閑話休題 ×2編
1.司くんと忍さん ‐小荷物お届け‐(前編)
緊急事態が起こっていた。
神魔が暴れて、避難中。
暴れていると言っても本人の意志ではなく、食べちゃいけないものを食べてしまったらしい。
人間でいうと、アレルギー持ちのようなものだろうか。
ともかく、追いかけてくるそれからオレたちは逃げていた。
「司さん……! いくら罪なきヒトでも止めた方がいいんじゃ……!?」
「ターゲットは一番最初に目に入ったオレたちだ。時間を稼いで他の鎮圧部隊で抑える」
人身御供ですか、オレたち。
ていうか、ものすごい勢いで追いかけてくるんですけど。
あちこちの備品蹴散らしてるからけっこう被害出てる感じなんですけど……!
「高いところに逃げるというのは?」
「下手に建物に上がるとその建物が損壊する可能性がある」
「ていうか、この三人の内誰が狙われているのかを確認した方がいいのでは」
確かに三人まとめてターゲット、ではない可能性もある。
そうなると司さんが避難を選んでいるからには、司さんはターゲットではなく、護衛対象のオレたちのどちらか、あるいは両方なのか……
「それ以前に忍。その態勢でふつーにテンション変わらず意見するのおかしくないか?」
「だって、動けないんだもん」
忍は……司さんの脇に抱えられている。
「確かに普通、ちょっと魅せたいところだと姫抱っことかするところだよね。宅配便の荷物じゃあるまいし、なんで私この抱えられ方なの?」
「不満なのか」
「いいえ。純粋な疑問です」
忍を姫抱っこする司さん……想像ができない。
オレたちは都内特有の、大通りから外れた入り組んだ道をかく乱するように駆けている。
「確かに姫だっこなんて、抱える側に負担しかかからないような非合理的な運び方だと思うんだ。両手もふさがるし。なんであの抱え方が、二次元世界では定着してるの?」
「……すごくわかるんだけど、今オレ、それに答える余裕ない」
「じゃあ司くん」
抱えられているだけなので余力満載の忍は、大して息も乱していない司さんに振る。
ヒマなのだろうが、もうちょっと緊張感を持ったらどうだ。
一応後ろから何か大きなものが迫ってるんだぞ。
「そんなこと知るわけないだろう。だが、両手がふさがる上に重いだけという意見には同意だ」
同意してるし。
「司さん……」
「秋葉、考えてもみてくれ。もし米俵レベルの重い荷物を運ぶとしたら、どうやって運ぶ?」
「え、……肩に担ぐ、とかですかね」
「じゃあなんで私担がれてないの。なんで小脇に抱えられて吊るされてるの」
そう、脇に抱えるといっても両手両足吊るされた状態だ。
ものすごく違和感がある光景だが、違和感を覚えないのはそれをされているのが忍だからだろう。
「小荷物だったら?」
担ぐほどじゃないだろうから……
「脇にかかえる、かな」
「そういうことだ」
いや、どういうこと!!!?
司さんの返事が短すぎて逆にオレ、わからないんですけど!
この状況で想像の余地残されても考えられないんですけど!?
「私は小荷物扱いかー 司くん強化受けてるからそりゃ軽めではあるだろうけど……この、吊るされているような状態が腑に落ちない」
「それはお前を自由にすると余計に動くからだ!」
……。
オレと忍、一瞬沈黙。
理解できた。
手足がプラプラしている状態では、少なくとも踏ん張れないし、腰だけで固定されているので暴れることはおろか、態勢を変えることも難しいだろう。
「確かに動けない。踏ん張るところもないからどうしようもなく、諦めていたというのはある」
諦めて大人しくしてたのか。
「しかし、小荷物扱いはないのでは」
うん、ほかの女性だったら絶対しない対応だよな。
確か前にもこういうことがあって、司さんは同じように忍を脇に抱えていた。
あれは、動きを封じるためでもあったのか。
「それにそろそろ秋葉の方が限界だろうから、代わってあげてもいいと思うんだ」
「……」
確かに走りっぱなしで、オレの息はもう上がっている。というより途切れ途切れだ。
「秋葉……もうすぐそこに待機メンバーがいるが、代わるか?」
「いや! もう少し頑張ります!」
さすがに。
オレが司さんの小脇に抱えられて、忍が自力で走っていたらどれだけオレ情けないの、みたいな光景になる。
もう少しだというのなら、頑張りたい。
「でも、ペースは落ちてるからこの速さだと追いつかれそうだよ?」
「!」
ブモォォォォ!
と牛のような鳴き声と単純な効果音、ドドドドドみたいな音は確かに近くなっていた。
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