EX.ウリエル(前編)
結局、そのまま仕事モードでも仕方がないと「お泊り会」の方が続行された。
なんかラスボスっぽいものが攻めてくるとか言われたあとにそんなことしてられんのか?
と思ったが、このメンバーでそれは余裕だった。
仕方がないものは、仕方がないんだよ。
そんな諦めの境地においては、オレも得意分野であるから特に引きずろうとは思わなかった。
というか、話がひと段落して、有無を言わさず考える間も与えられないカードゲームなんかされたらそんな気持ち吹っ飛ぶだろう。
そういう意図で、その後たとえばトランプの「スピード」なんてものが行われたのかどうかはわからない。
単に、忍と森さんがやりたがっている感じもしたが……
「他にもスピード系のゲームあるんだよ。うすのろっていう」
「それ、嫌な予感しかしない。オレが負けるやつだろ」
「制限ルールを適用すればチャンスはあるよ。負けが込んでる人が会話させると相手を自分の負け位置まで巻き込むっていう」
「…………………………無言になるだろ。誰もしゃべらなくなるだろ。どういうゲームなんだよ」
「こういう感じの」
やめて。
実戦に入ってしまった。
ルールは簡単、ここにいるのは6人。
人数マイナス1、つまり5つの……なんでもいい、消しゴムでもコインでもとにかく、片手で取れるものならいいらしい。それを真ん中に置いて、同じ数字のカードを人数分用意する。
基本、同じ数字4枚を手元にそろえるのが第一目的だ。
が。
ヒュッ シュッ バシッ!
一回やってみたところ、そんな感じの音しか聞こえない。
「オレ、これ無理」
「大丈夫。自分でカード揃えれば絶対一番」
その前に、うすのろまで言って、オレはうすのろまの称号を得るであろう。
掛け声とともに隣の人にカードを渡す。
渡された人はそれを見て、自分の手持ち数字が4枚揃ったら……つまり、目的が達成された時点で、真ん中におかれたものを取るのだ。
ここからがこのゲームのミソで、誰かが揃えた時点で他の人間もそれを取っていい、という「争奪モード」に移行する。
つまり自分が揃えなくても誰かが揃えて動いた瞬間、取りに行く。
置かれたものは一つ少ないので、必然的に誰かひとりが取れないのだが、この回数に応じて「う」「す」「の」「ろ」と称号が進行していき、完成したら負け。
という
判断力と瞬発力の勝負
なゲームだ。
シンプルで、盛り上がる要素しかないが、オレはこの面子で勝てる気がしない。
「慣れれば大丈夫だよ、秋葉くん」
「いや、これ慣れの問題じゃないですよね。明らかに身体能力とか洞察力必要ですよね。制限ルール適用したら、オレとしゃべってくれます?」
「しゃべらないように善処する」
善処って言われたーーーーーー……
ゲームも結局、現実だ。現実は厳しい。
「確かに司も清明も普段の仕事が仕事だから、判断力、瞬発力ともに勝負にならないな……」
「エシェル、お前は天使としての人外の察知力で勝負にならないだろう……」
「僕のことじゃない、秋葉、君のことを言っているんだ」
こんな過激なゲームを日夜(?)繰り広げているのか、この女子二人は。
「常日頃司さんと遊べる感じの森さんはともかく、忍はただの事務員だろ!? なんでそんなにスピーディなんだよ!」
「ゲームだよ、ゲーム。楽しんだものが勝てるんだ」
「いや、楽しんでも勝てないよ? 明らかにスピード勝負だよね!?」
「秋葉……森は昔からこんな感じなんだが」
「かるたはあんまり好きじゃないんだよね。なんでかな」
……はい、純然としたスピード勝負が好きなんですね。二人とも。
「仕方ないから秋葉が平和に遊べるゲームをしよう」
「そうしてくれ」
そして、七並べが始まった。
これならスピード関係ないよ。大体運ゲーだしな。
大衆的なスピードも何もないゲームにホッとする。
「……七並べってさ……」
「?」
「いまいち、何か足りないんだよね。ただ、並べていくだけっていうのが」
「お前さっき、平和に遊べるゲームしようって言っただろ! 開始早々スパイス足そうとか考えないでよね!」
「雑談しながらできるゲームだと思えばいいだろう」
そうですね、スピード関係は明らかに雑談できるスキすらなかったですからね。
「ねぇ、エシェル。今ウリエルのこと、Gooogle先生に聞いてもいい?」
「いいけれど……なんで断るんだ?」
「なんかプライバシーの侵害するみたいで断らないと調べにくくない?」
なんでそんなところばっかり律儀なの!
七並べで時間的余裕があるので、マルチタスクで動き出そうとしている忍。
「所詮人間が書いた記事だろう。君が鵜呑みにするとも思えないけれど、プライバシーというほどのプライバシーなことは書かれていないだろうし、好きにしたらいいよ」
といいながらエシェル。
ふつうに七並べに参加している。大天使ウリエル……
なんか、清明さんのこともだけど意識するとおかしいことになってくるから、やめよう。
「……四大天使っていうのは日本では有名だけど、宗派によって違うんだよね」
「三大、あるいは七大とされるところもあるからね」
「なんでそんなに減ったり増えたりするんだ? しかも振れ幅広くないか?」
さすが七並べ。
何も考えないで札を置けるので、オレも会話に参加できる。
「名前の意味は『神の光』『神の炎』。……炎系の魔法みたいなの得意なの?」
「……まぁ」
「じゃあダンタリオンのアレとか全然平気だったんじゃね? 反撃したら一瞬で消せるレベルっぽい」
「ちょっと二人とも。公爵は一応大使なんだから、駄目だよそんなこと言っちゃ」
いや、清明さん。一応とか言ってますよ。無意識ですか。
「と、いうかそんな話はしていてもいいのか?」
「……雑談の延長で、僕の話とは思ってないかな」
「エシェル以外の何者でもないエピソード入ってたけど」
うん、忍の情報に反応しちゃったけどフィクションはまずいよな。
架空の人の話をしていると仮定しておこう。
「こんな機会めったにないし……お泊り会だし……」
「お泊り会関係あるの?」
「朝までレッツパーリーするんじゃないの?」
「お前、自分のキャラとテンション考えてから発言してくれない?」
全くする気はないのに、そういうこと言う。
「面白いエピソード見つけた。ウリエルってヤコブと格闘したことある?」
「……」
エシェル、何とか言った方がいいフラグが立ってきたと思うぞ。
というか、黙しているということは何か思い当たる節があるんだろうか。
「ヤコブって誰?」
「イサクの息子だって」
「イサクって誰」
「興味ない」
そこは知らない、ではなく興味ない、なのか。
無意識下で知らなくていいこと、と判断したのかもしれない。
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