七福の幸(4)ー七福神

「本日は大変なゲストをお招きしております」


あちこちにつながれた臨時のスピーカーから流れるそのアナウンスに、宝船の前にいなかった人達もそちらを注目した。


「なんと、日本の神様『七福神』です!」


司会者がテンションを高く言ったが反応はいま一つ。

大体が「えっ」という感じだったが「そんなのいるわけないだろー」といった声も聞こえてくるくらいだ。

まぁ、前例がないからコスプレして運営が盛り上げよう、くらいにしか思わないよな、このサプライズは。


しかし、七福神の……あれは福禄寿だろうか、寿老人だろうか。

ぶっちゃけ双子みたいな老人の姿なのでよくわからないんだが、白く長いひげをたくわえた姿には確かに見覚えがあり……そのうちの一人にマイクがわたると場の空気は一気に変わった。


「いえーい! 盛り上がっとるかの! わしは寿老人じゃ!」


やばい。違う意味で注目が集まるパターンだ。

ここで真面目に豆まきのように進行が始まったらただのなげもちで終わったであろう。

しかし、のっけからインパクトが強すぎる。


「長寿延命・諸病平癒の神さまじゃぞ。わしからはこの桃をまず投げるのじゃ!」


いや、投げるのじゃ!ではなく。


「痛い! それ固い!」

「ていうか季節外れだよ! どこから持ってきた!」


そーれ、みたいな放物線を描いた感じではなく、めちゃくちゃオレたちに狙いつけて振りかぶってピッチャー張りに投げつけてきた。


桃なんてただでさえ割と高級品だ。その上、この展開で注目を集めない方がおかしい。

……というか、これは運営の演出なのか。


違うと思う。


「桃は邪気を払うと言われておるぞ。ちなみに福禄寿とわしはそっくりさんじゃが、見分け方は鹿や桃! 覚えとけ!」


ハッスル爺にもほどがあるだろう。

見分けつかないとか思ったオレへのあてつけなのか。


「桃は衝撃を加えるとすぐ痛むから、投げつけるのはどうかと思う……」

「持って帰ってすぐに食おう……」


熟していないことが幸いして、痛い思いはしたが潰れはしなかった。

グシャってなってたら、大惨事だったわ。


「続きまして、福禄寿様です」

「わしは福禄寿! 鶴がトレードマークじゃ! 南極老人星の化身と言われておるぞ。カノープスなんてしゃれた名前もあるが世の中が平和なときにのみ出現するめでたい星じゃ。ここにいない者たちは、すぐに集まり我々の福を受けるといい。……ちなみにわしが投げるのは……何かあったかの」

「菓子があります」


運営と打ち合わせくらいしておけ。

しかしじじいども……もとい、双子神みたいな普段影薄そうな七福神のコンボで、もう掴みはばっちりだ。


人が集まり始めた。


「では、もちなげ、改め福分けと改し、あらためて七福神の皆様をご紹介いたします。繰り返しますが、ホンモノの神様です。みなさまは先般の事件から活気づけようとご参集してくださいました!」


運営の説明的セリフ。長い。

ホンモノの神様だろうとコスプレだろうと、最初の二人でもう注目度はすさまじいことになってるよ。


桃をオロバスさんの持参したマイバックに詰めて、見守る。


「いかにもお強そうな毘沙門天様は福徳・厄除けの神さまです。今日も厄除けの力にて、きっとみなさまの安寧を守ってくださることでしょう!」


うん、見た目普通に戦いのカミサマだよな。

この神様だけ、福っていうより対天使とかで手伝ってくれないのか?と言いたくなるくらい精悍な怒りにも見える顔つきだ。


「続いて、布袋(ほてい)様! 笑門来福・人徳の神さまです。その大きな袋には一体何が入っているのか! 太鼓腹もふくよかなチャームポイントです」


紹介された二人が前に出て手を振る。

コスプレというレベルのリアリティではないので、この辺りになるとふつうに参集者も盛り上がってきた。


「そして、打ち出の小槌を持った姿でおなじみ大黒様! 財宝・開運・子孫繁栄の神さまですが米俵ごと投げられないようにご注意ください!」


どんな注意事項だよ。この人込みで、米俵降ってきたら避けられないわ。


「そして七福神の紅一点! 弁天様で有名な弁財天様です。財運・芸能の神さまです。今日は、さいごにマイクを弁天様にお預けする予定なので、みなさん最後まで参加して、ぜひお言葉を聞いてください」


