キミカズとプレゼント(5)ーそして。

あの日のエシェルとのこと。

それを口に出せなかったこと。


魔王様の相手に懸命で、今朝ここに来た時に抱え込んでいたはずのそれはすっかり影を潜めいた。

そして、今はもう、鬱々とした気持ちがさほどではないことに気付く。


オレは単純だ。


「さっきの話。私の勘は鋭いと思う? 気のせいだと思う?」


キミカズと別れてから言っていたことの延長だ。

それをもうだいぶ前から察していたのだとすれば、ひょっとしてオレを気晴らしに連れ出してくれたんだろうか。


結果的には、いい方に考えられるようにもなっていた。


「お前の勘って、根拠あるだろ。何でそう思うんだ?」


それでも乗っかるように聞いてみる。


「普段そんなふうに聞き返さない秋葉がそんなふうに言うってことは、確定かな」

「……」


たまにはそれっぽく応答してみようと思ったが、むしろ撃沈された。

慣れないことはするものではない。


それでも。

忍は唯一の同じ立場からの情報共有者だ。

エシェルのこともオレだけが知っていたところで、意味はないんだろう。


……オレはあの日の出来事を、すべて話すことにした。





すべてを話した後の忍からの反応。


「何でもっと早く話さないの!」

「だってお前、指輪のこととか忙しそうで!」


正論に正論で返すとすぐにテンションは戻る。

感情的にならない分、逆に安心して白状はできると捉えた方がいいのかこれは。


「あれは面白いからいいんだよ」

「面白いのか」

「私にとっては重くはない」

「……」


お前適任だったよ。オレ、手にしなくてよかったわ。

きっぱり本音で言い切る忍の顔に、胸のつかえがすっきりとれた気分だ。


「エシェルがウリエル、か……だとしたら、これ結構大変なことだと思うんだけど」

「……忍、ウリエルってどういう天使か知ってんの?」

「詳しいことは知らない。でも、日本では一般的に四大天使として有名だね」


四大天使。

……もう聞くだけで、相当位が高いことはわかる単語だ。

無個性なエンジェルスと違って、明確なポジションや役割がある予感がする。


「四大天使って……」

「例の神の前に並ぶことができる四人の天使。ミカエル、ラファエル、ガブリエル、それにウリエルで四大」

「……それってつまり」

「天使の階級で言ったら、一番上ってことかな」


なんでそんなすごい天使様が日本にいるんだよーーーー……

めまいがしそうだ。


「清明さん、これ知ってるのかな」

「どうだろ。清明さんも公にしたがらない人っぽいし、全然判別できない。公爵はあの後、思い出したのかな」


そういえば、初めて会ったときにその正体まではわからないようだった。

どこかで会った、程度の引っかかりを感じてはいたようだったが……


というか、魔界の貴族と「どこかで会ってる」時点でもうそれなりのヒトだよね。なんで気づかなかったんだ、オレ。


「この状況は『石』の時みたいだな」

「……誰がどこまで情報を持っているのかわからないから、うかつに話せないってアレね」


同時に出るため息。


「でも少なくとも公爵は黙っていてくれてる手前、報告してしかるべきだし、もうこのレベルになると秘匿しておいたらまずいと思う」

「……ダンタリオンとか、逆に報告したらまずい方向に動きそうじゃないか? 何かすごい嫌ってるみたいだったし」


文字通り初対面で殺しにかかっていたくらいだから、それが四大天使の一人となればただでは済まないのではないか。

そんなことを知ったら、冷静に対処している姿が想像できない。


「そうなんだよね……だからその前に……」


忍は何かを思いついた様子。


「エシェルのところでもう一回お泊り会でもしてみない?」

「は?」


あまりの突拍子のなさにオレはついそう返す。

返したところで続きは出ない。


「もちろん本人に了承は取るよ。キミカズも呼んで」

「なんでキミカズ?」

「聞きたいことができたんだよ」


片手で指を折るほどしかあっていないのに、というかだからこそ、か。

何か糸口を掴んだのかもしれない。

忍の言う「お泊り会」はほとんど隠語だ。

意図が別にあることをすぐに悟る。

オレには皆目見当がつかないが、何か思うところがあるならそうするのがいいんだろう。


「じゃあそのお泊り会っていうやつ。お前に連絡とか任せていいの?」

「そうだね、その先のことは、その成り行き次第だ」


成り行き次第。

忍にしては不安定な言葉を使うと思ったが、実際、何がどう転ぶのかわからないのでそれが結局は一番「確実」なのではないかと、思い直してオレたちは別れた。

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