キミカズとプレゼント(3)ー魔王様とジェラート屋

「でもそれって、この辺りですぐに調達できるもの?」

「いや? 大体、地方のとか多いだろ? でも……そうだ。ここでそういう写真集見て選んでもらおう」


そうしよう、とキミカズはひょいひょいと本とにらみ合っているパイモンさんの方へ行って声をかけた。


「……意外とすごい人選だったな」

「うん。なんかエシェルのとこだとだらけてるけど、けっこう頭いい人なんじゃないの?」


忍の中の評価も少し変わったようだ。

キミカズは、マイペースながらにてきぱきと写真集を選んでその場でパイモンさんに見せている。

なんかもう、任せておいてもいい感じだ。


「秋葉、のど乾かない?」

「そうだなーでもさすがに王族ふたり置いてお茶してたらまずくないか」

「ソルベが食べたいんだよ。なんか急に」


と忍が指を指し示す先に、イートイン。

テナントのジェラート店のようだが、種類がものすごくあるのが目に付いたらしい。

今は無人だが、列を整理するポールに、メニュー表が手前にある辺り人気の店なのかもしれない。


「ほら、パティシエが直製造してるみたい」

「お前、普段間食しないのにこういうの好きだよな。ジェラートじゃなくてソルベがいいの?」

「……食べたい味がソルベだったんだ」


と指し示すそれは柚子だった。やっぱりあっさり系が好きらしい。


「わたしがおごるから、本屋の用事が終わったら一度落ち着いてみんなで情報整理しよう」

「それならいいんじゃないか」


しばらくしてキミカズがパイモンさんを連れて戻ってきた。


「お前らな……丸投げして、あとで高くつくぞ」

「違うよ。思った以上に強力な助っ人だったからすることがなく」

「パイモンさん、忍がスイーツ奢ってくれるっていうから選んでください」

「?」


魔界でどういうものが出るのかは知らないが、休憩ということであまり気にしない。

キミカズはキャラメルアマンド、オレはエスプレッソという無難な選択をする。

パイモンさんは、さらに無難なストロベリーを選択している。


……なんだかわかっていないようではあるが。


「……」


え、何この構図。

普通にかわいい小柄女子が目の前でいちごのジェラート食してるんですけど。

黙したまま。無表情だが、もくもくとスプーンが進んでいるので、多分、おいしいんだろう。


ていうか、かわいいんですけど。

キミカズも同じくそれを見ているが……なんだか複雑そうだ。


「どうかした?」

「いや……パイモンさんて、魔界の西方の王なんだよな?」

「そうだが、それが何かしたか」

「神魔のヒトって性別超越してるとは思うんだけど、王様ってことは一応男なんだよな?」

「一応とはどういう意味だ。……この菓子に免じて許してはやるが」


…………そうだった。相当小柄でかわいい、に騙されていたが王様イコールふつうは男だ。

どうりで声がハスキーなわけだよ。

今更ながらの事実に、オレは遠い目をしてしまう。


そして、ジェラートはことのほか気に入った模様。


「ここの店すごい当たりだ。メニューも豊富だったけど、柚子はピールも入っていて絶品」

「うん、普通にうまい。おぼえとこ」

「昭和天皇にもパイモンさんと同じように選ばせてあげて食べさせてあげたかったくらいおいしい」

「その話題、引きずらなくていいから」


よっぽど忍にとっても不憫に思えたんだろう。失礼ながら。

オレたちはこうして好きな時に好きなものを、好きなだけ食べられるという至福を味わっている。


「それで、何か良さそうなものはみつかりましたか」


本題に入った。


「うむ。香炉はよいな。陛下もよく使っていらっしゃるし、色も悪くない」


日本の伝統品てなんだかんだ言って染め物以外は黒に落ち着いているよな。

無難といえば無難だが、高級色でもある。


「花器は、キミカズが言う透かし彫りのものが美しい。この国の品は繊細で緻密なところがよい。書物も何冊か選んでみた」


なんかあっさりいろいろ決まってるんですけど……


「あとは、先ほど提案を受けた菓子器。それに合う菓子を、不定期でいいから選んでほしい」

「……誰がですか」

「アキバとシノブでよい。この街には良きものがたくさんあるのだろう?」


………………。


「いやいやいや、それは荷が重すぎますよ! 皇帝陛下への贈り物? ……今の日本には、洋菓子の方が多いです」

「日本のものは質が良い。菓子の種類にはこだわらん」

「ダンタリオン公爵を通した方が、確実では?」

「やつはあてにならん」


ダンタリオン……お前、あてにされてないよ……

多分、メンドクサイとかだるいとかそういうの看破されてるよ……


「……キミカズ……」

「都内の銘菓なら腐るほどあるだろ。御用達ならオレも調達手伝うから、……いいんじゃね?」


いくねーよ。


「できるときで良い。縁だと思って頼めないだろうか」

「うっ……」

「日本にいる魔界メンバーからの献上ということで、経費はダンタリオン公爵につけておいていいですか」

「些末な額だ。私が送っておく」


資金繰りがクリアできたところで、話が進んでいく勢いだ。


「じゃあ森ちゃんにも手伝ってもらお。あんまりデパ地下とか回らないし、目的ができるとなんか宝さがしみたいで楽しそうだね」


……ご不興を買うという可能性については。


「ふふ、そうか。品については私にあててくれ。検閲はする」

「了解です」


まぁ、やる気があるようだから忍に任せておこう。

しかし、今、パイモンさん笑わなかったか?


ふと、流してしまいそうな展開だったが、そうして見ると、やはりいつもの無表情な少女のような整った顔があっただけだった。




その後は、伊東屋へ行ったり、さっそく菓子を見て歩いたり……

日が暮れるころには、大体、用は済んでいた。


「……まさか、こんなに早く用が済んでしまうなんてな」

「初めて会ったときは、日本の過ごし方とかの案内がメインだったから、ここまで込み入って色々見られなかったし……楽しかったです」

「そうか。私も楽しかった」


全く顔に出ないので、すっごく楽しそうに見えないけど、そこはかとなく機嫌が良さそうなので問題はなさそうだ。

……王様は何人か来たけど、個人的に一番平和な同行者だったな。


「取り寄せのものは揃ったら、魔界の大使のとこに送っておくんで、そこ経由で届くようにするな」

「あぁ、いずれ検閲はする。……他に何か見つけたらぜひ教えてほしい」

「お任せを」


大仰に腰を折って、儀礼のまねごとをするキミカズ。

ホント、よくお前それで不興買わないよな。

今回は相手がいいんだろうけど。

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