EX.始めの接触者×2(1)
最近……オレは嫌がらせにあっているらしい。
「始めの接触者」。
そんないりもしない肩書つけられたところで、何もいい気になどはなっていなかったがどうも人の苦労も知らないで特別扱いだとかなんだとか……
「いつの時代も、やっかみってあるんだな」
はぁ~とオレは喫茶店で移動の車を待ちながら思わず嘆息した。
「秋葉はいじめとかに遭うタイプじゃないでしょ。成人して初めて?」
「なんだよそれ、お前いじめられっ子だったの?」
思わず深刻な顔をしているところに、飄々と言われて返す。
いじめというほどではないが、最近どこかの特殊部隊の唯一女隊員みたいに、露骨な言葉をかけてくるやつが現れていたのは確かだ。
「そうだね、小さい頃に一度地方に転校して、そこから嘘つき呼ばわりで義務教育終了までハブられ気味だった」
「マジで。小さい頃って何歳だよ」
「小2だから7歳かな。嘘はついてないんだけど、みんな小さいから先入観も強くて排他的で、そこから勝手にイメージ付けられ苦節8年」
長。
というか、オレが忍を知っているのは大学からで、やっぱり一人で飄々としていたがそれがよかったのか女子にも受けが良かった記憶しかない。
どこにも属さないが、余っていると何かとあちらこちらから声を掛けられている姿を目にした記憶はあった。
これは、どうしてかというと、顔が覚えられないから片っ端から挨拶していたら勝手に相手が覚えて声をかけてくるようになっただけというとんでもない真相があることも、今のオレは知っているのだが。
「あ、でも高学年の頃は悟ってたから、残りは自由になるまでのカウントダウンっぽかったかな」
「いじめにカウントダウンってあるの?」
「自分に非はないのだから、学校の場合は卒業さえすれば自由の身だ」
すげーな。それ、義務教育ってことは中学生までの思考だろ。
ふつう、その時期にそんな扱い受けて、そんな先の未来を待っていられるほど辛抱強くはない気がする。
「ちなみに器物破損まで起きたのに、担任に報告しても解決しようともしなかった。ある意味、大人を頼らず自立心が強くなったのは、逆恩師のおかげかと」
「前向きだな。オレだったら心折れるわ」
「家に居場所があったからだよ。そんなこといちいち話さなくても居られるだけの場所がね」
それは今思えば、というやつなのか。
家族仲、特に父親はよくアウトローな遊びをしてくれたようだから、それがよかったんだろう。
それが原因で頭一つとびぬけたような遊び方が好きな人間と化したのかどうかは定かではない。
「お前も苦労してたんだな」
「でも男子は割と仲良くしてくれた」
わかる。この性格だと、群れる女子より男子だろう。アクティブな遊びも大好きだからして。
そして、それがリーダーを冠する女子の更なるご不興を買っていたことも容易に想像はついた。
「捨てる神あれば拾う神ありってやつだな。でもオレ、耐性なくてさ」
「大人になってから嫌がらせとかどれだけ稚拙なんだと思うけど、人間性は年齢じゃないからね」
成長しないヤツは何年経っても成長しない。
毒舌上司がそういえばそんなこと言っていた気がする。
毒舌というのは間違ったことを言っているわけでもなく、むしろ真実を言っているとオレは思う。
「みんなが言わないことをあえて言うから毒舌」なだけで、実はみんな思ってるのに毒扱いされるのはおかしなものだ。
ともかく
「年取ればだれでも利口になるってものでもないし、むしろ年下でもすでにできた人間性の人はいる」
年が上だろうが下だろうが、尊敬できる人は尊敬できるし、一生、年食ってるだけの奴もいる。
そういう客観性では大体上司の言わんとしていることと忍の言っていることは同じだろう。
「それにいじめっていうのは、いじめられる側じゃなくて、いじめる側が弱いんだよ」
本当に悟ったような言葉がため息とともに発せられた。
「それも小学生くらいに悟ったことなのか?」
「そうだったかな。ともかく、何かしら私生活とか別のことで不満があって、誰かをターゲットに発散してるタイプがほとんどだから、哀れといえば哀れな人たちだ」
さすが観察好きなだけある。それに加えて心理分析。お前、メンタリストに向いてるんじゃないか?
時々オレはそんなことを思う。
「……いじめられてたのに相手を哀れがるとかすごいな」
「そう思えるようになったら、もうどうってことない。そういう人はほっとけば他の人をターゲットにし始める」
そうだな、同じレベルで相手してても全然ことが収まらないもんな。
あと、どうしても腹立ちそうならこう思えばいい、と忍はつづける。
「『この人、人間に生まれ変わるの初めてなんだな』と思うとなんか、相手する気がしなくなってくる」
生まれ変わりの是非はともかく、前世がサルで人間ビギナーとか思うとわかりやすい。
「遠い目になりそうな気分にはなれる。自分はきっともう何度か人間として人生経験があるんだと。だからこれは実年齢は関係ない」
むしろ年齢にこだわらない理由がすげーわかったわ。
「あと、心の中に猫を飼って、イラっとしたらそれをモフモフする」
「お前、それやってるの?」
「やってないけど、できたらいいよね」
すごく和みそうだが、とっさに猫モフモフしてるところとか思い浮かべるのはさすがの忍も無理らしい。
「でもさすがのオレも、イラっと来てんだよ。顔合わせる度に聞こえる声で嫌味言ってくるし」
「男版、本須賀葉月ですか」
「それな。同性のせいかさすがのオレも限界が近い」
始めの接触者。
オレだって好きでそうなったわけじゃないし、そんな呼び方は誰だかわらかない誰かが始めたに過ぎない代物だ。
「秋葉が持続して腹立てるとか珍しいね」
「あ~オレ、割と周りの人に恵まれてたんだな。そういう人たちいなかったから、なお腹立つし。あと、オレ聖人君子じゃないから。オレもふつうに人間相手にイラっとするから」
今、一番近い人間……忍に何か言われても腹が立たないのは、本当に嫌なことは言ってこないからだし、司さんに至ってはフォローしかしてもらってないので、全く問題はない。
というかそれ以前に、特に自分が目立つような人生送ってこなかったので、そんな扱いされることもなかったというのも大きいんだろう。
肩書とか、ホントいらないわ。
「噂をすれば影だ」
影どころか、オレはカップを手にしてため息をつく。
護所局の外交部の制服を着たやつが三人、店に入って来ていた。
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