8.ルースくんと清明さん
ルース・クリーバーズ。
若くして法術のみならず魔術を行使する、異国の聖職者。
……とは名ばかりの、実体は歩く破壊兵器に近いらしい。
「教会なんて食事自腹だわ、こき使うだけ使うわ、給料安いわブラックだよ!」
が口癖。
故に、天使がらみの件で聖職者への迫害を危惧した清明さんたちに保護された際、一人だけ別口で引き取られていった。
「取扱注意ですから、気を付けてくださいませ」
シスターバードックとは犬猿の仲の気配を見せつつ、真顔でそう忠告を繰り出したことは記憶に鮮明だ。
「あ、珍しいですね。清明さん、ルースと一緒なんて」
「よっ 木場」
「秋葉だよ」
この間ふつうに間違ってなかったよね、なんで間違えるんだよ。
惜しいけ ど も!
「ちょっと仕事帰りで……深夜出だったから、食事でもして帰ろうかと」
「清明はいいやつだな! ちゃんと労っておごってくれるもんな!」
……それ、餌付けされてるのと違うか。
にこにことする清明さんの隣で、嬉しそうにはっはっはっと息を切らしながらお座りする犬の幻が見える気がする。
「お疲れ様です。やっぱり深夜って言うとなんかこう、怖い系の」
「どうしても夜に活動的になるのが多くてね」
「清明、何食べる!? オレ肉食いたい! 肉!!」
徹夜明けかもしれないのに、元気だなー
「秋葉、この辺で何かうまい店知らない!?」
「肉だったらふつうに焼肉とか、量重視ならモスドナルドとか」
「なるべく高級なとこ!」
奢ってもらえるからって容赦ないな。
「清明さんの方が詳しいんじゃ?」
「そうだね、その前に人通りが多くなってきたから気を付けないと」
「……何にですか。まだ何かいるんですか」
「いや、そうではなく」
「清明! あそこ! 店先の焼き鳥めっちゃうまそう!」
ものすごい勢いで自由行動をしそうな人がいる。
さっき、高級なとこって言ってなかったか。
「この通り、食べ物屋多いよな。あっ向こうのクレープもうまそう!」
「ルース、勝手に動き回ると迷子になるよ」
ビン。
オレは清明さんが、あちこち見境なくとびまわろうとする犬のリードを持って笑っている幻を見た。
「……清明さん、それ」
「迷子用のリードだよ。子供につかうには賛否両論あるようだけど」
幻じゃなかった。
「……一つ聞いていいですか」
「何?」
「ルースって、術結構強いって聞いたけど、その後どんな感じですか」
なんとなくわかる気もするが、聞いてしまう。
「オレ? うまくやってるよ」
にこやかー。
「そうだね、本当にシスターの言ったずがーんとかぼがーんとかそういう感じで破壊力抜群のを放ってくれるから、とりあえず、僕が結界で周りを守る係」
……術師は何かを守るために術を使うんじゃないのか。
むしろ清明さんがルースの破壊行動から被害を食い止めているのか。
「それって……」
「空き地とか公園とか三車線道路の広いところがねらい目なんだけど、なかなか難しいよね」
さらりと言うが、難しいのは何かの討伐ではなく、このルース・クリーバーズという魔術師ユニットの扱いであろう。
しかし、おそらく、清明さんにしかそれはできない。
「やっぱ焼肉だな! 徐々苑そこあるし!」
「まだ昼前だけど、疲れてるとこがっつりだな」
「術ってけっこう体力使うんだよ。しっかり食わないとダメなんだ、な、清明」
「そうだね」
なんか、清明さんの物腰とか姿見てるとがっつりこの時間から食べるようには見えないんだけども、
中身がキミカズ
だと思うと納得できる、今、現在。
「秋葉も一緒に行くか?」
「いや、オレこれから移動だから」
「そっか。おつかれ」
決して悪い人柄ではないと思うのだが……
そして、清明さんは迷子用のリードをルースの腰につないだまま。
繋がっていることを全く意に介さず、あちこち勢いで食べ物関係の店先を、ルースはのぞきながら。
二人は人ごみへ消えていった。
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