象徴するもの(8)ー蛇
「それよりも、どうして観光滞在のボクがこんなに心を砕かなければならないのか、まずそっちを説明してほしいんだけど」
ことさら観光滞在強調してるよ。もうこれ以上介入しないくらいの機嫌の斜めり加減を感じるよ。素直に謝れ、ダンタリオン。
「悪かったよ。今回の件はオレが軽率だった。脳内のセキュリティレベル上げとくから、もう追及しないでくれ」
素直に謝った。
「それで、あの四人についてはどういった対応を?」
ダンタリオンを助ける気はないのだろうが、司さんが先を進めることで、話がいつもの空気に戻ってきた。
「全員一度、魔界に戻せばいい。この国で受けた何かしらの制約ならそれで解除できる。今回に限っては下手に親切心を起こさない方がいいね。そもそも全員転移召喚の対象だから、忍の練習にもならない」
合理的だ。
「あぁ、それでヴォラクは召喚かけたのか」
「彼は気難しいけど、納得すれば協力的だからね。そういえば、忍。ヘビが出る場所を教わっていたみたいだけど」
「お前、そんなこと聞いて何になるの……?」
「違う。私が聞いたんじゃなくて、行ってみろって言われたんだ」
それで行くのか?
わざわざヘビに会いに?
ないだろう。
オレは思ったが、爬虫類もなんのそのな忍は行くかもしれない。
「一緒に行ってみる?」
「絶対行かない」
ほらな。
「じゃあいいよ。森ちゃん誘ってみるから」
「司さん……森さんも爬虫類平気な人なんですか」
「爬虫類というか、ヘビやトカゲ類は目が円らだとかそういう寸評が多いな」
つまり、かわいいってことか。
その言葉を使わない辺り「かわいいかわいい言う自分がかわいいと思ってる女子」にはまったく当てはまらない様子。
「秋葉は行かないのか。残念だな……」
「アスタロトさん、なんで残念がるんです」
「いや、向こうから教えてきたということはそれなりに意味があると思うから。司も気が向いたら一緒に行ったらいい」
「いえ、俺は……」
「ヴォラクの教える『蛇』は相当に大きなものであることが多いんだけど……まぁ、女子二人で行ってみるのも面白いかもね」
「忍、俺も行く」
護衛的な意味で決を採ったらしい。
絶対そんなとこ行かない。
お化け屋敷より怖い事態しか思い浮かばない。
「久しぶりにおでかけだねー。楽しみだ」
「何をどうしたら楽しみになるんだよ。お前、ピクニック程度にしか思ってないだろ」
「でも街中だったよ?」
鳥と化したままの魔界のヒトたちはそのままダンタリオンが通常対応ということで……
なんとなくこの先の方針が見えたオレたちは、結局そのまま夕食まで御馳走になってから、それぞれの庁舎に戻ることになった。
後日。
「蛇、みつかったか?」
「何もいなかった」
なんとなくがっかりな忍の隣で、ちょっと呆れたようにため息をついている司さん。
「でも宝くじを拾って」
「年末近いからな」
「司くんに届け出た」
「いや、それふつうに落とし物届けただけだろ」
そして、その遺失物行きの宝くじは、持ち主も現れず……
年を越えたその頃。
「例の宝くじですが、三等当選していた模様です」
「三等!? いくら!!?」
「一千万」
「いっせんま……」
三か月後には、全額受け取りの権限。
所有者が現れても10~25%の報奨金。
「もっと嬉しそうにしろよ。どっちにしても濡れ手に粟だろ?」
「白蛇とか見られるのかなーと思った。何か運が上がりそうで期待してたんだ」
「いや、金運はすごい一気にやってきてるからな、それ。ステータス上げるより確実だからな?」
そんな会話を交わしたのは言うまでもなく。
「蛇っていうのは、財や富の象徴。あるいは知識や知恵の比喩でもあるからね。ヴォラクの能力は、望めばそういうチャンスに出会う場所を教えてくれるということ」
「アスタロトさん、そういうことは早く言ってくれませんか……」
「お前な、そういうこと言うやつは花咲じいさんでいうところの、隣のじじいみたいなことになるから気をつけろ」
「悪魔に花咲じいさん例えに諭されたくねーよ」
魔界の公爵たちは知っていた模様。
果たして三か月後の、顛末やいかに。
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