4.失せ人、還りて脅威は退き
天使は結界の修復が行われ、空間が閉鎖されるより前に空へと消えた。
先に神魔たちが相手をしていたこともあって、特殊部隊は前回ほどは戦闘に参加しなくても済んだようだ。
あっさりと退いていった神の使いの消えた空を、ある人はどこかあっけにとられたように、ある人は疑問を持ったかのような目で見上げていた。
「……天使が撤退するなんて……」
「今までと違うな。統率力が働いているように見える」
浅井さんと司さんが話している。
名前も姿も見なかったが、エシェルと最後に話していたそれが、指揮しているんだろう。
今までは明確な統率者の姿はなく、まるで特攻兵のような動きが危機感をあおっていたが、それはそれで厄介なことになりそうだとゼロ世代の人達は懸念しているようだ。
「これが人間と神魔の共同戦線というものか? 聞いていた話と違うようだが」
「まさか閣下がこちらに来ているとは知らず……とんだことに巻き込んで申し訳ありません」
ダンタリオンが、礼儀正しく腰を折っている。
違和感に、いつもだったら突っ込んでやりたいところだが、とてもじゃないがそんな気分じゃない。
「よい。私が自らここへ来た。見知った顔があったのでな」
「見知った顔……?」
そこに、アスタロトさんに連れられて忍が戻ってきた。
どんなことをしていたのか、足元がおぼついておらず、一度離した肩を支えられている。
「私と秋葉が助けてもらったんです。パイモンさん、ありがとうございます」
「先日の礼だ。一日かけたものに数瞬となるとつり合いは取れないとは思うが」
森さんとつきあったというから、そのことだろう。
さすがに王の位にあるだけあって、まっさきに戦力となってくれたのは大きな幸運だった。
備えこそできていなかったものの、それを考えれば被害は少なかったと言っていい。
ただ、民間人の多くが犠牲になってしまった不測の事態ではあったけれど。
「この区域は当面閉鎖する。ケガ人と……犠牲者の回収を」
最終的に下されたのはそんな判断だ。
とうとう死人が出た。
建物は神魔の力で直せても、犠牲者の出た場所としての扱いも検討されるだろう。
「2年前」と違って一部に犠牲が出たことで慰霊の行事も行われるだろうし、表面上だけきれいにしても済まない事態が起こってしまったのだ。
この惨状を目にさせないように、地上から輸送される人はブラインドの降りた車で、地下に逃げた人はそのまま別の駅まで誘導されることになる。
要石に手を出しているのが内部の人間の可能性が高くなったことで、これから犯人の特定が急務になるだろう。
さすがにそれは表ざたにはならないが、世論的にはその日の出来事は「局地的地震説」と「天使襲来説」に分かれて論争されることになる。
何を言っても信じない人は信じないし、何もないのに事実でないことを信じる人もいる。
SNS上は不安を転嫁するように、あるいは他人事のように混とんとした情報が行きかうようになってしまった。
それでも人口の多いこの街は、常に流れ続けている。
人も、時も、情報も。
色々なことが重なりすぎて、鬱々とした気持ちでオレは、再び整っていく街と、好き放題の情報を流しているニュースをただ、眺めていた。
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