エシェルの真意(3)ー炭酸飲料ってたまに飲みたくなるよね
何を、って言わなきゃいけないのこれ。相当繊細な問題だと思うけど。
「テレ東の伝説は健在か……人類滅亡しそうなのに、今開運お宝〇定団とかやってるのかな」
「この部屋テレビないもんね。確認できないわ」
「ちょっと待て、何の話をしてんだ! エシェルの話じゃなかったの!?」
「だからそこからさっき秋葉と話しながら来たテレ東伝説について辿り着き」
……。
話はもう終焉に近いようだ。
しかし、オレはあることに気付いてこそりと忍に耳打ちをする。
「お前さ……大丈夫なの? ここ監視カメラはないけど、音声とか……」
「ない。事前にナース様に確認済み」
忍のことだからさりげなく心配がてら聞いたんだろうが、森さんの場合はプライバシーはきちんと尊重されているらしい。
「それに必ずしも記録に残すことが最善じゃないこともあるからね。例えばVIP同士がこんな個室で話すとしたら、筒抜けじゃトップシークレットも何もないわけで」
「……そっか。ここにはそういう人も来る可能性があるんだもんな」
「清明さんなら夕方にここに来てくれるみたいだけど」
ある意味あの人も術師としてVIPなので、その会話を録音するなど恐れ多いだろう。
よくわかった。
オレはマイバックなど持っているはずもなく、レジ袋から冷製のデザートを取り出して二人に渡す。
「ありがと、秋葉くん」
「飲み物も。……適当ですけど、大丈夫ですか」
「ノンカフェインの健康茶だ……秋葉にしては……」
「うん、お前からそれくらい知識もらってるから。これなら胃に触らなそうだし、いいかなって」
買ってきた残りは適当にサイドテーブルに並べる。それを見て忍。
「私、ライフガードもらっていいかな」
「いや、めっちゃ炭酸。なんでノンカフェイン、ハーブティだのが常用の人がそのチョイスなの?」
「たまには炭酸を飲みたくなるんだ。あと、それ栄養入ってそうだから」
合理性で飲み物を選ぶあたり……
「おいしい……久々に甘いもの食べた気がする……」
「気がするじゃなくて、結構長いこと意識失ってましたよ。点滴繋がれてたでしょう」
今はないところを見ると、それも問題なかったということか。
変わりはなさそうなので、そこは一安心する。
「出られる日はまだ決まってない、よね?」
「今日清明さんが来て、問題なければ明日には出られるよ」
「そうなんだ。早いのはいいけど急だから、司くんが迎えに来られないようなら私休んで来ようか?」
ナチュラルに忍は、明日休み取ります宣言をしている。
「一人でも大丈夫だと思うけど」
「退院手続きとかあると思うし、荷物……は、あんまりないみたいだけど……私は休みたい」
本音が出た。
「森さん、ずっと寝っぱなしだったし結構体力落ちてるかもしれないですよ。付き添いくらいはいた方がいいんじゃないですか」
「不知火がいるといえばいるから。でも忍ちゃんがそういってくれるなら、司の予定聞いてお願いするかも」
「負担をかけるようなことはしないから、森ちゃんも無理しないでね」
退院の手筈が決まったところで、改めて飲み物などを思い思いに口にする。
そんなふうに話していると、司さんがやってきた。
「司、早かったね」
「あぁ、連絡が来たからすぐに休みを取ってきた」
「……これは、明日も連休で休みを取りづらくなるフラグでは」
明日退院、なんて思ってないからすぐに来てくれたのだろうが……
なんのことかという顔をしたので、説明する。
「……」
「司くん、明日休み取れそう?」
「勤め人は連休取るのに勇気いるよね。忙しそうだし、忍ちゃんが付き添ってくれるから無理しなくていいよ」
家族のことなら、大体許されると思うが。
まして、特殊部隊の人はもう事情も知っているだろうし、今日だって休み取らなくても許されたんじゃなかろうか。
ちなみにオレと忍は今も勤務時間中だ。
「忍……お願いしていいか?」
「うん。話はゆっくり聞いていけばいいと思うよ」
どちらにも無理をさせない形なので、いいと思う。
オレはコンビニでお使いするくらいしかできないが。
「ともかく、よかったね。何事もないっぽくて。じゃあそろそろ私たちは行こうか」
「? せっかく司さん来てくれたのに?」
「交代だよ。それに司くんは森ちゃんにすぐにでも話したいことがあると思うし」
「?」
オレと森さんの頭上に?マークが現れそうな発言。
「司くんが一番心配していただろうから……邪魔しちゃだめだよ」
「忍、そういう気は使ってくれなくていいんだが」
「あるいは森ちゃんが怒られるかもしれないし、その場合は私にはどうしようもできない」
……オレは忍の頬が全治一か月事件を思い出した。
もっとも、司さんは森さんには怒りそうもないから、ゆっくり話をするのがいいんだろう。
司さんより先に来たこと自体、ちょっと失礼だったかなとも思うくらいだ。
「秋葉、忍」
出るときに呼び止められた。
「すぐに来てくれてありがとう。森の気晴らしになったみたいだ」
「そうだね、元気そうでよかった。じゃあ、またね」
そう言って出る病室は、以前までただ無味な漠然とした空間だったが、その日はどこか暖かく感じられた。
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