7.傷(1)ー回復術師の欲しいもの

今時は警察も武装部隊だから、専門の病院があって。

こんな時は、全面的に開放される。


負傷者は重傷者から優先的にヘリで運送されていた。

一番動き回っていた遊撃隊は、キャリアの差か一番怪我も少なく、最後に車両で病院行きとなる。


大怪我がなくても、検査は全員受けることになっているらしい。


「和さんの言うことだから、気を利かせない気の利かせ方をしたのかと」

「私、直接話したことないんだけど、面白い人だよね」

「面白いっていうか、数字でいうと8 9 3 みたいな」


本人に聞かれたら殺されかねないので、数字を、素直に数字読みするオレ。

森さんもここに運ばれたし、閉鎖空間中で何らかの影響が出ていると困るので、オレたちも検査を受けることになっていた。


「だぁーれが二十だって? おぢさん、二十歳(はたち)にしては渋いと思うんだけどなぁ。ロマンスグレイだろぉ?」


……8+9+3=20


うわあああぁぁぁ 聞かれてたぁぁぁぁぁ


突然に後ろを取られたオレは「終わった」と思った。

……天使に後ろ取られた時より、確実に終わった感が半端ない。


「秋葉ちゃぁん、久しぶりに会った腐れ縁のおぢさんを随分、若く見積もってくれてるなぁ」

「すみません、和さ……局長。………………………………………………局面を乗り切れたようで何よりです」


なんて言ったらいいのかわからないオレの間が長すぎる。


「武装も霊装もないお前さんたちも、恐怖の中よぉく頑張ってくれたなぁ」


いえ、何もしてませんが。

むしろ、何してんだかよく覚えてないくらいの勢いでいろいろあった気もしますが。


走馬灯のようにオレの脳裏を駆け巡った記憶の出発点は、アスタロトさんに抱えられて移動したあたりだろうか。

あとは走馬灯をぶっちぎる勢いで通り過ぎたので、整理しないと時系列が脳内で乱れている感じがする。


「こんな時は、和さん、って呼んでくれてもいいんだぜ?」

「……。大丈夫です。もう済んだことなので」


うっかりそう呼んだ時に、発砲されそうになったことがあるので、本当にそんなふうに呼んでいいものかリスクが大きすぎる。

とりあえず「呼ばない」を選んでおけば間違いはないだろう。


「おぢさんもたまには、部下に甘えてほしいときがあるんだけどな~」


チャキ。


手を突っ込んだ懐で今、音立てたのなんですか。

というか、部下へのいたわりじゃなくて自分が呼んでほしかっただけですか。


「部下って10階級くらい下ですけど、局長そういうの平気な人なんですか?」


気さくすぎるぞ、忍。

今のやり取り見て、なんでふつうに話してんだ。


「おう。おぢさんは心が広いからよ。……秋葉とは長い付き合いだが、清ちゃんが言ってた忍ちゃんってーのはお前さんだな?」

「……清ちゃんは清明さんだと思うんですけど、いつも苗字呼びされてるのに、どこから下の名前が出てきたんですか」

「おぢさんは部下の名前くらいは憶えてるよ~? 特に女子」

「……」


嬉しくないだろ。

むしろ接し方に窮する展開になってきた。主に忍が。


「指揮していたそうでお疲れさまでした。ところで、白上森さんの病室って教えてもらえないんですか?」

「703号室。今、ロックかかってるけど、暗証番号は0893だから」


待てぇぇぇ それは本当のロック解除の番号なのかあぁぁ!


