3.新宿御苑

都内某所。

というか、新宿御苑。


「……ピクニックでもするんですか」

「なんで敬語になってるんです? 近江さん」


休日。

オレたちは本須賀葉月と会っている。

指定された待ち合わせ場所は新宿御苑だった。


新宿御苑は都会のオアシスで、手入れがとても行き届いた巨大な緑地だった。

天気のいい休日ともなれば家族連れが芝生広場で遊んでいたり、憩いの場というイメージだが、各種庭園や、歴史建造物もあったりして実は観光地にもなっている。


入園料も小銭程度必要なことから、逆にそれをケチって入ってくるようなマナーの悪い人も居らず、空気は平和そのものだった。


「いや、重要な話があるっていうからもっと何か殺伐としたものかと」

「私と忍さんにどんなイメージもってるんですか。乙女の会話を聞きたがる割に、失礼ですね」


いや、これオレが悪いの?

お前と忍さんって言うか、お前にそう言うイメージがあるだけだよ。

己の所業を百篇振り返ってみろ。


「乙女」

「そこはお前がつっこむところじゃないの。失礼だと思うなら悪かったよ。あ、忍は全然気にしてないから謝らないぞ」

「今日は乙女の会話なんですか?」


本気で聞き返すな。


「乙女の会話で重要な話……すみません、コイバナだったら私より秋葉くんに相談してください」

「いいから! そこ気を使わなくていいから!


なんだと思ったんだよ。

忍は天然のボケではないが、故にむしろ、何らかの可能性が発生するとそれも視野に入れてしまう人間である。


「近江さん」

「はい」

「……白上さんの好きなものってなんだか知ってますか?」


……それって、司さんの? 森さんの?


マジでコイバナだったらどうすんだこれ。こいつ謝罪したら今度、司さん狙いだしたとかだったらどうすんだ。


オレにも余計な可能性が思い浮かんでどっと嫌な汗をかきそうな気分だ。


「そういう相談なら、私はこれで」

「冗談ですよ。忍さん、重要なお話ってここから移動した先でしますから」


ガッ。と、本気で踵を返した忍の腕を、本須賀の細腕が思い切り握って止めた。

……忍は動けないらしくそのまま止まってしまっている。


「移動?」

「えぇ。ここ、大事な場所なんですよ」


そういって、本須賀は先に歩き出した。

と言っても、どこへ向かうのか。


オレたちはただ、着いていく。

そして着いたのは日本庭園、……の裏側だ。


「……この先、菊栽培地? 立ち入り禁止みたいだけど」

「あ、それフェイクです。地図見ました?」


地図、は入園料を払う時にゲートのところにあった。が、当然、持ってきていない。


「はい」


当然のように、忍が持ってきていた。


「……随分広い立ち入り禁止区域だな」

「ですよ。不自然なくらい広いでしょう」


そういわれると、地図上の広さだけでも他の庭園と同じくらいの広さにわたって立ち入り禁止になっている。

栽培地というだけで緑に塗りつぶされていて、他に何があるというわけでもなさそうだ。


「ここに何があるの?」

「じゃあここで、お話してからにしましょうか」


こんなところで話すのか。

結局、日本庭園に据え置かれたベンチに腰かけて、話を聞くオレと忍。


「重要なお話。正直、近江さんが来ると思わなかったんですけど、近江さんも要石のこと知ってる人だから、ここまではいいかなって来てもらいました」

「!」

「何……そんな話……?」

「えぇ」


本須賀はそうして、ベンチの後ろ……立ち入り禁止の何もない場所を肩越しに振り返った。


「単刀直入に話しますね。ここから、要石に関する、とある施設へ入ることができます」

「!! お前……どこからそんな話……」

「知ってますよ。これでも特殊部隊ですから」


これをどうとらえたらいいのか。

確かに、要石に関わる場所は、死守しなければならない場所。

そう考えると、術師や神魔、特殊部隊の間で情報共有が図られていることは想像できる。


が、二期生である本須賀まで知るべき話だろうか。


「近江さん、顔、こわばってますよ」

「そりゃ、いきなりそんな話されたら……今日オフだし」


適当にごまかす。

忍はそこは今、追及する気はないようだ。話を聞く姿勢になっている。

オレの方を見てから、本須賀へ視線を向けて、それで?と短く先を促した。


「それで……忍さんには協力をしてほしいんです」

「協力? 何の」

「何かはそこへ行くまでは、お話しできません」


突然の選択。

これ、まずいんじゃないだろうか。

本須賀は単独で動いているのか、それとも何か任務で動いているのか。


どう考えても前者にしか思えないので、司さんに確認をしたいが……

いや、

南さんか。しかしどの道


「近江さんもです」


この状況で連絡とるとか、絶対に無理だ。


「そして、この話を聞いたからにはそこまでは一緒に行ってもらいます」

「……断るという選択肢は」

「一応、現場を見てもらって、その上で判断してもらっていいですよ」


顔を見合わす。

現場、というからには重要施設内だが、だとしたら監視カメラにしろ結界にしろ、なんらかの方法で厳重に監視されているだろう。

それが逆に、安心の種になる。


見張られているということはつまり、守られているということだ。


「ちなみに現場を見て断ったら?」

「……どうでしょう。断られることは想定していないんですが」


忍がおかしな確認をしている。

本須賀も断られる想定がないということは、自分にとってはやましくないということか。


深読みしすぎたろうか。

ともかく、ここで断る余地はないらしいので先に進むことにする。


ベンチから立ち上がって、立ち入り禁止区域の中へ。

広大な植物の栽培地を進むと小さな建物が見えてくる。本須賀はそこにまっすぐに向かうが、外から見た感じ、作業用の道具を置いておく倉庫のようだ。


カチャ、と扉を開け、入る。


「!?」


次の瞬間、オレたちは全く見覚えのない場所にいた。

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