象徴するもの(5)ー気まぐれ

なんだかんだ言って、ドラゴンっぽいものは初めてなのでテンションを上げている忍。

それを物珍しそうに見ているヴォラクさん。


「……日本人というのは、皆あぁいうものなのか」

「違います! あれは特殊ケースです! 全然規格外だからあれを普通と思わないでください!」


オレ、全力否定。

普通だと思われて、ドラゴンに街を闊歩されるようになったら困る。


「面白い子だろう。あれを使ってボクが勢力拡大できると思うかい?」

「……。いささかそういった方面では向いていなそうだな。確かに貴殿の言う通り、貴殿がその気になれば、指輪などなくともそのようなことは造作もないことだろう」

「ボクもそっち方面には、あんまり興味ないからね」


階段に腰を下ろしたままアスタロトさん。

飄々としたまま繰り出される会話に、なんとなくダンタリオンは何か言いたそうだ。

が、げんなりとした感じで黙っている。


「……秋葉」


司さんに言われて、オレだけでなく全員がそっちを向いた。

正面のアプローチから、誰か来る。


ヘビたちを従えて。


「……リリス様じゃないか? あれ」

「なんでこんなとこに? 魔界帰ったんじゃなかったの!?」

「オレに聞くな! とにかく道開けろ!」


にわかに騒ぎ出すごく一部除いたオレたち。

魔界の女王が再びやってきた。

これは、召喚された他のヒトたちにとっても、大変な事態であるらしく今までのなんとなく気が緩んだ感じから一気に、全員背筋を伸ばした。


「は~い、また来ちゃったv」

「リリス様におかれましてはご機嫌麗しく……」

「……どうしたんですか、いきなり」


というかヘビ。

魔界のヒトたちが黙って緊張感漂わせてるので、そっちの力関係にはあまり関係ないオレの方が気さくに聞いてしまう。


手前にいたドラゴンのところで忍とは合流したので、一緒にいる。


「この間の蒔絵のペンが気に入っちゃって。ダーリンとおそろいで私も欲しいなって」


また買い物か。


「……なんか迷子になってたこっちの子をリリス様が保護して、更にそれを探しに来たこっちの子も保護して、極めつけにそれを探しにし来たボティスさんも迷子になったからリリス様が保護したって」


どんだけ遭難してるんだよ。

そんな顛末で特殊部隊は駆り出されてたのか。


……貴族様のやることだから、外交上、文句は言えない。


「ここに来れば、みんなまとめて面倒見てくれると思ったのよ。ダンタリオン?」

「はっ……! 仰せのままに」


……面白いな。こんなに立場上のヒト相手だと態度違うんか。

多分、司さんと忍も違和感を超えてそんな感じでそのさまを見ているであろう。


「良かった……マリアンヌ……!」


え、それヘビの名前ですか。

いかつい甲冑をまとった黒騎士は見た目に反した愛玩精神を露わにしている。


「ヴォラクも来てたのね。あなたの性格だと絶対に来ないと思っていたけれど」

「……いえ、わたくしは……」

「とっても面白い国でしょう?」

「…………」


悪意なき女王のお言葉に、違いますとは言えなくなった雰囲気。


「リリス様は、なんだか日本を気に入ってくれたようですね」

「実は1週間前から来ていて、今日が帰る日なのだけれど案内がなくても回れるようになったの。るる☆ぶとか、雑誌を見てまわるのも楽しいわ」


大衆向け観光情報誌を手に取ったらしい。

まぁ女性だからな。

食べ物いっぱいの情報誌も楽しいんだろう。


「エリゴールとオリアスも観光でしょう? 駄目よ~ペットは繋いでおかないと」


人間をベロアのリボンにつないでお持ち帰ろうとしていたリリス様に、人間ルールを教え込まれている二人。

爵位はよくわからないけど、型なしだ。


「は……ありがとうございます」

「リリス様、おやすみになられていきますか?」


遺失物の届けを出した全員がここに揃ったので、これで事件は解決だ。

が、魔界の大使の仕事は一気に増えた。

気苦労も増えた。気遣いというより、義務感でだろう。休憩を提案するダンタリオン。


「そうね。久しぶりにアキバたちにも会えたし……少し休んでいこうかしら」

「リリス様、私、お三方を送還しなければならないので」

「俺は滞りなく済ませられるか、護衛も兼ねてこちらに」


逃げられたーーーーーーー!!!!!


まさかの司さんまで速攻そっち理由に持ってきたよ!

公的な鉄壁の理由だよ!


絞りだそうにも、オレにはそんなものはない。

そう、オレは外交がお仕事……


「アスタロト、お前」

「ボクは戦術顧問だからね。ここにいる間は教習中だしちゃんと見てるよ」


ダンタリオンが巻き込もうと言い切る前に、アスタロトさんも丁重にそれを回避した。

……お前、自分から言った単語使われてるぞ。

この先何かあったら、あれ使われるぞ。


「そうなの。賑やかになるかと思ったけど残念ね。じゃあ行きましょ」


そして、女王様が去るその背後から、残った多くのヒトたちの、安堵の息が漏れるのをオレは聞いた。

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