探し人再び(3)ー消費期限はチェック済み

「要らないよ! っていうかそんなものまで献上されてんの!? どんだけ伝統芸能ペーパー!!?」

「だから私もびっくりしたって言ったじゃないか。いくら伝統芸能でもパピルス紙とかじゃなくてよかったよ」

「それ、よその文化な」


しょうもない会話が続く。

とにかく、皇室献上品から忍はあたりを付けようとしたらしい。

いきなり御不浄のアイテムとか、そりゃ驚くわ。


「しかしこのうさぎの外箱は和風さが粋だ。切り絵みたいでシンプルで良い」

「いや、必要性の問題な。感想はいいから、他に何か」

「見事に食べ物ばかりだね」


食べ物と言っても、地方特産といえば大抵、食が代表格だからこの辺は仕方がないだろう。


「ちなみに魔界の貴族のヒトたちや、パイモンさんが実際献上されるものって何ですか?」

「んー似たり寄ったりだな。宝石とか財宝系とか」

「それ、オレの知ってる中世の世界観。今時の日本は金銀パールとかそういうのは献上されない」

「希少なものとなればあとは、それぞれの好みに応じてだろうけど、定番はやっぱり上質な食べ物や……ワインなんかも多いかな?」

「それだ!」


酒といえば各地の名産品。

そして、確かにピンキリで、海外ならワイン、日本なら日本酒と特色がものすごく出る品物。献上品として相当格上の存在はあるはず。


……


「わたし、日本酒のまないから全然わかんない……」

「オレもだよ……」

「なんて頼りにならない奴だ。大人になったんだからいい酒くらい飲め!」


いや、好みの問題だよ。

そういえば、好みといえば


「パイモンさん、陛下ってお酒は……?」

「献上品としてはよく上がっている。良いと思う」


なのに、目利きがいないとは。

思わず遠い目になるオレと忍。


「もうあと、トイレットペーパーしか出てこないよ。しつこいくらいきれいな彩のトイレットペーパーが出てくるよ。……あとは皿とか皿とか皿とか」

「……魔界の陛下の城の景観が、乱れそうなんだけど」

「不協和音は奏でそうだね」


忍は早々に諦めた。

ネットでの検索は、見つからない時にだらだら続けていると、時間ばかり食うことを知っているのだ。

ぱたんと画面を閉じると、次の案を提出する。


「わかった。とりあえずふたつでも目星がついたなら、あとは聞くのがいい」

「聞くって誰に」

「キミカズとかどう?」

「!」


すっごい意外な名前出てきたよ。

むしろ接点皆無だから忘れてたよ。


それっぽくないけど、確かに宮家の人間ならある程度はわかっているだろうと思われる。


「……そうか、意外なところに強力な助っ人っぽいのがいたな。でもオレ、連絡先知らない」

「私も知らない」


出自ははっきりしているのに、それだけで謎っぽい男、キミカズ。


「キミカズって誰だ?」

「エシェルの……フランス大使館に出入りしてるらしき宮様」

「……。おい、宮家がフランス大使館に出入りしてるってどういうことだ」

「単にひと気がなくて、安心して寛げるからみたいな感じか? 好きな時に勝手に来てる感じでエシェルが呼んでるわけじゃないっぽいからな」


エシェルの名前が出たことで、オレの心中は一瞬だけ突かれたような動揺が湧いて出る。

だがそんなことは、周りにとって知る由もないことだ。


ダンタリオンが明らかに瞳を細くして、どこか険しい表情で聞いてきたのは天使であるエシェルが何かを起こすであろう危惧からだろうが、どちらかというと押しかけているのはキミカズである。


そこは正しく説明をする。


「エシェルなら知ってるかな」

「え、エシェルにかける気か?」

「繋がってそうなのそこくらいだし、ちょっと聞いてくる」


あの様子だと、エシェルの側は勝手に登録されても用がないので消しているくらいの関係だとは思う。

しかし、その前に先日のビルの屋上での一軒のことで繋ぎを取られると言われるとぎくりとしてしまう。

何らかの建前を出して止める前に忍は席を外した。


「……なんか面白くねーな」

「お前のは私怨とか先入観だろ。別にエシェル自身は何もしてない」

「それはお前らが何もされてないってだけで、こっちには先入観じゃないもんがあるんだよ」

「何の話だ?」


鼻を利かせたのか、突然にパイモンさんが聞いてきた。

……ここにはアスタロトさんもいる、うかつにこういう話はするべきじゃない。

いつもだったら、オレも大使館に連絡するだけだろとかそういう話で終わったかもしれないが、そういってしまったのは、先日のことも、それこそオレの中に先入観として何かが入ってしまったからかもしれない。


「一回だけまみえましたが気に入らない人間だったので、つい」

「そうか」


オレはダンタリオンがやり過ごすのを黙って過ごして、話題を変える。


「そういえば猊下はあまり菓子とか口にしないんですか?」

「……しないこともないが、他の貴族どもと違って年中ティータイムに興じている傾向はない」

「……ボクらも年中じゃないんだけどね」

「ティータイムっていうか、傍らには大体何かあるけどな」


否定された感があったのか、アスタロトさんとダンタリオンが珍しく口をそろえて横並びっぽい発言をしている。


「菓子折りだとどうしても土産っぽくなるしな、かといって大量に持って帰ってもうまいものほど消費期限があったりするだろ?」

「わかるけど、悪魔が消費期限とかチェックするのが何かおかしい」


すっかり日本の仕組みに慣れすぎている魔界の公爵がここにいる。

魔法で新鮮保存とかできねーの?


「じゃあ定期便みたいなのでコンスタントに贈るっていうのは? 日本でもそういうサービス増えてるけどさ、なくなった頃に違うものが届く仕組みとかあるよ」

「……なるほど、良い菓子であればその都度贈られてくるのは変化もあってよいかもしれぬ」

「……秋葉、お前たまにはいいこというな。だがしかし、オレの仕事を増やす気か」

「ダンタリオン、猊下への献上品だぞ。確かにお前のお手は煩わせることになるが、それを労力と思うのか」

「……」


思ってますよ、パイモンさん。

ダンタリオン、黙殺。

さすがルシファー陛下一本と聞いていただけあって、間接的にでもメンドクサイとか言ってはいけない空気になっている。


「しかし閣下。それでは閣下ではなく私が贈るも同然になってしまい、意味がないかと……」

「……そうだったな」


逃げやがった。こいつ、それっぽい理由でパイモンさんの真面目な性格利用して逃げやがった。

悪質な部下だ。


「選ぶならカタログとか情報流してあげればいいんじゃないの。公爵はその手配ってことで」

「シノブー戻ってくるなり善処策を講じるな。オレの仕事が……」

「……」


パイモンさん、無言の圧力。

魔界の権力事情は見なかったことにして、聞く。


「キミカズの連絡先は?」

「わからないって。なんか、勝手に来て勝手に帰ってく人みたいで」


うん、なんとなくわかってた。

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