ダンタリオンとアスタロトさん ‐立ち話の謎‐(後編)
「アスタロトさんはあまりソファ使わないよねという話から」
「あーそれな」
あまり考えたことはないのか、間ができる。
手から力が抜けたので、その隙に払いのける。
そのままダンタリオンは手を顎に、指先を口元に絡めた。
「……一応オレたち、魔界ではそれぞれの領地持ってるだろ? ある意味王様なんだよ」
「「「……」」」
「なんだその沈黙」
いわずもがな、大体同じ意味を込めて三人揃って黙り込んだ。
「いや、魔界の事情分からないし」
「広さ的に比べても仕方ないんだが、ざっくり例えると1軍団6千体くらいの悪魔で構成される」
「それざっくりっていう単位じゃない!!」
6千× ダンタリオンの場合、36軍団。
……もう考えたくない。
「アスタロトんところは40軍団だろ? しかもあいつの直下ネビロスだしな。他の魔界の軍団の監視役も兼ねてるからあんまり魔界じゃ関わり合いになりたくない」
「……すみません、そんなに壮大な話をしているわけじゃないんですが」
ちょっと魔界の仕組みに興味はあると言いながら忍が修正をかけている。
ふつう一人でそんなにたくさん部下とかもてない立場にいることは、とりあえず、わかった。
「席の話。ソファで隣に座ったの見たことないから、どういうことなのかなと」
ストレートに聞いたよこの子は、また。
しかし、当然のごとく問題もなく答えられる。
「落ち着かない。ていうか、そんな近くに座られると違和感」
たぶん、お互いそんな感じなんだろうな。
「イスは単体だしまだ距離感があるから抵抗がないんだな。ソファは共有して使っている感があり……あ、なんだ。鳥肌立ってきた」
つまり、公爵クラスともなると大体、おひとり様でひとつ占有できる立場だから、仲良く(?)共有するってこと自体が違和感なんだな。
ていうか、鳥肌立てるほどのことか。
「あんまり考えたことないけど、大体オレらは一人一人勝手にやってるからな。人間ほど群れないし」
「そうですね、単独の力が物を言いそうな世界ですもんね」
そうなると軍団の話がまた別次元の話題になってしまうわけだが。
「だから、共有とかより占有の方が落ち着くんだろうな。あと普通にあいつに貸してやってる部屋行けば、我が物顔でくつろぐ姿が見られると思うぞ」
「趣味が悪いね。人のプライベート眺めて何が面白いんだい?」
「!」
またこの人は……気配がないんだよな。
振り返るといつの間にかアスタロトさんの姿があった。
悪魔だからだろうけど、わざとそうしているわけでもないっぽいのに、ダンタリオンの存在感とは対照的な神出鬼没っぷりだ。
「時間見なんてプライベート丸見えな能力もってるヤツの言うことか?」
「ボクはのぞき見をする趣味はないよ。必要だと思う時に使うだけで。能力なんてそんなものだろう」
そう言って、用は特別なかったのか、廊下を通りすがっていく。
その先は階段だ。
「アスタロトさん、どこかおでかけですか?」
「神保町」
なぜ。
「あそこ、今も古書がある店が多いだろう? この国の古い本はあまり見ていないし、大型店舗に渡ると廃棄されるみたいだから、この先消えていくものがさぞ、多いだろうと思ってね」
「確かにネットで売り出す人が多くなったから、専門書とか本当に価値のある古書の類はどんどん手に入りづらくなるかも」
そういえば、神保町なんて歩いたことないけど本とカレーの町っていうイメージはあるな。
マンガや小説買うくらいなら、大型店舗やネットで十分だろうけど、たぶん、神保町には資料的な価値のあるマジメな本もたくさんあるんだろう。
……オレはあまり興味ないけど……
「何か面白いもの見つけたら教えてください」
「いいよ。またあとでね」
そして、魔界の大公爵は涼やかな笑みと共に去っていく。
「……お前も少しは見習ったら?」
「どこをどんなふうにだ」
「情報系の悪魔なんだろ? 本とかもっと読んだら? 雑誌ばっかり見てないで」
「人のこと言えた義理か! 新聞だって見てないだろお前は!」
「日本かぶれが過ぎてるんだよ! ってか、仕事しろ!」
言い返された分だけ言い返せるだけの、要素がこいつにはある。
多分、新しい情報を取り入れたいタイプなんだろうが、本当に最近は雑誌とか広げてる姿しか見かけないので、大丈夫か、と思う。
全く心配はしていないけど。
「公爵、何か専門系の雑誌貸してください。読み終わった奴でいいから」
「ニュー〇ンとプレジテン〇、どっちがいい?」
海外の経済情勢とか、今、ないだろ。
「ニュー〇ン」
「ディアゴス〇ィーニもあるけど」
「何を収集してるんだよお前は」
ありとあらゆるものを集めていそうで、怖い。
「……魔界のヒトもいろいろですね」
「シノブ、何を悟ったんだ。悟ったような目であらぬ方を見るのはやめろ」
とりあえず。
同じ爵位持ちとは言え、対照的なふたりではあると、改めて思ったとある午後だった。
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