それぞれのピース(2)ーアルコール度数15%
どうすんだ、これ。
忍の方をさりげなく見る。が……
「ゴディバのチョコリキュールは、半端なくおいしい」
「これ飲んだ後ほかの買ったら薄くて結局飲み残しちゃったよ」
ふつうに飲んでいる。
待て。
「忍、これ、いつ何が起こるんだ?」
「いつ何を起こせばいい?」
承知はしているようだが、タイミングがなかなか摘めない様子。
日頃買わないものが並んで、酒の持ち寄り品評会みたいになっている。
「……ごめん、トイレ行きたいんですけど、ちょっとキミカズ、ヒノエさんを貸してくれませんか」
頼みごとになると敬語になる忍。
ここは夜になると、一部を除いて非常に暗くなる。
恐ろしい思いをした経験はすでにあるので、まぁ、わかる。
「……もう何も出ないけど」
「エシェル、余計怖くなるからその言い方やめて。何が出てたの?ってなるから」
何かいたっていう実績があるだけで割と怖いよな。わかる。
「忍ちゃん、不知火貸そうか?」
「話しながら気を紛らわしてほしい」
「忍はけっこうこわがりなんだな」
ものすごく対象が限定的だけどな。
そして、忍がヒノエと一緒に出ていく。
……ひょっとしてこれ、何か動いたのか?
……普通に離席なのか。
まったくわからない。
「そういえば、キミカズさんて術師ではないんですよね? ヒノエさんに主様って呼ばれてるのはやっぱり、ずっとお付きだからですか?」
「ノー敬語ノー敬称で」
「キミカズ、ヒノエの主なの?」
森さん、ノー敬語ノー敬称になったら質問文がめっちゃ、短くなったぞ。
着眼点は忍と似ている。
オレにとっては割とどーでもいいというか、疑問にも思わないところだ。
「違うよ。式神の主って、呼び出してる人のことだろ?」
「そうなんだ。ヒノエはキミカズは主だって言ってたけど」
絶妙のタイミングで忍が帰ってきた。
一瞬キミカズが「え」みたいな顔をしたが、ドアは開け放たれていると静かな無人の廊下に会話も筒抜けなのだろう。
「……呼び出した主も、守る主も私にとっては同じという意味だ」
「……日本語って難しいね」
森さんと忍は同期して同じ質問をそれぞれにしていたのか。
……これは偶然なのか?
しかし、ヒノエは動じていないし……
何がどこまで動き始めているのか考えるとオレは混乱しそうになりそうなので、来るべき時が来るまで待つことにした。
「……」
エシェルもなぜか黙して、キミカズを見ている。
え、これは一体どういうことなの?
エシェルの正体どころか、本当に、今現在、何が誰まで通っているのかが、全く分からない。
むしろオレ、通り抜けてるだろ。これ。
「その辺の認定基準は、式神と人間でも違うみたいだし、ヒノエがそういうならそれでいいけどな」
あはは、と何事もなかったかのように笑うキミカズ。
「司くん、スマホ貸してくれる?」
「?」
そして、確実に忍が動き出した。
「どうしたんだ?」
「実は、スマホを忘れてきました。電話をかけたいのですが」
「私が貸そうか、忍ちゃん」
「待て、森。それは俺のだ」
いや、これ普通に司さんで遊んでるの?
二人して遊んでるの?
いつにないテンションで女子二人は、司さんのスマホをもって部屋の外へ逃げて行った。
バタンとドアも閉められる。
「酔ってるな……」
「かわいいねー君の妹」
「……キミカズも酔ってる?」
「あ、チョコリキュール強いわ。緩む」
オレは瓶を何気に見た。
アルコール度数15パーセント。
ふつうに高い。
「……司さん……森さんて、これよく飲むんですか?」
「いや? 一度どこかで飲んだらおいしかったと忍がくれて……それからたまに飲むくらいじゃないか」
「これロックも牛乳割りもやばいくらいいける」
「キミカズ、飲みすぎじゃないか?」
一度飲み始めたら、エンジンがかかってしまったようだ。
というか、何気に森さんが飲ませていたようにも思うが、オレの記憶が改ざんされているんだろうか。
「エシェルー、コーヒーゼリーにも合うから食べてみようよ」
「ってか、コンビニ行ってきたの!? めっちゃ早くないか!?」
「……酔い覚ましに、徒競走を」
どういう女子だ。
「嘘だよ。外の方が寒いから吊るしておいたの」
「普通に冷蔵庫借りろよ」
「遠いんだもん」
なんか田舎に行くとスイカを川で冷やすとか伝説かと思ったけど、似たようなことを都心の真っただ中でやってるよ、この二人。
「エシェル、この部屋にも冷蔵庫常備」
「……考えておく」
「いや、考えなくていいから。めったにないからこういうこと」
「こたつとみかんも」
「……二人とも、酔ってないよな?」
お泊り会でテンションが上がってるようにしか見えないんだけど。
というか、この二人揃うとテンション地味に上がるよな。
声はフラットだけども行動範囲が一気に2.5倍くらいになっている気がする。
「忍、俺の携帯」
「森ちゃんに返しておいた」
「なんでだよ」
意味が分からないが、森さんとともに部屋に戻ってきているようなので、司さんもあまり気にしていないようだ。
地味に、酔っているのか酔っていないのかわからないテンションで飲んでいる。
「司、いつも制服だからなんか私服だと新鮮だな」
「? いつもというほど会ってないだろう?」
「あ、オレ映像とかよく見るから。仕事柄」
「そうなのか?」
元々フレンドリーな感じだが、それで司さんにも初めて会った感じがしないっぽく話してるんだな。御岳さんと同じタイプだろうか。
……だったら、一歩間違えると嫌われるタイプだから気をつけろ。
その時、誰かの着信音が鳴った。
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