EX.ウリエル(後編)
証拠に森さんもそこには反応していない。
「負けた腹いせにヤコブの関節を外して放置プレイをかました外道天使の逸話があるようで」
「忍、それは僕じゃない」
無表情で即答したぞ。
逆になんか、やりそうで怖いんだけど?
腹いせはともかくちょっとヤコブの方が何かやらかして、ウリエルの怒り買って関節外されたまま放置されました。
みたいな構図しかオレ、思い浮かばないんだけど。
「外道天使」
「そこは笑うところじゃないだろう。大体、そんなソースをどこから……」
「大衆サイトだから、面白おかしく書いてるんだとは思うよ。エシェルが腹いせするとは思えないし」
腹いせじゃなかったらやりそうなんだよ。なんとなく。
「あと、格闘的なイメージがない」
「……明示はされてないね、サマエルとかカマエルとかも候補に挙がっている」
「冤罪じゃないのか」
司さんがさり気にフォローというかふつうに、意見を述べている。
「サマエルってリリス様の旦那さんだろ? 天使時代にってこと?」
「エシェルのところの宗教圏ってさぁ……記載が矛盾だらけである意味面白おかしいよね」
「………………………………」
エシェル、何とか言った方がいいぞ。
「でもヤコブがウリエル説も出てるね。人間と暮らすべく転生した姿だって。今の状態に近いのかな」
「すべて人間が書いた俗説だ。読んで楽しむくらいにしておいてくれないか」
「そうだね、外道天使の説話は忘れられそうにない」
「真実はともかく、そこは今すぐ忘れてくれ」
ウリエルについて目の前で調べることを許可したエシェルは、後悔している模様。
まぁ、今仕事モードじゃないし忍が目を付けるのはそういうどーでもいい情報の方だと思う。
「……」
「清明さん? どうしました?」
「あ、いや。こんなふうに夜通し遊ぶなんてなかったなーと」
……さっきの話と、宮様の過去に、軽く泣けてきそうだ。
オレたちにとっては、よくあるともいえないけれど、少なからず友人と騒いで遊ぶなんて誰でも経験があるだろうに……
ちょっとしんみり。
「キミカズモードになっちゃったらどうですか。お酒飲みます?」
「お酒と言えば、キミカズの時なんかぽろっと口調が変わったりしてたよね」
「……緩むからね」
「清明さんとして飲んだらキミカズの人格が出るんだろうか」
二重人格じゃないから。出ません。
わざと言っているのか純粋に疑問を述べているのかわからないのがこの二人の怖いところだ。
「司さん、何か、女子ふたりが大天使と陰陽師をターゲットに……」
「あれは純粋に、疑問をぶつけて遊んでいるだけだから、いじっているわけじゃない」
ほっといていい判断らしい。
「はい、あがりー」
「私も」
「!?」
七並べは続いていた。
一番あがりは森さんだった。
連動効果のように、忍が続きを出して上がっている。
「いつのまに……!? オレ、パスギリギリなんだけど!?」
「平和なゲームなんてあるんだろうか」
「世の中は無情だよね」
「……」
エシェルは無言で最後のカードを出した。
えっ。
これって……
「秋葉」
……顔を上げるとちょっと同情したような表情の司さんの姿がある。
手持ちのカードはあと一枚。
「七並べにも、一応の攻略法はあるんだぞ……?」
ただ置くゲームじゃないのかーーーーーー……
多分に運にも左右される。と付け足したうえで司さんは上がるのかと思いきやパスをかけた。
1回目だ。
そして
「ここ止めてたの君だったのか。おかげでキングが居残りして上がれなかったよ」
……エシェルが足止めを食らっていたらしい。
誰だよ、天才にゲームで足止めくらわすヤツは。
そして、七並べは終わった。
あとの結果については、想像に任せたい。
とりあえず、オレは……
「トランプは頭脳ゲームなんだな……」
「私、こんなに大人数でやったの初めて。たまにはいいね」
「人数いるなら桃鉄とかやりたい」
アレある意味鬼畜ゲームだろ。
だれか貧乏神永久に飼うくらいのターゲットになるだろ。
「桃鉄?」
「いいんです、清明さんはそこ興味出さなくて。ふつうにボードゲームにしろよ。人生ゲームとか」
「そんな多人数対応のゲームもってないよ」
なんてことを言いながら、夜は更けていく。
……今日は、何事もなかったかのように。
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