森さんの件は、まだトップシークレットなのか、面会は限られていてオレたちヒラの他部署職員は、窓口では教えてもらえなかった。


「個室でしばらく預かることになってるから、たまには来てやってくれよぅ?」


男は背中で語りたいのか、そういいながら和局長は片手を上げつつ去っていった。


「……いい人じゃない」

「全然言動読めないって意味だとお前と仲良くなれそうだよな」

「いや、話題変えないと危険な予感はしたよ」


そうだな、巧みになんでもない会話に持ち込んでたなそういえば。


「それはともかく……秋葉、あの人、さっき重症だった人じゃない?」


指をささずに視線で忍はその人を示した。

見覚えがないし、ちょっと頭が低そうだ。大怪我をするようなところに一番の新人たちは配置されていなかったから、二期生だろうか。


「私、人覚え悪いけどあの髪型にはなぜか見覚えが」

「お前髪型で覚えてんの? 髪型変えられたらどうするの?」

「わからなくなる」


……。

服を変えただけでもわからなくなる人間なので、そこはそっとしておくことにする。


「でもそうだな、もう普通に歩いてるってどういうことなんだ?」


そして気づく。

重傷者の処置が終わったのか、中程度の怪我を負った人間が「救急搬送室」と描かれた案内板の部屋に入って……


しばらくして出てきたら、擦り傷程度になっていた。


「何? 新しいファンタジールールでも確立されたの?」

「そこは素直に魔法というべきでは」

「回復魔法とかないよな? 陰陽師やら退魔師やらはいるけど、聞いたことないよな?」

「カミサマとかかなぁ」


気になったのか見に行く忍。

オレも行く。


ドアが開け放たれたままなのでそっと覗くと、そこにいたのは、やはり。

いかにも癒しの力を持っていそうな神魔の方々と……


ぜんぜんやはりじゃない、ルース・クリーバーズだった。



「あーだりぃ~ もうかれこれ1時間以上回復術漬けだよ」

「そんな顔しちゃだめだよルース。彼らの方がだるいじゃすまされない仕事してきたんだ」

「いや、オレそっちの方が得意なんだけど。なんで救急部隊なん?」


しかも清明さんがお目付け役?についている。

どういうことなのこれ。


「あっ! 特殊部隊じゃない人がいる! ……浅草であった人だよな! なんか買ってきて! ジャ〇プとか!ヒマ潰せる奴!!」

「ヒマじゃないでしょう」


オレたちが見つかってめっちゃ目を付けられた。


「どうしよう。これ、そっと扉を閉めてみなかったことにするところか?」

「いや、気になるから売店でジャ〇プ買ってくる」

「待て。何が気になるんだ!」

「ルースさんがあそこにいる理由」


あ、そっちね。


ジャ〇プの中身だったらどうしようかと思ったところだよ。

入るきっかけにしたかったらしい。


「普通に入ればいいだろ普通に」


無意味にほっとする一方、オレは言いながら、もう邪魔にもならなそうなのでその急患室に足を踏み入れた。


「ルースさん、攻撃の方が得意だと思ってたけど、なぜここに?」

「術において天災のオレ様はな、回復も使えるんだ」


きらーん。と何かが飛んでそうなどや顔だ。


「天災」

「いや、天才」


忍がどうでもいいところに反応している。

確かに、ある意味天災レベルのことやってくれそうだけども。


「海外の術師ってそういうこともできるんですか?」

「ん~人それぞれかなぁ」


説明がざっくりで明日と同じくらい答えが見えない。

が、そういいながら、目の前に来た隊員の背中についた傷に手をかざして何事か唱えると、魔法、というよりバーチャルな立方形のような光のラインが現れて、それから傷が小さくなり始めた。


「……やばい、この世界が中二病の世界に」

「何だよ中二病って。ていうか、清明。これ無尽蔵じゃないんだけどそろそろホントに撤収準備していい? 女子いねーし」

「女子は一人いるよ。無傷だけど」

「マジで!? どんなゴリラなの? どんなシスターゴリラ?」


……お前んとこのシスターはみんな怪力武力行使型なのか。


海外の退魔師事情が混沌としてくるオレの脳内。


「ルース、あと3人頑張ってください。あとで確認して、ちゃんとできてたらボーナス支給されますよ」

「えっ、なんでそれ早くいってくれないの? なぁ秋葉って言ったっけ。白い服着た特殊部隊の人連れて着てくんない?」



みんな特殊部隊は白い服着てるよ!

ていうか、手抜きしてる人いたの!?

この人ホントに神父!?


そして添削指導の先生みたいになってる清明さん。


初めから見越してたなら、本当に最初に、言ってください。

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