探し人再び(2)ー献上品を探して

「それは知っている。シノブについてはすでに初めて会ったときに大分世話になったからな」


ベレト様とは全く違うタイプの王様だ。

ベレト様は王様ー!という感じだけどこのヒトがこうなのは、ずっと魔界の皇帝に忠実に仕えてきたからだろうか。

頂点を主張しないっぷりがまた、大物にも見える。

いや、ベレト様はベレト様で無言でも「誰も逆らえません」みたいなところがそれっぽいわけだけど。


「シンは元気か」

「元気ですよ。呼びますか」

「人間は召喚できないから。今日平日だからな?」


森さんなら速攻休み取ってくる気がするが、この事態は司さんにも連絡してしかるべきなんじゃないだろうか。

今更思う。


何せこの王様は、天使が退去したあと、すぐに姿を消したため未だ捜索中であったのだ。

……ダンタリオンは、あのまま捕まえられると思っていただけに、油断して取り逃がして日本の警察に余計な労力をかけ続けている。


ていうか、あっさり喚べるなら初めからそうしたらよかったのでは。


「……」


沈黙。

アスタロトさんとは違う意味で、何を考えているのかわかりづらい無表情。


「では少し休んだら、一緒に歩いてもらうとしよう」


あ、プレゼントの話か。

もう半月くらい探し回ってるみたいだけど一体何を求めてるんだろうと逆に謎になってくる。


「シノブ、オレは行かないけど閣下はちゃんと連れて帰って来てくれ。ゴールはここだぞ?」

「PKゴール決めてもらえばいいですか」

「パイモンの蹴りは強烈だと思うけどね」

「オレが死ぬだろ」


こそこそとその後の会話を交わしている。

こそこそしていたのは初めのダンタリオンの声だけで、パイモンさんが聞いても半分以上は意味不明なわけだが。


「秋葉も行くんだよ」

「いいけど……どこに行くんだ?」


素朴な疑問。


「パイモンさん、今まで何を見てみました?」


忍がまず、これまでの成果を聞いてみる。

成果がないのは見ればわかるが、成果を出すには必要な確認だ。


「……」


何で黙り込むんですか。


「君、ひょっとしなくても何を見たか見たものもよく理解してないだろう」

「……」


アスタロトさんの口調が気になるが、単にパイモンさんは気にかけないタイプのヒトなのだろう。

オレたちも結局、様づけではなくさん付けになっているからして。


そして、沈黙するパイモンさん。図星らしい。


「閣下が人間界をふらつくなんてかつてないことだろ。質問の仕方を変えろ」


そうか、これが文化の違いというものか。

多分、難しい説明を聞くと何を質問していいのかすらわからないとか、そういう類の現象だろう。


何がどういうものなのかすらも、よくわかってない。


……お付きはやっぱり必要だ。


「じゃあ、どこに行きました?」

「新しいものより伝統的なものをと、独自の文化がありそうなところには行ってみた」


すっごい抽象的すぎてわかんねーよ。

さすがに一緒に行くことになったので、いつまでもぼーっとしている場合ではなく、オレはダンタリオンから、観光雑誌を借りた。

何でそんなものが常備されているかは、察してほしい。


「秋葉、それ駄目なやつ。有名だけど、食べるところとかそんなのばっかりで有益な情報がない」

「……国民的観光雑誌だと思うんだけど、お前にとってはそういう感じなの?」

「目的は食い倒れじゃないんだよ。もっと……あ、でも地図は見せて」


と言いながら、地図のページを広げる。


「何となく行った場所、わかりますか?」

「うむ……これなら、この辺りと、ここと、ここ……」


次々と有名どころがつぶれていく。

結果、東京人が知っているような場所は、のきなみ潰れた。


「まぁ……半月いればこれくらいは……」


苦しいダンタリオンのフォロー。


「じゃあやっぱりこっちから案を出そう。で、確認済をまず潰す作業」


土産ひとつに壮大な作業になってきた。

しかし、皇帝陛下に献上品ともなれば、これくらいの労力は確かに必要なのかと今更思う。


「そもそも陛下って……何が好きなんだ?」

「……………………………………」


オレの素朴な疑問(当然、忍に向けた)に、更に黙するパイモンさん。

まさか……それもわかっていないとか……

代わりにダンタリオンやアスタロトさんが答える。


「猊下は自治領ぽっぽり出してほいほい観光に来るような方じゃないからな。まず、そういうお遊び系は却下」

「猊下は何年も在日して日本の民俗に詳しくなるタイプではないから、俗っぽいものも却下だね」

「……お前……オレに何か言いたいことでも?」

「君こそボクに何か言いたいんじゃないのかい?」


ダンタリオン、お前の方が何かを例にしたような言い方を先にした。

その通りだと言わんばかりの顔をしたが、それじゃあ話が進まないので、忍が聞いている。


「つまり、遊び心は特に不要で、品性がありかつ、実用的なものがよさそうという?」

「その通りだ。閣下は必要のないものを送られても、興味を示さない」

「なんか合理的な感じだな……ひょっとして心を込めた云々とかも全然興味ないタイプ?」

「そうだな。色々超越している方だから、真面目に、普通に良品がいいだろ。アスタロト、お前でもさすがに猊下には冗談まがいのものを贈らないよな?」

「贈らないね。ボクも相手は見ているつもりだよ」


本当に一切、無駄なことは不要というタイプのようだ。

魔界の皇帝陛下。

……こっちに来るヒト達に慣れすぎたけど、王族とかそういうヒトに対してはむしろそれが普通なんだよな。


改めて、理解した心地だ。


「そういえば、前回リリス様が伊東屋で蒔絵の万年筆買っていっただろ? ペンを使う仕事もするならそういうのは?」

「! そんなところがあるのか」


うん、さすがに伊東屋は行かないよな。

オレだって文具店とかないだろ、と思っていた口なわけで。


どこに言っても安価な文具は目につくし、普及しすぎて庶民の手にいつも届く存在だから、パイモンさんにとっても、盲点であったらしい。


「いいね、サマエル様の仕事用にって言ってたし、実用的で職人が作る条件にも合ってる」

「そんなとこあんのか。……オレも行ったことないな」

「一緒に行くかい?」

「いや、遠慮しておく」


お守りは嫌なのかさっと顔をそむけるダンタリオン。

同意なのか、アスタロトさんも助言には加わっているがついてくる気はないようだ。


「じゃ、伊東屋に行ってみて、あとは……すみません、端末起ち上げていいですか」


忍が何を思ったのか、パイモンさんに失礼のないよう聞いてからモバイルノートを開いた。

そして、なぜか、止まる。


画面を後ろからひょいと覗くアスタロトさん。


「うーん、これは……要らないと思うよ?」

「私はこれが献上品であることにびっくりしたわけで」

「?」


パイモンさんはもちろん、見えていないオレにもわからない。


「トイレットペーパー」

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