象徴するもの(7)ールール
固くなっている空気に改めて配慮したのか、アスタロトさんは小さくため息をついて自ら空気を緩ませた。
とにかく座るように促される。
自分は立ったままでアスタロトさん。
「単刀直入に言う。彼らは部外者だ。今の段階で忍が指輪の所持者だと知られるのは好ましくない」
「……ついさっき、転移召喚かけてたの誰だ?」
「好ましくない、と言ったんだ。絶対やめろとは言っていない」
オレたちも同席させたのは、話を聞いておくべきだからなのだろうが、実質、話は魔界の貴族二人の対話となる予感。
「ヴォラクに、それ以外の3人……観光組には召喚者について秘匿の誓約を如いた。忍から相談を受けて、召喚に同意したのもそのメンバーなら誓約破棄の可能性は極めて低いからだ」
……つまり、召喚者が誰かは魔界の方にも知られたくないってことだな。
って、ちょっと待て。
確か忍は「自己判断で使ってもいい」と言われていると言っていなかったか。
さりげなく忍を見る。
きっちり閉口している。
黙って見守ってるとかじゃなくて、閉口。
目が合ってもそれは維持されている。
そっか。それ言ったのダンタリオンだもんな。よかったな、案件お持ち帰りしてアスタロトさんに聞きなおして。
みんなまとめて、怒られないで済んだよ。
その代わり、適当に許可したやつが空気的に絞られている感じにはなっている。
「だったら、今回の四人もその対応で済ませればいいんじゃないのか? 一応さっきのメンバーと同じで事件と言えば事件だぞ」
「この国に好意的な悪魔なら、そのやり方を否定しないよ。ただ、観光組じゃない悪魔が混じっている」
「!」
ダンタリオンの顔にそれで初めて、驚きのような……いや、理解、なのだろうか。そんな感情が浮かんで、一瞬だけ瞳が大きく開かれたのをオレは見た。
しかし、オレたちにはそれが何のことだかわからない。
ここからは介入していいと判断したのか、忍が口を開いた。
「観光組じゃないって……滞在許可を得ているヒトがいるっていうことですか?」
「そうだね。彼らの名誉もあるから明言は避けよう。ただ、もともと復旧のための手伝いをしてもらうために呼ばれているだけで、特に人間に対して好意的ではない存在だ。……この手の管理情報は『大使』の方が知っていてしかるべきだけど」
なんらかの己の落ち度を認めたのか、うっ、と言葉に詰まって反論すらしないダンタリオン。
たぶん、もうアスタロトさんの言わんとしていることはわかったんだろう。
「そのヒトに知られると何らかのリスクにつながる……?」
「あくまでリスクだ。彼らだけでなく、今の時点では誰が相手でも、秘匿にできない状況は避けたい。……わかるね?」
三人顔を見合わせて、頷く。
特に司さんは、ことの重大さを理解したらしく、自分からその先を確認した。
「忍は鳥の餌付けをよくしてるんですが……最近、特に覚えられているようで、彼らもその中の一員のようでした」
そうだな。あそこで足元うろうろしてた中にずっと、あの四人入ってた可能性あるってことだもんな。
「もしも、俺たちが無意識にそんな話をして、聞かれていた場合は?」
「……」
そうだよ、雑談で普通に話してたよ! どこからどこまで聞かれてたのかわからないけども!!
それは報告しておいてしかるべきだ。よかった、今日司さん一緒で。
アスタロトさんはそれを聞いてほんの数舜だけ、考えたようだった。返事はすぐだ。
「一応、ボクがカマをかけておこう。するなとは言わないけど、悪魔は動物に姿を変えられるものも多いから、気を付けた方がいいかもね」
「大体、ヘビと鳥が多いけどな」
「スズメは?」
「聞いたことがないな、なんでそこでスズメが出てくるんだ……?」
それはな、忍が一番懇意にしてる野外生物だからだよ。あ、猫もか。
「でもそんなに気を付けなければならないほどですか? いつかは……その、多分、わかりますよね?」
いつかと言わず、有事があれば場合によってはすぐにでも、だろう。
オレは何も考えないで聞いてから、なんとなく最後まで言いづらい思いをすることになる。
「司、『石』を破壊した犯人はまだみつかっていないんだろう?」
「……えぇ。ただ、人間だけでは犯行は無理なことは明白です」
「そういうことだよ」
皆まで言わない。自分で考えさせる。
けれど、必ず重大なヒントがあるので、答えは出しやすい。
つまり、人間の犯行にしても神魔の協力者がいるということだ。
「内部犯」というのは護所局の人間であるとは限らない。
事情を知る神魔の身内、という意味もあったらしい。
「秘匿の誓約を交わさせればそれはリスクは減るけれど……破る方法がないわけではないからね。まして人間がかかわっているのであれば」
この辺りは全く何を言っているのかはわからなかった。
ダンタリオンに向けての警鐘だろう。
神経質になるほどではないけれど、考えなしに使うのはいささか親切すぎると言って、アスタロトさんは話を締めた。
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