EX.始めの接触者×2(4)
オレはいきなりの戯れの猛攻を受けて、ようやく上半身を起こした。
「お、近江……大丈夫なのか!?」
「あぁ、うん……大丈夫じゃない」
すっごい制服が大変なことになってるんだけど。
なんか、赤い。
「……血が……!」
「唾液とか分泌物が赤いんですか? あれ、怪我してるわけじゃないですよね」
「はい。お着替えは用意してありますから、シノブ様も遊んであげていただけますか?」
「じゃ、外行こう」
意味なさそうなリードが垂れているので忍がそれを握って外に出る。
腰が抜けたのか、すぐそばを通り抜ける魔獣から、そいつらは逃げなかった。
外。
「やめてくれ……離してくれ!!」
相変わらず、一人捕まっている。
『殺されたいのか? 我が話に耳も傾けんとは』
「誰か……助けてくれーー!」
もちろん誰も助けない。
だってあれ、ダンタリオンが遊んでるだけだから。
ここの主はあいつであり、あの場合、黙って話を聞けば済むことだ。
経験則からオレは知っている。
「……他の奴が捕まるとあんな感じなのか……」
「秋葉、初めて会った時、違ったの?」
「オレがあんなふうに命乞いとかすると思う?」
うーん、と少し悩む忍。
「逃げられなければ諦める、かな。二年前はこんな平和な光景じゃなかったし」
平和とか言う。
そう、いくら天気が悪くてなんとなく暗くてそこにいるのが巨大な魔王みたいな悪魔でも、ここは大使館の庭。
緑の手入れは行き届いているし、建物も傷一つないし、むしろこのご時世で神魔がいるなんて当たり前だし。
あれはな、たちの悪い魔界の大使が遊んでいるだけなんだ。
得体のしれない魔物でもなんでもないんだ。
オレたちはそっちに行ってみた。
「公爵ですか? 何やってるんです?」
『……シノブか。相変わらずそのサイズの魔獣でも全然億さねーな』
「その魔王スタイルやめろよ。怖がってるだろ」
『歓迎しているんだ。魔界なんてこんなもんじゃない。それ以前にこの国だって開国前はこんなもんじゃなかっただろうが』
タチの悪い歓迎だな。
しかし、自分のプライドを傷つけられたことに腹を立てていたことを思い出した。
オレはあれ以来、忍の話を聞いたせいかうまく回避していたせいか今はそれほどでもないわけだが。
というか、三人とも酷い醜態だ。
「その声、頭に直接響くみたいで聞きづらい。ふつうにしゃべれんだろ。あの時もそうだった」
「ふん、覚えてたのか。周りが廃墟だったのに、お前肝座ってたからなー」
「いや、肝座ったって言うか」
「諦めの極致」
忍が結論を述べてくれた。
しかし、ダンタリオンは爪の先で一人をひっかけたままぶらぶらと振り子のように揺らして遊んでいる。……ように見える。
「ひぃぃぃ」
「大丈夫だよ。取って食われたりしないから」
「オレはこう見えてグルメだからな」
そこに空になった部屋から執事に連れられて、なんだかふらふらした足取りで二人がやってくる。
「ダンタリオン様、ご指名のお三方はどうされますか。お話どころではないようですが」
「とりあえず、目の前に正座させとけ」
廊下に立ってなさいみたいな感じで言い渡されて、解放された一人を含めた三人はよほど怖い思いをしたのか、大人しく正座して縮こまった。
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