それぞれのピース(3)ー欠片回収

「?」

「あ、オレのだわ」


キミカズだ。


「ちょっと悪い」


着信を確認して、電話に出る気になったらしく、部屋から出ていく。


「……意外と、マナー的なんだな」

「……」

「忍、どしたの?」

「いや、どうなるかなと思って」


あ、こいつ、ひょっとしてさっき森さんと部屋出たとき何か仕込んできたか?

キミカズはすぐに部屋に戻ってきた。


「キミカズ?」


どこか血相を変えて、まっすぐに窓辺に駆け寄ると、そこから何かを探すように、警戒するように外を見ている。


「どうしたんだ」


エシェルと司さんも何か、ただならぬことが起こっているのはないかと席を立ちかける。


「あ、いや。なんでもないんだ。ヒノエ、ちょっとここいてくれるか」


姿を消していたヒノエを呼んで、自分はまた廊下に出て行った。


「忍、お前、何かした?」

「どういうこと?」

「……いや」


これは追及しない方が良さそうだな。

何かが起こっているようだが、オレにはわからない。

それから、ヒノエが廊下に呼び出されて、キミカズだけが帰ってきた。


「キミカズ、何かあったのか」


エシェルが聞いた。


「あぁ、悪い。オレたまにこういうことがあってさ。そのためにヒノエがついてるから大丈夫なんだけど」

「何かに狙われているとかか」

「うーん、まぁそんな感じ?」


酔いは醒めてしまったらしい。

いつも通りには見えるが、どこか少しだけ緊張した面持ちでもある。


「大丈夫か? 俺が外を見てこようか」

「いや、大丈夫。大体何もないから。ちょっとヒノエのところ行ってくるな」


初めからそのつもりだったのか、ドアの近くからこちらには入ってこないで、そう言うともう一度キミカズは出て行った。


「……いや、あれ本当に大丈夫なの? エシェル、こういうことって前もあったのか?」

「ないな。僕も少し見てこようか」

「私が行くよ」

「「って、忍!」」


こういう時に、忍は素早い。

さっとソファを立ってオレと司さんがほとんど同時に名前を呼んだ時にはもう、ドアの前にいる。呼ばれたので、ドアノブに手をかけて一応振り返る。


「あ、じゃあ私も」

「駄目だ」


立ち上がりかけた森さんを二度目はないとばかりに司さんが肩を抑えてそのまますとんと座らせた。


「じゃあ不知火、一緒に行ってあげて」


森さんが声をかけるとソファの横で腹ばいに寝そべっていた不知火は無言で立ち上がって忍の方へ向かう。ついてこようとする不知火を見て忍は不知火と一緒に出て行った。


「……あいつは……」

「さっきトイレ行くのに怖いとか言ってたのにどーいうことだよ」


オレからすると意味があるのかないのかわからない行動だが、不知火がついたなら大丈夫だろうと、司さんはこちらに残ることにしたようだ。

エシェルがいるから万が一何かあっても大丈夫な気がするが、もちろん、司さんはそんなことは知らないわけで。


しばらくして。


二人は戻ってきた。

心なし、キミカズがげんなりしてみえる。

……げんなりというか、ものすごくため息をつきたそうな顔をしているというか。


「……」

「どうしたんだ」

「いや、ただの誤報だった……」


それはげんなりするよな。

その誤報って、どこからかかってきたんだ?


オレは聞きたくなったが、元の場所に座ったキミカズを前に、黙っていた。


「何かいそうな意味深な電話は誤報でした。代わりに重大発表があります」

「?」


なぜか忍は立ったまま、キミカズの肩に手を置けそうな場所にいる。

巻き込み決定。

ではありそうだが、内容は未だ持ってわからないオレも含めて、全員から疑問符が飛んだ。


「残念ながら今日は楽しいお泊り会なんて生易しい話ではなくなりました。ごめんなさい」

「いや、忍。前置きはいいから」

「秋葉にこの現実が受け止めきれるかどうか……」

「だから、いうなら早くしてくれるかい?」


かい?


……明らかに顔を片手で抑えたキミカズの口調が変わっていた。


「そんなこと言ったって、清明さん。今まで宮様宮様言ってさんざんここでゴロゴロしてた人が、清明さんだったとか、司くんでもさすがに驚くと思うんですが」

「!!!????」


司さんが驚いた。

ていうか、オレは忍が何言ってるのか理解できなかった。


……清明さん?

誰が?


忍は、未だ疑問符を飛ばしているオレを主な対象として、キミカズの髪を軽く後ろでまとめている髪留めのゴムを無造作に取ってみせる。

結っていたそれがほどけて、肩にかかる薄茶ストレートの髪。


……………………………………清明さんだ。


なんで気付かなかったんだ。オレたち。


清明さんだよ、これ。って。


「……清明さんんんんんんんーーーーーーーーーー!!!?」


その絶叫は、おそらくこの大使館の広い敷地の結構奥まで響いただろう。

エントランスや門を挟んで通り向かいの家には聞こえるくらいだったかもしれない。


全然気づかなかったよ。

でも確かに清明さんだよこの人。


さっきまで目の前にいた一人っ子の王様どこ行ったよ。

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