2.本須賀葉月の誘い

忍の平等、とは博愛ではなく見分けあんまりついてません、程度の認識だ。


「情報の取引してるんだ」

「!」


宮古進は特殊部隊に所属する監察。

つまり諜報部員のようなものだ。

詳細な事前調査が必要な事件は、まずそこで探りを入れて確定情報が入ってから、実働部隊が動く、という形なのは知っていたが……


「なんてことしてるんだお前、あいつの持ってる情報って曲がりなりにも割とやばい事件がらみだろ?」

「いくら情報収集が好きだからって、凶悪犯罪とか興味ないよ。そうじゃなくて、そこはもっとこう平和的な……」


平和な事件てなんだよ。


「でも例外もあり」

「……アフロと引き換えにお前は何を手に入れたんだ」

「それは宮古さんに聞いてほしい」


ほんとにな。

先日はオレも一緒につかまって、例のごとく髪型の話になっていたが、その時アフロだのモヒカンだのおかしな方向で話は終わった。


あいつはその後、一体何かを手に入れることができたのか。


まぁ、オレには関係ないけど。


「で、森ちゃんにも絡んで来るし、例の『石』の件についてだけは深入りしてたの」

「!」


街中。

人目があるので、石、とだけ言う。

それは要石のことだろう。結界をもう三度も壊した「石」への誰かによる干渉。

現在は内部犯と言われているが、どうも人間以外も関わっているらしく、それ以上のことは聞いていない。


「何かわかったのか?」

「いいえ、なんにも」


だからなんで敬語テイストになるんだよ。

忍はそこではぁ、とため息をついた。


「ただ、やっぱり権力者が絡んでるみたい。だから捜査が進みにくいんだって。どこかから切り崩さないと進展は難しいって言ってた」

「誰が?」

「宮古さん」


……あいつでも真っ当な会話ができるんだな。

関係ないところで、関係ない感想を抱いてしまう。


「でも進展がないんだろ? なんで本須賀の話にそれが出てくるの?」


マジメに聞いてみると、忍は、ただ難しい顔をして黙り込んでしまう。

そして、長い沈黙ののちに、小さく言った。


「わかんない」


……どーいうことだよ。

それは勘なのか? ただの勘なのか?


やっぱりダンタリオンかアスタロトさんにでも相談した方がいいんじゃないのか?

しかしそれで決めたように忍は顔を上げてくる。


「本須賀葉月の言う『重要な話』は聞かないといけない気がする」

「まぁあいつのことだから、何か企んでる率の方が高い気がするよ、オレは」

「話聞くだけなら、まぁ……それに、私に聞きたいことがあるとかじゃなくて向こうから話したいことがあるってことは、詮索とかそういうことじゃないんじゃないかと思う」


そうだな。ストレートな性格だから、聞きたいことがあるっていう時はろくなこと聞かれないけど、話があるって言ったら向こうから何か話してくるフラグだよな。

それはオレにもわかった。


「それが個人的なことなら別に問題ない。でも特殊部隊としての彼女の話なら、聞けば何か進展があるかもしれない」


宮古から手詰まり感を感じていたのか、忍は何か糸口を探しているようだった。

本須賀が行動を起こすと大体ろくなことがないというイメージしかないが、だからこそ何か引っ張ってこられるとも思っているのかもしれない。


君子危うきには近寄らず、という言葉が脳裏をよぎる。が。


「お前さ、オレの情報共有者だろ?」

「エシェルのこと?」

「まぁ、それもあるけど他にもいろいろ」


そういえば要石のこともそうだった。

もはや自分たちの範疇を越えていたし、もっと有力な人たちがいるから今はあまり意味のないことだけれど。


「だから一緒に行ってやるよ」

「マジですか」

「なんで頼んでおきながらそんなに驚かれるわけ」

「絶対嫌がると思ってたから」

「なんで頼んできたわけ」

「他に思い浮かばなかったから」


いないよりまし、程度なのか。そうか、わかったよ。

泣いていいか?


「でもそういってもらえると……有難い。ちょっと肩の荷が下りた」

「お前どれだけプレッシャー背負ってたんだよ」

「逆に聞くけど、同じこと葉月さんに言われたら秋葉の受けるプレッシャーってどんな感じ? 5段階評価で」

「5です。すみません」


速攻断る危険度レベルE段階だ。

しかしそれを聞いて忍はため息を着くと小さく笑って、表情を崩した。


「じゃあ葉月さんに聞いてみるよ、秋葉も聞きたいっていうけどどうかなって」

「いや!? オレ聞きたいとは言ってないけど!? オレがすすんで介入したいみたいになってるけど!!? それはないよな!?」

「あ、葉月さんですか。忍ですけど、この間の話」

「待て―――――!!!!」


電話嫌いの忍が、速攻本須賀に電話をかけている。

これ、あれだろ。

オレを逃げられなくするための迅速な行動だろ。



そしてなぜか……本須賀はさして悩む間もなくOKを出し、オレたちは三人で時間を合わせて会うことになった。

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