かに放つ、拳大ほどの石があった。
幾重にも。
幾重にもその周りを光の糸が網を張るように取り巻いている。
台座の周りに柱が四本。
そこを基点に四角い形状で、それは封じられていた。
いや、守られている、が正しいだろう。
これが何かは説明されなくても、なんとなくわかった。
「これ……ひょっとして」
「えぇ、『要石』です」
「関する、どころじゃないだろ。石本体あるところにオレたち連れてきてどうするっていうんだよ」
そう言うと本須賀は少しだけ呆れたようにオレを見た。
「オレたち、っていうか本来なら忍さんだけをご招待するつもりだったんですが」
「うん、そうだな。でも今回、オレ忍に頼まれて一緒に来てるから」
素直に言うと、今度は少し驚いたように目を丸くした。
「そうなんですか?」
「そうだよ」
「……まさかあなたが近江さんを誘うとは思いませんでした」
どういう意味?
「まぁいいです。話は簡単。この台座に文字が書いてあるでしょう?」
オレと忍はそれを見た。
何語だろうか。
はっきりいって読めない。
「これを消すお手伝いをしていただけませんか」
「……消すとどうなるわけ」
「この要石には『もうすぐ壊れる』という呪いがかけられています。その文字は起爆条件のようなもので」
「そんな危険なもの、絶対術師の人が気付くだろ! 特殊部隊よりそっちが先だろ!」
「えぇ。でも私たちには触れられないんです」
絶対おかしい!というオレの申告はあっさり却下された。
「触れられない?」
本須賀も特に動じるふうはないので、話は進む。
「そうです、霊装を受けた人間、それから神魔も触れられないようになっています。それは、より強固にこの石を守るために張られたこの部屋の仕組みでもあり。……要は、普通の人じゃないと消せないんです」
「……」
内部犯に神魔が関わっている可能性はほぼ決定だから、それはありだろう。
そして、霊装もそういった力に近いものがあるから、それも弾くようにできている。
この部屋自体がそうだ、ということなんだろう。
忍は膝をついて読めもしない文字をじっとみつめている。
しばらくして、ぽつ、と口を開いた。
「やっぱり確認はしたい」
「なんのですか?」
「清明さんか、南さんに連絡を取らせてください」
はっきりと忍はそう告げる。
「……残念ながら、電波は届きません。ここはあらゆる干渉物を排除してありますし、監視カメラも有線。そのカメラの前を通って来たじゃないですか。事態は一刻を争います。この状況で、私を疑う余地が?」
「というか、どうして私をこんな大役に選んだんですか」
「それはもちろん、あなたが信頼に足る人だと判断したからです。例えばここを出ても、秘密は洩らさない。口の堅い人」
「……」
そういう意味では適任ではある。
が、忍は表情を崩さなかった。
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