3.繋がる欠片たち(1) ー推論は確証へ
「森ちゃんに協力してもらい、ヒノエとキミカズに同期で同じ質問」
「あぁ、『主』に関してか」
エシェルが違う方向で興味関心を抱いたように、そう発した。
「最初から主様(ぬしさま)、って呼ばれてることにも違和感だったんだけど、そこで答えが割れたでしょ?」
「僕にしてみれば、当然に『清明』が主でなければならない。キミカズは主ではないという認識で答えた。ヒノエは当然に、僕が清明であるから主と答えた。……見事にひっかかったということだね」
ようやく口を開いた「清明さん」は、そのままため息をついている。
「次に、司くんの番号を借りて、清明さんに電話をかけた。私や秋葉の通話はたぶん今日はサイレントになっているだろうけど、もしかしたら緊急連絡とかで鳴るかなと思って」
「それであの時、俺のを持って行ったのか」
むしろ徹底ぶりに半分呆れたように司さん。
「結局、圏外通知になったから、切られてたんだよね」
と、これは森さん。
二人してその場で、すぐに別の方法を考えたという。
「ちょっと悪質だけど、術師の本部にかけた。私の名前は名乗ったけど、名前を伝えたら危険な目に合うくらいのこと言って、そっちから緊急連絡が行くようにした」
「……それ、あの妙に何か事件起こってますみたいになったときか」
「窓の外に、その手のものがいるらしいと連絡があって……さすがにそっちの連絡網は切るわけにはいかず」
清明さん、本当に緊急連絡網使われたんですね。
言葉の魔術師、戸越忍が本気で頭を使い始めると半端ない。
今回は森さんもいたから即、次の手に移ったくらいの迅速さだったろう。
実際、帰ってくるのは早かったし。
「で、そこまでやってあとは私が一人でキミカズに今までの所業を白状し、問いただした次第」
「問いただしたのか白状したのか、どっちだ」
「どっちもです」
まぁそこまですれば、言い逃れはできないだろうなとエシェル。
確かに、証拠が挙がりすぎている。しかもリアルタイムに検証されるとは思っていなかっただろう。
「むしろなんでそこまでしたんだよ。いくらのらくら逃げられそうだからって、ふつうにそれだけ何かあれば話せばいいだろ」
「……自分の推測に自信も確証もないので」
「いや、むしろ確認しすぎだろ。清明さん、大丈夫ですか」
「……うん、ちょっとこう来るとは思ってなくて……」
ふつうにキミカズとして遊びに来てたもんな。
オレもびっくりしたけど、清明さんもびっくりしたと思うよ。
そして、話は清明さんの側に移った。
「で、清明さんはどうしてキミカズとしてここに?」
「……それは……単に、僕も休みたいときがあり」
わかる。
清明さんは普通に働きすぎだ。しゃべっていると半分職業病みたいなときもある。
しかし、なぜよりにもよってあのキャラなのか。
遠くしたいのはわからないでもないが……
あまり重要でもないだろうが、同じことが気になったのか司さんが聞いた。
「なぜあの『キミカズ』なんです? ……言動を遠くして分かりにくくするためですか」
「いや、どっちも僕なのは否定できない。旧とはいえ宮家の人間として、窮屈さを感じて自由にふるまっていたのがアレ。こっちは僕の社会的な一面。二重人格ではないけれど、息抜きをするのに楽といえば楽で」
すごい公私の使い分けだよ。
「私」「僕」「俺」を使い分ける浅井さん軽く超えちゃってるよ。
完全に別人格みたいに振舞えるというものすごいスキルだと思う。
それは清明さんというよりキミカズの持っているスキルっぽいが。
……敢えて、分けて考えてしまう。
それくらい二人の印象は、遠かったということだ。
「伏見仁一は、宮家の人間で性格は清明。キミカズは偽名を使って、自由になりたい僕の一面というか」
「名前と行動が逆転しているところが、面白いですね」
そこ、面白がるところではない。
「清明は清明で、本名や素性は明かしていないから、自由なんだけどね」
「……素性を明かさないための偽名、ですか」
ここは宮様であればわかる。
一般人の術師に混じって、危険区域に入って、危険なもの管理して、危険な知識身についてたらまずいだろう。
というか術師の時点でもう一般人ではないわけだが。
「三人存在すると思えばいいわけか。ここで『キミカズ』である君、宮家の伏見仁一、そして術師としての清明」
「やめて。わけがわからなくなる。もういいだろ、清明さんで」
「僕はどれでもいいんだけど。『キミカズ』としてふるまえる時間はとても短い。場所も相手も限られる」
宮家として必要な振舞いの方が求められるだろうから、まぁそうだろう。
オレたちだって初見が「これが宮様ぁ!?」みたいになってたわけだし。
「息抜きも大切だけど……キミカズ、君が僕のところでそれをやっていた理由(わけ)は?」
エシェルがことのほか、鋭く踏み込んだ。
オレにはそれが分かった。
それくらい分かった。
自分の正体を知っていてそれをしたのか、ということだ。
そもそもオレたちをエシェルに引き合わせたのは清明さんだ。
オレたちより前に、キミカズとしてここに出入りしていたのも明白。
どういう理由でそんなことをしていたのかは、そこしかないだろう。
「……」
清明さんは、わずかに黙した。
「単純に、ここは人が少ない。それから、友人の少ない君に、友人が増えたらと」
「残念だけれど、僕が聞いているのはそこじゃなんだ。もし心当たりがあるならはっきり答えてほしい。……でなければ、僕が司に説明するけれど」
「俺に?」
そして、繋がるのだ。
司さんに内緒にしていたこと、に。
果たして、清明さんの答えは。
「……」
再び、わずかな沈黙があった。
「忍と同じだよ。そうではないかとどこかで思っていたけれど、確証はなかった。今もその状態だ」
「そうか……」
エシェルは瞳を伏せ、それだけ言った。
オレたちが黙秘したままだから、清明さんにエシェルが何者であるかは伝わっていない。司さんと同じように。
「でもそう聞いてくるってことは君は、人間ではないということで間違いないんだね」
「!」
そういった清明さんは、少し笑っていた。
優しいような、微苦笑のような、どこか寂しそうな顔にも見える、その表情(かお)。
「忍、森」
司さんが、情報の共有者である二人の名前を呼んだ。
ここで、認識が揃うことになる。
清明さんについては確定ではないが、もう清明さんと分かった時点で進めるべきだろう。
呼ばれた二人は、同時に司さんを見て、顔を見合わせた。
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