3.京悟さんとメガネ(前編)
「……あれ、京悟さんじゃない?」
なんでもない街中。
今日の移動は電車メインなので、駅から降りた先は徒歩になる。
ショーウィンドウの並んだその街並みで、忍の視線の先には白いコートの男性がいる。
カラーリングをした短い茶色の髪にメガネ……
「メガネ……ないけど」
「メガネで判別してんのか、お前は」
「それと、服装と髪型」
顔は?
ともあれ、確かに橘さんだ。
行く先でなんとなく、うろうろとして見える。
普通に歩いていくと、合流した。
「京悟さん、こんにちは」
「? その声、忍ちゃんか?」
「え、ひょっとして橘さん全然見えてないんですか」
「うん、……まぁ」
ちょっとばつが悪そうに橘さん。
そんなに視力悪かったのか。
「メガネどうしたんですか」
「ちょっとアクシデントで、割ってしまって」
と胸ポケットから取り出す。
フレームから何からめためただ。割れたどころの騒ぎではない。
何があった。
「これがないとものすごく不便だから、とりあえず代用品でもなんでもいいから調達しておこうかと」
「……不便って言うか、店、わかるんですか」
「…………」
人は声やら何やらでなんとなくで分かるけど、細かいものは全然見えないんだろう。
だから店がわからなくてうろうろしてたってことか。
「橘さん……」
「いつもなら、スペアを持ってるし、こんなに壊れることがなくて」
「戦闘に支障ないんですか」
「緊急事態ほど文字とか追ってる場合じゃないし、逆に支障ないかな」
そういう訓練とかも受けてそうだもんな。
とにかく、じゃあさよならと通り過ぎる気にもならず思わずこちらから声をかけた。
「一緒に眼鏡屋行きますか?」
「えっ、いいの!?」
「いいよな、忍」
「むしろ案内いなかったらどうやって辿り着くのだろうかと疑問」
「そこは気にならなくていいから」
そんなわけで純然たる疑問は置いておいて、オレと忍は快く一緒に眼鏡屋に入ることにする。
と、いっても惜しいところまで来ていたので、目の前の店、三択で入れる場所だった。
「いらっしゃいませ」
「すみません、初めてなんですけどメガネが壊れて急遽必要になって」
「ではレンズの方から先にお選びください」
全然見えてないんだよ。
メガネ屋のお姉さんはリストを提示したが、思わず窮している橘さん。
「とりあえず、視力検査してあげてもらえますか」
忍がフォローしている。
「店の看板が分からないくらい見えてないみたいです」
「そうでしたか、ではこちらで検査をしますのでどうぞ」
「はい、…っと」
ガン。
並んでいる丸椅子に躓く。大丈夫ですか。
人影で分かるので、検査機の方へは案内されて自力で行った。
「……視力が悪いというレベルではないのでは」
「処方箋ありそうだよね」
「メガネって処方箋で作るの?」
生まれてこの方メガネが必要ないので、眼鏡屋に入ったのは初めてだった。
専門店なだけあって、当然、メガネだらけだ。
普段は全く気にかけていなかったが、メガネしかない店内は気づいてみるとものすごく不可思議な光景だ。
「なくても作れる。私も一回だけ作ったことある」
「忍がメガネぇ!?」
「え、何それ。どういう反応?」
いや、ふつうにかけてるところ見たことないから。
「免許ヤバいと思って一回作ったんだけど、かけなれてないから全然かけない内に、なんか視力が上がったりして……」
「……何もしてないのに視力って回復するの?」
「天気とか、気合によって変わるよね」
いや、気合で変わるの?
「病院に行くと霞んでたりするし、検査場所にもよる」
「よらないよ。大体あのCマークだろ? お前何が見えてんの?」
「そのランドルト環の検査自体おかしくない? 時間無制限でじっと見てれば見えるよね? なんで制限時間ないの?」
確かにな。
検査中の橘さんの方を見ると、まさにその検査中であるらしく目を凝らしてそれを見ようとしている姿がある。
即答できるのと、やっと見えて正解じゃ、明らかに視力は違うにきまっている。
「京悟さん今、レバー左に倒したけどあれ絶対見えてないよね。見えなかったら赤いボタン押してくださいとか素直に押す人どれだけいるの?」
確かに……!
つい、何となくこっちな気がする、でバー倒すよ!
確率25%で当たったら見えてないのに見えてる判定下るよ!
「そんなわけで、私にはなぜランドルト環検査がずっと定番なのかが疑問」
「機械より人にどっちですか?って聞かれる方がわかりません、っていいやすいよな」
「機械はわかるかもしれないから、わかりませんボタンは押せません、みたいな」
ゲームか。
そんなことをやっているうちに橘さんは戻ってきた。
仮のレンズを入れたテスト用のメガネで、フレーム選びに入っている。
「メガネってピンキリだけど安いのもあるんだな」
「秋葉、これ」
「……オレにかけろって?」
ピンクのフレームわざと選んだだろ。
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