それぞれのピース(4)ー答え合わせ

「さすが陰陽師ですね。幻術も使わずに雰囲気変えるとか」

「……森さん、なんで驚かないんですか。清明さんと一応面識ありますよね?」

「あるけど、驚くほど関わってないし、忍ちゃんから聞いてたから」


間。


「知ってる? 一卵性のそっくりさんな双子も慣れてくると性格で顔が全然違って見えるんだよ。それくらい人間の視覚って実はでたらめだったりする」

「私と司は二卵性だから、見分けつけやすいけど」


つけやすいどころか異性ですよ。

ていうか


「忍……お前が確認したいことってこういうことだったの? キミカズが清明さん? 清明さんがキミカズなの!!?」

「前後言ってること同じだよ、秋葉」

「確認したいっていうのはどういう意味なんだ。初めから今日はそういう目論みだったっていうことか……? 森」

「そうだね、私と忍ちゃんは大体共犯で、情報共有者だから」


自分から共犯とか言わないでください。


「……」

「エシェル、何で黙ってるんだ?」

「いや、僕はほぼ確定だとは思っていたから」

「いつから?」


これは清明さん……いや、そっち偽名だからキミカズといった方がいいのか? が、聞いた。


「初めて天使が襲来して、僕が結界の中で君を……いや、『清明』を見た日から、というべきか」

「!」


ここで話が次の段階に移り始めた。

キミカズを巻き込む、というのはそう、こういうことだ。

エシェルの正体を明かす。

そもそも『清明さんがどこまで知っているのか』を確認したいというのが最初だった。


そして、ここでそれが成り立ったら、司さんにもすべてを明かす。


キミカズが清明さんであるなら、話は一度で済む。


そういうことだったのか。


「なんて、簡単に納得できるかーーーー!!!!」

「秋葉、往生際が悪いよ」

「そうじゃないの! 司さんも何も知らないから! 置いてきぼり食うからひとつずつ説明してくれ!!!」

「そういえば、そうだったな」


エシェルは頭いいから、呑み込み早くて、だから話の進みもせっかちだよな。

妙に人間臭い感想がオレの脳内をかすめたが、まず整理を頼む。


忍が司さん向けの説明から始める。


「まず、司くんには謝らなきゃならないことがある。ものすごく重要なことを私たち……秋葉と私は、隠してた」

「重要なこと?」

「それを話すと、司くんが立場上動けなくなりそうなこと。それはエシェルにも関りがあって、今日は成り行き次第でそれを全員で共有できるかできないか、という日だった」

「……つまり、それはキミカズが清明さんだと確認出来て初めて進む話、ということか?」

「そうその通り」


さすがに司さんも呑み込みが早い。

ここは森さんの話し方になれているせいだろうか。

当の森さんは、本来であれば「部外者」でここに来るのも初めてなせいか、黙っていた。

隣に不知火が移動して、いつも通り寄り添うように座る。


「そして、それはここにみんなが集まった時点ではただの私の憶測だから、確認できるまで、何も話せなかった。とりあえず、森ちゃん以外には」

「……なんでそこで森を巻き込むんだ……」

「一番すぐにレスポンスが返ってくるからだよ。あと、司くんに代わって情報共有をしてもらってたっていうのもある」

「!」


うん、そこはオレも共犯になるわけだけど、清明さんの件も含めると、共犯率ははるかに森さんの方が高そうだ。

話が進むにつれ、それは明らかになった。


「……秋葉の驚き方を見るに、秋葉も今日、何が起こるか分かっていなかったと思うんだが、そもそもどうして忍は気付いた? ……というより、清明さんはどうしてキミカズと清明さんを使い分けているんですか」


そうだ。新たな謎も増えてしまった。

そこは早々に教えてもらえそうではあるが、ひとつずつ頼む。


と、いう感じで忍の方を見ると、きちんとそこは理解してくれたようだ。

忍の話は体系立てられているので、分かりやすく話すべき時はそうしてくれる。


忍は、それから清明さんと司さんを見て、先に口を開いた。


「じゃあ私から答えるね」


エシェルは、はじめに清明さんを見たときから、と言ったから天使として騙されなかったということだろう。

オレはしっかり聞くことにする。


「まず最初は声。トーンも違うし、しゃべり方も違うから分かりづらいけど、この間一緒に街を回った時に、普通に話している時に気が付いた」


パイモンさんの時か。

確かにあの時は別におふざけもないし、オレたちというよりパイモンさんとしゃべっている声で引っかかったのかもしれない。

オレは気づきもしなかったわけだが。


「その前も実は疑問に思ってたことがあって……」


と忍は、ポケットから何かの紙片を取り出した。

広げる。

人の形をした紙……


「式神の札……か?」


よく、映画とかマンガで見るやつだ。ふつうに神社でも形代と言って、人形の紙に厄を移して祓うとかいうものが置いてあるのを、見たことがある。


忍の取り出したそれは、大分折り目がついて時間が経過しているようだった。


「これね、ここで初めてお泊り会した時に、別れて庭を探索したでしょう」

「あぁ、不知火が毎晩来ていたあの時のか?」

「そう。その時、最後に秋葉に合流した時、落ちてた」

「……」


清明さん、やらかした。

みたいな顔になってますよ。

間違っても今はキミカズ、と呼んではいけない雰囲気になっている。


「秋葉が一人で襲われた時、間一髪司くんが間に合ったふうではあったけど、実はこっちが先だったのでは、と私は思った」


オレは記憶をたどる。

よくは思い出せないが、ヒノエがキミカズとエシェルの方に行ってしまって、結局一人になったオレは、小鬼のような化け物に襲われた。

司さんと忍が合流して、助かったが……


「そうでなくても、キミカズは術師ではないと言っていた。にもかかわらず、こんなものが落ちているのはおかしい。明らかに、術師の存在があるように思えたわけで」


実は助けてくれたんだけど、痕跡残しちゃったんですね、清明さん。


「3つ目は怪しいと思い始めたら、ふつうになんかそう見えてきたこと。看破あるある」


ねぇよ。


「秋葉、前に待ち時間に私が清明さんの髪編んだとか言ったの覚えてる?」

「あぁ、なんでそんなことしてくれんの?って思ったやつな」

「思い出したんだ。キミカズの右の首筋……多分、本人から見えないところに、小さい痣があってね。……確か清明さんもあったなと」


そんなことよく覚えてるな。

なんでそんなことしてくれんの?とは思った記憶あるけど、オレ、その話いつしたのかすら覚えてないぞ。


キミカズはいつも髪をひとつに結わいていたから、これは確認するのは簡単だっただろう。


「で、それらを証拠にして聞こうと思ったんだけど何となくのらくら逃げられそうだったから、決定的な何かをと思って……」


一体今日のどこからどこまでが、「それ」だったんだ……

もちろん、きちんと説明してくれた。

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