8.ミッション開始(3)ー暗殺者がやってきた

全くだ……全くだよ。

忍、これはどうするんだ。


……。


ちょっと想定外の正論であった模様。

納得して「それもそうですね」とか返しそうな勢いで沈黙しているので、そこは司さんがすばやくフォローに回った。


「私は全員の護衛も兼ねているので、先頭にいると後ろが見えないのはリスクです。一番後ろなら、全体が見渡せます」

「確かにそうね」


この謎の連携感はやはりベレト閣下の時を思い出す。


「でも、どっちにしても今のこの国では、アキバのしていることはあまり意味はないわよね?」


リリス様、オレのこと認めないつもりですか。

それとも正論ですか。


忍の応えはどうなのか。


「そんなことないですよ? 突然狙撃されるかもしれないし、突然車が突っ込んでくるかもしれない……」


ないだろ。


その時、キキキキキ!とものすごいブレーキ音がして、車が突っ込んできた。


「おわぁぁぁぁ!!」


先に出ていたオレは思わず、店の中に全員を押し返す。

もちろん、オレが避難するためでもある。

車は店先をかすめて、少し先に止まった。


「……おぅ、悪い悪い。おぢさんちょっとタバコ探してて~」


和さん……


「局長、それ、庁用車ですよ」

「全車禁煙!」

「固いこと言うなよぉ、タバコ切れるとおぢさんも切れるしな」


大変だ。ニコチン中毒者が警察車両で巡回している。


「だぁれ? お知り合い?」

「いえ! 知りません!! それよりお怪我は!!?」

「ないわ。……本当に車が突っ込んで来るなんてことあるのね。アキバ、助かったわ」

「良かったなぁ。ま、もう半日、が ん ば れ」


……。

いきなり現れた和さんこと護所局局長はそう言い残すと悪びれもなく車を発進させて去っていった。


「なぁ」

「なに」

「ひょっとして盗聴か何かされてる?」

「ヒマならしてるかもね。局長が自分で運転するとか普通ないし」


今の、明らかに狙ってきたよな。オレの命。


「秋葉の危機回避能力は割とすごいものがあるから、一番前で正解かもしれない」


それって逃げるのが早いとか、そのために危険を察知するのが早いとかそういう意味だろ。

言い方ひとつでものすごい長所に聞こえるわ。


司さんは何か小型の端末を取り出して、オレの方に向けた。


ピー。ガガガ……


オレの胸ポケットに無言で指を差し入れる。

出てきたのは小さなカード型の端末。見覚えはない。


……そして、無言でそれを落として……


「秋葉、何か落ちたよ」

「えっ、何?」


バキ。

忍が声をかけたタイミングで司さんはそれを踏み潰した。


「……」


もう一度無言でスキャニングをされているオレ、そして忍、司さん自身も。

何の反応もないのでようやく口を開く。


「オレ、いつのまにあんなの仕込まれてたの?」

「さぁ……いずれにしても盗聴は犯罪だ」

「三人とも、どうかしたの? 怪我でもした?」

「いっ、いえ!」


さすがにリリス様をいつまでも放って置くわけにも行かず、局長の所業の追及は後回しにする。


思わぬ危機にさらされたものの、加点が入ったらしきところで次の場所に向かう。

といっても、この買い物にかかる時間の長さだと、回れてあと1か所か2か所だろう。


早く次の店に行って、店員に任せて休みたい。

今食事休憩を取ったばかりだが、一瞬にして疲れた気がする。


「次はどこへ? 何かご希望がありますか」

「そうねぇ……ブティックを見に来たのに、午前中はジュエリーショップで終わったものね。服を見たいわ」


立ち並ぶ、ファッションの店。

自由行動でいいだろうか。


「秋葉」

「はい」


遠い目をしていると察したように司さんから声がかかる。

気力を振り絞って、もう少し具体的に話を進めることにする。


「店舗は多数ありますから、おつかれでなければ歩きながら気になる店へはいりましょう」


朝はショップという単語を使えたのに、店、という言葉を無自覚に使ってしまった。

後から気づいたが、つまり気力が切れかけているということだろう。


でも怒られる気配はないからもうこれでいく。

ふんふんと鼻歌交じりで大通りを歩く魔界の女王様。


ここは歩道なのでレディーファーストも何もうるさいことは言わない。

まっすぐの通りを先に行かせて好きな店に入ってもらうだけだ。


その時、司さんの無線が鳴った。


「失礼」


今日は、緊急案件の場合だけつながることになっているのでそれを取って少し離れる。


『司ぁ』

「……今、聞こえちゃいけない人の声が聞こえたよ?」

『いいか? よぉく聞け。この先の十字路に入る手前でスナイパーがお前らを狙ってるぞ。魔界の女王様を……秋葉を……頼むぞぉ?』


ぶちっ


切れた。

今のは司さんが切ったのか、局長が切ったのか、わからないタイミングだ。

先を行くリリス様には聞こえていないがオレにはしっかり聞こえてしまった。


「……頼まれたんだが……どうする?」

「どうするじゃなくって……スナイパーってどういうこと!? 十字路に入ったら狙撃されるんですか!?」

「今のは聞き方によってはどこかで事件が起きていて、局長は最後の死力を振り絞り危機を伝えてきたように聞けないこともない。けど前の展開から行って黒幕の方だよね」

「親切のつもりなんだろう」


そうだね! 忍はかばう対象に入ってなかったしね!

オレがかばって株上げろってことだよね!


……その前に、頭撃ち抜かれて死ぬだろ。


「司さん」

「……」


考え込んでいる。気持ち的にはそこら辺の店の柱に片手ついて、もう片方の手で頭を抱えたい感じだろう。

暴走する上司を持つと、部下は苦労する。

そして、一度ビル群を見上げてから言った。


「十字路に入るまでに狙撃者をみつける。秋葉はなるべくリリス様と近いところにいてくれ」

「……その十字路、回避するっていう選択肢は?」

「この界隈にいる限り狙われるのは目に見えている。どうせならさっさと片づけたい」


そうだな。銀座にいる限り狙われそうだよな。

というか、何の事件が起こってるの?これ、おとり捜査か何か?

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