エシェルの真意(2)ー森の病室にて

「……不知火、どうしてここに」

「不知火、どうかした? 森ちゃんに何かあったかな」


オレのは単なる疑問。

忍は明らかに不知火に問いかけて、そちらに歩を寄せている。

その顔を見上げてから、今度は忍の袖をくわえてぐいぐいと引っ張った。


「あぁ、わかったよ。着いて来いってことね」


笑みを軽く浮かべて言うと、不知火はそれを離す。

そして先頭切って歩き出して……振り返った。


「秋葉、時間は?」

「大丈夫だ。オレも行く」


そして着いていった先は病院。

やはりというか、まだここにいることは知っていたので不知火と一緒に7階へ向かう。

森さんのいる部屋だ。


コンコンコン


ノックをすると、「はい」と返事があった。


「あ、森ちゃん起きてる」


どうやら意識が戻ったらしい。

不知火が立ち上がるようにして、ドアを両の前足でトンと叩くとそれだけでなぜか扉は開いた。


「こうやって開けてたのか」

「ていうか、どのあたりが『こうやって』なのか全然わからないんだけど」


とりあえず、あの時したトンという音の正体は判明した。


不知火が開き切らないドアの隙間からするりと中に入って、オレたちも続く。

その姿に気付いた森さんの方から先にぱっと笑顔になって声をかけてきた。


「秋葉くん、忍ちゃん」

「森ちゃん、元気? 身体、どこかおかしいところとかない?」

「何もないよ。だから退屈」

ベッドサイドに来た不知火の頭を撫でる。

「だから」不知火はオレたちを連れてきたのか、それとも目が覚めたことを教えに来たのか……いずれにしても朗報だ。


「そっか。不知火、案内してくれてありがと」


相変わらず返事のない不知火にそういうと忍はオレの顔を見る。


「?」

「秋葉も時間あるって。退屈しのぎに何かする?」

「いや、何かって起きたばっかの人にそれはないだろ」


話くらいにしとけ、というがそれでも十分、気がまぎれる会話内容になるだろう。

ついでにあんまりなことをいきなりすると、司さんが怒る気がする。


「いつ起きたの」

「3時間くらい前かな。それから医者とかいろいろが来て、問診と検査して……戻ってきたのが1時間くらい前」

「まだ退屈っていうほど時間経ってないのでは」


オレの心の声はつい、音声変換される。


「そうだね、でも何もない部屋だからいずれ退屈になるのは目に見えてるし、知らせが届くのも遅そうだし、それで不知火が二人とも連れてきてくれたんじゃないかな」


気が利くな、不知火。


「司くんにも連絡行くよね?」

「司は身内で関係者だからまっさきに行くと思う」


それよりも早くオレたちここに来たのか。


「検査疲れとかしてないですか?」

「全然。脳波の検査が主だったんだけど、普通そういうの受けないでしょ? むしろ新鮮というかなんというか」

「え、どんな感じ? 脳波の何調べるの。ってか、森ちゃんそれわかった?」


待て。

そこは興味を抱くところなのか。新鮮だから飽きなかったみたいな発言をするところなのか。


「モニターは見えるんだけど、あれ何とかこれ何とか聞くと、頭使うからやめてくださいって言われた」


うん、そうだよな。

脳波は正しく測定できなそうだよな。


「私も一日中脳波のモニタリングしてほしいわ」

「そうだな、お前の頭はどんなふうに一日を過ごしているのか、ちょっとオレも知りたいわ」


検査大好き人間がここにいる気配だ。

こいつ、情報局より研究職に就いた方が腕振るえるんじゃないか。


「そういえば、食事とか制限受けてる?」

「どうだろ。そこまで聞いてないけど、何もないんだから何でもいいんじゃ?」


その割に、ざっくりな会話が挟まれる。


「オレ何か買ってこようか? しばらく寝てたから胃の中何も入ってないでしょう」

「じゃあ胃にやさしいもの……ヨーグルトとかかな。ハバネロチップスもお願い」

「それ劇物だろ、お前食べたいの?」

「目が覚めたばかりの森ちゃんに、ハバネロの菓子を差し入れする秋葉の図を、司くんに報告したい」

「やめて。本当にやめて」


主犯はいずれお前になるんだ。

本当に食べさせはしないだろうが、一瞬くらいはオレの空気読めない感が疑われるかもしれない。

「とにかく、何か流動食っぽいものな。あ、飲み物は?」

「ください」

「何がいいかな」

「…………………………秋葉くんに任せる」


いや、それチョイス間違ったら忍が今言ったのと似たような状態になるよね。

これ、オレ、どうしたらいいの?


ともかく、部屋を出る。

売店……もあるが、国占有の病院なのですぐ近くのコンビニまで歩く。


自分と忍の飲み物もついでに買って、すぐに戻ると女子二人は何やら深刻な顔をしている。


「どうしたんだ?」

「ん、エシェルの話してた」

「……森さん、大丈夫ですか?」


司さんには話せない代わりにエシェルのことは森さんと情報共有をしている。

しかし、今回の一件は天使の災いであり、それが原因でこうなってしまった森さんは……


もちろん話す前に、忍は話していいかの確認は取っているだろうが……


「大丈夫。っていうか、何が?」

「……」


何が?って返されちゃったよ。

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