そして、一度紹介された七福神たちが下がるその合間に、オレたちは話している。


「あー弁天様のお言葉かぁ。それは聞かないと」

「なんか、今の説明聞いてたら本当に福の神ばっかなんだな。いろいろいいものが降ってきそうな感じがしてきたよ。物理的な固体じゃなくて」

「俵が降って来ても神魔も集まってきたから、大丈夫だろ」


そういう問題じゃない。


「オロバスさん、さっき言ってたなげもちっていうのは、お祝いの時におもちやお菓子を投げてふるまう祭事なんですけど、福分けって言いなおしたから何が降ってくるかわかりません。……とりあえず、みんなで拾うのが楽しみ方」

「空中キャッチもありですか!」

「……うーん、軽くジャンプ程度なら」


そんなことされたら全部神魔にもっていかれそうだが、すごくわくわくしているのでそっとしておくことにする。


「そしてさいごは本日の主役!」


運営がひときわ大きな声で盛り立てた。


「恵比寿様です!」


そこで区切ると沸き起こる拍手と歓声。「恵比須様だぁ!」と叫ぶこのタイミングはさすが日本人だ。


「商売繁盛・五穀豊穣・大漁祈願! ご覧の通り、手には釣り竿、脇に鯛を抱えた姿が有名です!」

「ほっほっほっ 鯛が欲しいものはいるかの?」

「欲しい!」

「こっち投げて!」


欲の皮丸出しで、乗ってきた人も多い。

ていうかめちゃくちゃでかい鯛だけど、アレ電車とかで持って帰るの大変じゃね?生臭くね?などと余計なことはもうみんな考えない。


まつりだ。


「今日は私のまつり。たくさんの人たちが長い間続けてくれたことに感謝をし、仲間と一緒に福を授けよう」


しゃん、と大黒様がその言葉に合わせて持っていた小槌を振った。

途端にどこからともなく出てくる、様々な食べ物や菓子、神饌類。


さすがに大判小判は出ない。

ここでそんなものが出たら、醜い争いが繰り広げられるだけだろう。

包装された食べ物でとどめておく辺りは、逆に配慮だ。


「おぉー!!」


人間技でないその演出に、どよめきが起こった。

不思議なもので、日本の神様は初めて人前に姿を現したのに、存在がひどく自然で違和感すら感じさせなかった。


「……あの小槌、どうなってんだ? なんかいろんなもの出てきそうだけど四次元ポケットなの? あの体型から行くとドラ〇もんなの?」

「ドラ〇もんは未来型です。七福神は歴史ある旧き神様です」

「そういえば海外の神魔ってあんまりああいう不思議仕様なアイテム持ってないよな」


減らない酒瓶とかはありそうだけど、あんなふうに無尽蔵に何かが降ってわくイメージはない。

それで、人間だけでなく集まっていた物見遊山の神魔たちもアメージング!!みたいなことになっている。


マイクが弁天様に渡った。


「さぁ皆さん。幸運を」


男性神たちが一斉にそこにあるものを投げる。

今度はきちんと放物線を描いて、文字通り、人も神魔も日本の天から授かる。

人間が投げても届かない遠くの参加者までそれらは等しく、恵みの雨のように降り注いだ。


「わー!」

「痛ぇ! 誰だ足踏んだやつ!」

「おばちゃん怖い!」


うん、現実は取り合いになってるから一部はすごいことになってるんだけどな。


「駄目だ……オレ、こういうの苦手かも……」

「そう? ゲームだと思って参加すればいいんじゃない?」


素早い人間だから言える発言である。


「まぁ中には人のものをひったくったり、拾おうとした手を踏んづけてくる人もいるから……あんまりおばちゃんには近づかない方がいいよ」


途端に真顔で遠くを見ている忍。

わかった。ワゴンセールとかでよくある光景だな。うん、入りたくない。

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