EX.始めの接触者×2(3)

「あの恰好で、瓦礫の上で天使狩りしてたんだよ、あいつ」

「なんか腕っぽいもの持ってるけどあれ演出だよね。ホンモノじゃないよね?」

「うーん、初見の時の再現でもするんか?」


なんて今はもう全然怖いとも思わないその状況。

というか演出であることは確かなので、ただ眺めていたがやがて、執事の人に呼ばれて別の建物に移動する。


その間に、オレたちは見た。


「あ、あの三人じゃない?」

「なんかほくほくした顔してんなー」

「一応、公爵は大使の中でも最有力候補な権力者だからね。神魔の側の初めの接触者だけあって」

「オレの方は何の特典もついてないんだけど、どーいうことだ」


そんなことを言いながら、ほど近い別棟。

ここは何度か来たことがある。

ベレト閣下が召喚(?)された何もないホールだ。


その時


 「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「!?」


オレたちは外から複数の悲鳴を聞いた。


「何!?」

「さっきのやつらか!」

「……だとすると公爵がお灸をすえてるだけだから、全然問題ない」

「いや、何やってんの? 凄い気になるんだけど」

「秋葉様、シノブ様。お二人には本日はしていただきたいことがあるのです」


ここまで案内をしてくれた従者の人が振り返ったオレたちに声をかけた。

その間もひぃぃという感じの悲鳴が中庭から響いて聞こえる。


「あ、一応仕事あったのか」

「仕事というか……本日はこちらの魔獣の遊び相手になっていただけないでしょうか」

「魔獣……」


何かが奥の方で山になっているのは気づいていたが……

のそり、とそれは起き上がってこちらに近づいてきた。


でかーーー……


「何これ!? こんなの前いました!?」

「数日前に閣下が連れてきまして。非常に従順な気性なので襲われることはありません。安心して……」

「いや、安心できる大きさじゃないから。不知火の何倍あるんだよ!」


いかにもな真っ黒な体躯に、赤い瞳がらんらんと輝く。

それを見た忍。


「遊べばいいんですか? 何して」

「何でも喜ぶと思いますよ。グルーミングでもかまいません」


そしてオレたちは、ブラシを渡された。


「……なんで、ここまで来てブラッシング?」

「この大きさだとデッキブラシくらいないと一日かかっても終わらないのでは」


そんなふうに手の内に収まったごくふつうのブラシを見ていると、ズンズンと魔獣は近づいてきた。


「これ大丈夫!? 本当に大丈夫!!? ってかあいつどこ行ったんだよ! 外にもいないし!」


いや、あれがそうなのかもしれないけど。

窓はないが、開いている入り口のドア近くから外を見る。


なんか、凶悪な悪魔に爪先で捕まって、必死に逃げようとしている姿が目に入った。

何されてるのか知らないけど、オレにあそこに飛び込んで戦えとかいう無茶ぶりではないだろう。


なぜならオレと忍は今、目の前の魔獣のブラッシングを例えに戯れることを指示されたのだから。


「大丈夫です。本日は、お二人に従順なスペシャルデイとなっております」


日替わりなのかよ。


「わーモフモフ。不知火とは違う長毛具合」

「長毛って言うか、体がでかすぎるんだよ!」

「目はルビーみたいにきれいだし、黒い毛は漆黒なのにつやつやだねぇ」


すごいポジティブな感想が漏れてるよ。

喜んでブラッシングしてるよ。

魔獣ってやつも、入口の近くに腹ばいに座り込んで甘んじてモフモフされてるよ。


「赤と黒って色の組み合わせかっこいいけど、こういう魔獣系だと怖さ倍増じゃないか……?」

「かっこいい系だからね」


なるほど、ピンクの体毛に赤い瞳だったらちょっと可愛い系の配色になってしまう。

体系変わらないから、ネコ科っぽいけど。


「うわぁぁぁぁ! 助けて!」


その時、建物に駆け込んできたやつがいた。二人。

呼ばれたはずの三人のうち、二人だ。


「!」


オレたちよりそこにいた魔獣の方に先に目が行った二人は、ひぃぃ、と情けない声を出して後ずさり始める。


「どしたん?」

「お、近江?」

「あぁ。なんか今日三人呼び出されたんだって?」

「どうしたもこうしたもねぇよ! なんだよあれ!」


なんだよって、中庭のあれか。

幻術……じゃなさそうだな。ちゃんと一人捕まってるから。


「ダンタリオン……公爵じゃないの?」

「公爵って本体あんな感じなのか!? 人型のデータしか見たことないけど!」


本体がそっちで、あれがふざけた格好だと思うんだが。


「そういわれると、何が本体とか考えたことないな。知ってる? 忍」

「えー? 前に女の人になってたし、わざわざ術使ってそっちになるってことはいつもの方が本体なんじゃないの?」


ブラッシングの片手間に答えている。

お前は怖いものがないのか。オレはブラシを手にしたまま入り口付近から近づかない。

というか、近づけない。


「ていうか、こっちのそれは!?」

「知らない。新しいペットか何か?」


と視線を横に逸らしたその瞬間だった。

いきなり魔獣が襲い掛かってきた。


ドサリと背中から倒されるオレ。


「う、うわあぁぁぁぁぁ」

「ちょ、やめ……やめさせろぉぉぉ!!!」


先にものすごい声で悲鳴を上げられたのでオレが悲鳴を上げる間はなかった。

その前に、押し倒されて犬のようにベロベロと舐められる。

というか、ざらざらした感じで、痛い。


腰を抜かしているのが一人。

足をすくませて外とこちらを挙動不審に視線を行きかわせているのが一人。


いずれ、襲われているようにしか見えない角度だ。


「おやおや。だから今日は従順ですよと申し上げたではありませんか」

「秋葉、遊んでほしいんだよ。何して遊ぶ? 外出る? ていうか、出していい?」

「中庭でしたら大丈夫ですよ。敷地外はさすがに……」


この大きさだと門(ゲート)くぐれないから安心しろ。

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