7.宮古進とアイデンティティ

武装警察、監察・宮古進。

ギャグ要員であり、今後マジメなメイン連載において出番があるのかは謎。


「しーちゃん、最近、同期の奴らが活躍で妙に目立ち始めている気がするのだが」


目立ってますね。

目立つどころか、スピンオフできそうなくらいの活躍っぷりですね。


「同期って、ゼロ世代の人達のことですか?」

「……」


宮古は特殊部隊という触れ込みで、制服も確かにそんな感じなのだが、なんだか怪しい。

オレがそれに気づいたのは司さんたちが「ゼロ世代」と呼ばれることを知ったあたりからだ。


特殊部隊の第一期は18名と言われる。

三部隊に分かれる際に、案分された人数は6名ずつ。

……どう考えても、宮古をカウントすると、一人余る。


過去に確執はあったようなので、深追いしない方がいいだろう。

興味もないし、放っておく。


「それで? 目立ちたいの?」

「アッキー!!!!」

「はいぃぃぃ!!?」


突然食われそうな勢いで、立ち上がって威圧するので相応の返事をしながら退く。


「私は目立ちたいなどという理由で、自らのアイデンティティを確立しようとは思わない!」

「そうですか。髪型の相談ではなく?」

「うむ。近ごろ事件も多く、気がめいりそうなこともあるのでな」


宮古でも気が滅入るとかいう感情があるのか。

オレたちは今日も、街中で見かけられて相談事を持ち込まれている。


「ここはいっそ今までにないイメチェンを計り、自他ともに気分を上げていこうという作戦で……」


現在の髪型は、長髪ストレート。

今からいかようにもアレンジ可能な、素で流しているあたり……


「アフロにしてみようと思うのだが、どうだろう」

「お前それ目立ちたいだけだろ! 目立つ以外のどんな要素があるんだよ! ってか何ヅラ持参してんの!!?」


宮古はテーブルの下から持参していたらしき巨大なアフロウィッグを取り出してかぽりとかぶってしまった。


……他の客から、注目されている。


やめて、見ないで。


「やはりただのアフロではインパクトが足りないだろうか……」

「アフロは決定なんですか」


忍、お前何ふつうに会話続けてんだ。


「うむ。ここから何かいいアレンジはないものだろうか」

「いいアレンジって色々あるじゃないですか、リボン100個つけるとか、色をレインボーにしてみるとか、そこに角をくっつけてみるとかトラのパンツ履いてみるとか」

「雷様かよ」


アフロが決定である時点で、忍ももはやふつうにアドバイスをするつもりはない模様。


「なるほど……色を変える、オプションを付ける……さすがにアフロに猫耳はないからな」

「宮古さん、なんでそんな簡単に納得するんですか」

「思いつきもしない斬新な発想だからだ」


斬新って言うか、ふつうはまぁ、うん。しないよね。


「盛り上がりたいならコードネームもつけてみる。アフロな宮古さんは『アフ狼』と呼ぼう」

「さすがだな。監察である私なら、本名よりコードネームがある方がそれっぽい」

「アフロの時点で、潜入捜査とか無理っぽいけど」


オレの脳裏にカラフルアフロをつけつつ、なぜか付けひげまで装着してどこかに潜入している宮古の姿がよぎった。


「俄然やる気が出てきたぞ」

「今の会話、やる気が出る要素が何かあった?」

「秋葉、宮古さんの前だと本音駄々洩れだね」


だって、本人が聞いていないから。


「もはや髪型云々じゃなくてコスプレの世界じゃね?」

「確かに服装まで変えることを提案はしてしまったけど……単なる不審者だよね。警察に通報されそう」

「警察だよ、目の前の人」


宮古は喫茶店の窓に移った自らのアフロヅラの被り方チェックに余念がない。

通りすがりの人は、一瞬びくっとなった後、肩を震わせながら早足で通り過ぎていくか、一様にくすくすと笑っている。


オレだって、できれば他人として外から眺めるくらいにしたいわ。


「と、とりあえず宮古さん。アフロはまた後でキメるとしてせっかくだから他に何か……」

「モヒカンにして袖から服引きちぎって、ヒャッハー!って言ってればすごい注目される」

「そういうのはいいから! それはこいつ……宮古さんだけでなく、組織全体のイメージダウンになりかねないから!」

「そういえばそうだよね」


そういえばじゃない。

お前はそれくらい考えられる子だろう。


「イメージダウン……か? なかなか奇をてらっていていいと思ったが」

「あんた監察だろ。そもそも目立ってどうするんだよ」

「目立つのではなく、個性を追求したいのだ」


だから、目立ちたいんだろそれ。


「監察って忍者的存在じゃないの? 情報屋じゃないの? もっと忍んだ方がいいんじゃないの?」

「なるほど、忍者コスチュームか」


……自分からコスプレって言っちゃったよ。

髪型もう関係ないだろ。


「そうなるとまずは衣装を探さねば。それとも自作した方が早いか?」

「……………浅草寺の参道あたりに売ってると思う」


オレはあきらめた。

そして、さっさと退散してもらうことにした。


「そうか! 外国人用の土産の名残で忍者服だの着物だのが確かにあった」

「じゃあそろそろ時間だし、お開きにして仕事に戻ろうか」

「例を言うぞアッキー。無論、しーちゃんもだ」


親指を立ててきらーんと白い歯を見せている宮古。

キャラの確立どころかブレッブレだよ。


「ここは例によって私が奢ろう」

「ごちそうさまです」


丁寧に礼を言うとそれがまた気持ちよかったのか、宮古は上機嫌に笑いながら去っていった。


「……着地点が見えない」

「半分以上はお前のせいだぞ」


宮古進のアイデンティティ、もはやそれは晴れない霧の中。


明日はどっちだ。

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