新人サマナーは忙しく
1.探し人再び(1)ー練習で召喚していいですか
エシェルのこと。
忍がソロモンの指輪で契約をしたこと。
これが重なったせいで、オレは一人で秘密を抱える羽目になってしまった。
大きな秘密ではないかもしれないが、エシェルの件については情報共有者が忍と森さん、それからダンタリオンしかいないため、話すに話せない。
森さんは元々部外者だし、ダンタリオンはそもそも悩みを分かち合うとかそういう理由で共有しているわけじゃないし……
「シノブ、もう一回召喚の練習しないか?」
「召喚したら送還も速攻練習しますけどいいですか」
「練習はした方がいいだろうけど、召喚する相手は選んだ方がいいね」
ソロモンの指輪。
忍とアスタロトさんはこれを国家に抑えられないように、魔界の所有物であることをダンタリオンを通して明確にしていた。
いずれ、人間が使えるような代物ではないので「借りている」ということにした方がいいだろうとのこと。
というか、実際、忍自身はその程度の認識だ。
だが、天使の襲来や事件がないとも限らないので、これを使いこなす方法を学ばなければならない。
召喚された悪魔は、制約を外した状態のまま現れる。
当然、リミッターがはずれたままの彼らをそのままにしてはおけないのでおかえりいただくのが送還。
ダンタリオンは、天使が去った後、きっちり送還の手順を踏まれて元通り、ある程度の制約がかかった状態になっている。
当然本人は外しておきたがっているが……
そんなわけで、そんな会話だ。
「シノブにはレメゲトンの第一巻の写本の情報を後で渡すから、それ見て七十二柱の情報抑えなおしといてくれ」
「レメゲトンって何」
「ソロモンが使っていた術に関する魔術書だ。全五巻で構成されるが、後世の人間に相当書き加えられているから、原書に近い第一巻だけでいい」
「……それって日本人でも読めるんですか」
読む気はあるが、もっとも難関であろう問題を忍は指摘する。
「読めるような形で情報にしてやるから、大丈夫」
「あとの四巻は?」
「そんなに重要じゃないよ。もともと本来はその一冊だけであるともいわれるし。召喚に必要なほぼすべての陣や契約方法、悪魔について書かれているのは『ゴエティア』と呼ばれるその一冊だけだから」
アスタロトさんも情報として脳内に入ってるっぽい。
長い悪魔としての時間を考えれば、本の一冊や二冊、頭に入れるのはそう大した時間ではないのかもしれない。
「とはいえ、契約はすでにされているから相当読み飛ばしてもいいと思うけどね」
「実践あるのみだろ」
「それならバティムかオロバス辺りに頼むのがいいね。彼らは代償を求めたりしないから」
「オレだって代償なんていらない。何度でもつきあう」
お前は、バリバリ自己の利益を追求したいだけだろう。
心の中でつっこむ余力は出てきたが、声に出すほどではない。
オレはぼーっとしたまま、そのやり取りを眺めている。
「アスタロトさんはそういう理由で召喚してほしいとか言わないんですね」
「ボクは間に合ってるからいいよ。それに過去とか未来とか見られるの嫌だろう?」
「ものすごく」
プライバシーは守ってくれている。
と、いうか現状その制限を解除する必要性が本当にないのだろう。
「……召喚したいヒトいるんですけど、やってみていいですか?」
「誰」
「日本にいるヒト」
話を聞いていると、ダンタリオンの読み通り忍の初回は3柱が限界だった。
それもダンタリオンの場合は転移に近い。
正しく言うなら、魔界からの境界を越えて喚べるのは2人まで、といったところだろう。
そのあたりもどうしたら負荷が軽くなるのか、単なる慣れなのか、そもそも無理なのかなどいろいろ検証しながらでないと、進まない様子。
……これは、当分忙しいな。
忍は情報局の仕事は免除されて当面、この魔界の大使館に通うことになっている。
「転移に近いから、練習としてはいいんじゃないかな」
「戦術顧問がそういってんだからいいだろ」
「誰が戦術顧問だい? 自分に利がないからって不貞腐れるのはやめてくれないかな」
「じゃ、喚びます」
と、簡易的にシジルをまとめた冊子をめくって忍。
どうやら、シジルをなんとかして構成する作業は必要らしい。
ソロモンがどうやって召喚をしていたのかは知らないが、それ以外の人間が召喚する場合はものすごく大変な準備が必要だというから、そうぽんぽんと呼び出せる感じでないのはわかる。
黙って見守る。
シジルが広い部屋の床に広がった。色は金色。
……あれ、ダンタリオンの時と色、違うな。
「……待て! シノブ! 誰を喚ぶつもりだ!!」
「……これは王の色だね。日本にいる王というと……」
シジルが完成し、召喚陣に小柄な人影が現れる。
「……………………パイモン閣下……」
その無表情な顔を見て、ダンタリオンの顔に張り付くような薄い笑みが浮かんだ。
よりにもよって、という表情だ。
あまり形式ばったことが好きではないようなので、王様クラスは相手にしたくないらしい。
「私を召喚するとは、何事か」
「パイモンさん、まだ日本にいるということは陛下の贈り物はみつかっていないんですか?」
「……残念ながら」
ダンタリオンはすぐに席を用意すると、当然に執事にお茶も用意させる。
そして、当然のようにパイモンさんはそこに腰を掛け、ゆったりとカップを傾け瞳を伏せた。
「召喚したのは、まだ日本にいるということでそうなのかなと。良かったらまた一緒に歩いてみませんか」
「!!」
そういう意図か。
ダンタリオンは展開がわからないという顔をしたが、よりつっこんだ話をしていたアスタロトさんには通じた様子。
「いいんじゃないかな。閣下がそれでよろしければ」
「何が閣下か。アスタロト、貴殿の掴みどころのなさは私に取っては些細なことでしかないぞ」
「ボクにはそんなつもりはないよ。ただこの子たちは神魔に親切だから、行ってみたら面白いこともあるんじゃないかって話」
なんでため口になってるんですか、アスタロトさん。
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