エピソード6ー言霊
1.忍の身上調査
※このエピソードパートは、清明さんが秋葉とひたすらモノローグに近い話をしていきます。
若干職業病テイストな清明さんの話は、ちょっと難しくて、異世界です。
エピソードパートなので、読み飛ばしOKですが、たぶん、今回は読んでおくとこの先のスパイスとして面白くなると思います。
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忍が「ソロモンの指輪」を手にして、しばらく。
オレは清明さんと話をする機会があった。
と、いうよりも要石のその後の話などを聞いて、必要とする神魔に情報共有という形でつなぐ。
地味といえば地味だが、割と重要な仕事だ。
が、内容的には時間がかかるものでもなく。
いつしか話は清明さんの知る、私的な話題にと及んでいた。
それもはじめは仕事の話だ。
「指輪」は誰が所持しているのか、一部の人間以外の知るところでしかない。
現場を見た清明さんはもちろん知っているし、それに対して、動いてもいるようだった。
「指輪に関しては魔界の公爵方に一任しているけれど、実は、戸越さんの身上調査が行われてね」
「……それって履歴書の、とか言うレベルじゃなくてもっと個人的なものですよね」
「事態が事態だから、残念だけどプライバシーが云々言っていられなかったんだ。でも彼女、別にやましいことはないから事後承諾でも嫌な顔はしなかったよ」
意外だ。
忍は自分のことを聞かれるのは好きじゃない。
親が誰とか、肩書がどうとか、そういうもので判断されるのもするのも好きではないからだ。
曲がりなりにも目的のはっきりした、国家機関の調査だったからだろうか。
清明さんの話によれば、より詳細な身元確認のような意味であったようだが……
「こちら側の見解としては特に問題はなし。逆に面白いことが分かってね」
「面白いこと?」
聞いていいのだろうか。
……清明さんが話そうとしているのだから、秘匿事項などではないだろう。
実際、清明さんはなんだかちょっと楽しそうだった。
「彼女、神道の血脈にあるようだ」
「えぇっ! そんなこと聞いたことないですよ!?」
神道の血脈。
それはふつうに神主とか宮司とか、神職にゆかりがあるということだろう。
一切、そんな話は聞いたことがない。
家庭の事情なんてもちろんお互いに知らないことの方が多いが、確か父親は自営業で、母親も普通の人だったくらいしか聞いたことがなく。
「だろうね。彼女の父親は東北の出身で、兄弟が多く末の方に生まれていた。中学時代に父……つまり戸越さんのおじいさまを亡くし、その後は単身上京してほとんどあちらの親族とは関りがなかったから、彼女自身そのものか、彼女の父親も神職としての血脈であることは意識していなかったようだ」
「……父方が神職、ってことですか」
随分込み入った事情だが、逆に遠すぎる話で確かにプライバシーという感じではない。
むしろ忍自身も知らない身の上話しだったろうから、なるほど嫌がるより先に興味が来たんだろうということは容易に想像できた。
「そう。それもそれなりに代々続く一族で、彼女の伯父や年の離れた従兄も他県で宮司をしている。いわゆる住み込みや通いではなく、自身の家自体が神社、という家系」
「……なんか、本人が聞いたら面白がりそうなんですけど」
「そうだね。興味は持っていたようだったよ」
そして、つづけた。
「更に、おじいさまの奥様……つまり戸越さんのおばあさまは、寺の娘だった。偶然にしては出来すぎていると思わないかい?」
確かに、血統が何かを示すのであれば忍の父親は神仏関係者のハイブリッドであり、忍自身はクォーターということになる。
宗教色の濃い血統としかいいようがない。
が、偶然以外の何かが何も想像できずに、聞き返す。
「やっぱり、そういうのって何か関係あるんですか」
「ある、という神職もいればない、という人もいるね」
だよな。
確認しようはないよな。ふつうの場合。
しかし、今現在は「ふつう」ではない時代であって。
「血統かどうかはわからない。でも彼女の神魔に対する壁の薄さには、そういうものがあってもおかしくないな、とは思った」
「忍自身は知らないことだったんでしょう?」
「だからこそだよ。知らないのに、抵抗がないっていうのが少し不思議だろう?」
そうだな。それは言えてる。
生来の性格だとか育ち方もあるんだろうが、そういう可能性があるということは、血脈的な何かがある可能性も否定できない。
「で、一応僕が一通り術師の機関を連れ歩いて適正も計ったんだけど」
「計ったって……適正ありならまさかの術師?」
「ちょっと考えた感じでも即答に近い形で断られたよ」
と、いうことは適正は皆無ではなかったということだろう。
面白がってついていきそうなのに、そういうところはブレない。
「でも、忍って怖い系嫌いですよ。近づきたがらない。オレもだけど」
「僕らの『偏見』によればそれはもしかしたら、直感的に危ないと感じているからかもしれないね。秋葉くんだって、目の前の道路が崩れていたらそこを避けるだろう?」
……何となくの世界だから、なんとなく嫌な感じがする、行きたくない。になるのか。
例えがわかりやすすぎて、逆に困る。
「でも、だったら悪魔とかおかしくないですか。宗教違うけど、どっちかっていうと神職に祓われる側って言うか、なんていうか」
「それについては、彼らを悪魔としてみるか、神として区別するかの違いだろうね」
この人は趣味が仕事なのだろうか。
やっぱり何となく笑顔でどこか楽しそうだった。
「この国の神様、どういう数え方をするか知っているかい?」
「『柱』ですよね。ダンタリオンたちも海外では72daemons(デーモン)って言われてるって……柱なんて呼び方しているのは日本くらいだって前に聞きました」
「そう。この国に悪魔と言うものは存在しない。むしろ、世界の多くを占めていた唯一神由来の宗教以外では、そんなふうに神と魔を明確に区別する方が珍しい気もするね」
……そういえば。
この国に滞在する「神様」のヒト達の世界では、悪神はいてもそれを悪魔とは言わない。
あるいは、神様そのものに二面性があるのが、一般的だ。
多くの神には二面性があり、魔界と呼ばれる存在は、他の宗教では冥府や黄泉の国などと表現され、そこにはそこをつかさどる「神」がいる。
そして、そういった異教の神たちは天使たちの世界では「悪魔」と呼ばれるのだと。
「そうか……あいつらもある意味、神に近いってことか」
今更に言われても、信じがたいことであるが。
しかし、天界に対をなす魔界の王侯貴族であればそれらに匹敵する存在ともいえる。
であれば、区別を必要としない者からすればどちらも同等の存在でしかないのだろう。
そこにあるのは、性格や性質上の違いだけなのかもしれない。
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