4.宮古進の監察日記

監察。

それは忍耐と情報の世界。


事件の真相をいち早く探るべく、指定された人物や場所をマークする。



張り込み生活一週間。

今どき珍しい、都内の小さなボロ旅館の窓から、ターゲットのホテルを探る。


相手に動きがなければ、監察員の宮古進はひたすらここで、見張り続ける。


今日も相手に動きはない。

スパイのようなことをすることもあれば、こんなふうにひたすら、忍耐を要されることもある。



以上は、すべて本人談である。



* * *



そんなある日。


アンパンが部屋の入り口に置いてあった。


『差し入れです』


そんなメモとともに。



「……毎日毎日、レトルト食品でルーチンワークを続ける私を気遣って……誰かは知らんが、感謝しかない……!!」


コンビニ弁当をチンするよりも、栄養価は低いと思うが、カーテンを閉めっぱなしの窓から、見張る日々。

あいまにもぐもぐするものがあるのは、いい暇つぶs……気分転換になる。


宮古はその日、誰だ変わらない誰かに感謝をしながら、粒あんの味をかみしめた。




翌日。


食パンが、差し入れられていた。


「今日は食パンとは……!? しかも厚切り6枚極ふわ食パン……丸二日は持つではないか……!」


調味料については一切ついていないことには、気付いていない。


「誰だか知らんが……私の労苦を理解してくれているのか……」



宮古は感謝に打ち震えながら、ふわとろ食パンをひたすらもぐもぐした。




さらに翌日。


カレーパンが置かれていた。


「今日はカレーパンとな!? 味気ないこの張り込み生活に、スパイスを添えるとは……できる……!!」


一体誰なのだ。


今更にそんな疑問を抱き始めた宮古だった。



* * *



「と、いうわけで」


いつものメンツで今日も仕事は無事に終了。

気候が過ごしやすくなってきて、晴れていても空気が爽やかだ。

木陰も気持ちがよく、秋葉と忍、司は街路樹の下のベンチで休憩をしている。


おもむろに、立ったまま買ったばかりのペットボトルを左手に忍。


「明日は、ジャムを差し入れ予定です」

「……ジャムだけ差し入れって、何か意味あんの?」

「……」


宮古の話題なので、司はほぼ、不参加状態でマイペースにペットボトルの口を開けている。


「食パンと一緒に差し入れたら良かったんじゃ……」

「秋葉……その日は、森ちゃんがやってくれたから、それでいいんだ」

「……お前、なに森にさせてるんだ」

「え、ノリノリで手伝ってくれたけど」


宮古進は司を一方的に敵視していて、めんどくさい。

ただでさえ関わりたくないのに、部外者の森にまで手伝わせるとは……


……手伝い?


その言葉に疑問を生じ、司は今日、はじめてこの話題に積極的に参加をする。


「ノリノリで?」

「だから明日のジャムは秋葉に頼みます」

「なんでオレ」


ちなみに宮古は、初めて会った時に秋葉と忍で追い払ったが、その方法が良かったのか悪かったのか、二人にはなぜか親近感を抱いているようだった。


特に忍に関しては、己のアイデンティティー(髪型)を開拓し続けるためにアドバイザー認定されている模様。


「みんなでやるから意味があるんだ」

「いや、差し入れって気持ちでやるんだよな?」

「遊び心という名の気持ちでやっている」


全く分からないという顔をする秋葉に対して、司は何かが読めてきたようだ。

予感めいたものを感じているその表情の前で、忍はつづけた。


「そしたら、バターを私が差し入れするから、最終日は司くんがチーズでとどめを」

「そういう趣向なら、たまには乗ってもいいかと思わないこともないが……お前はよくそういうことを思いつくな」

「? ? ?」


完全に合点がいったらしい司。

全く分からない秋葉。


秋葉のために忍が、説明をしてくれた。


「アンパン〇ンって友達少ないよね」


あーい~と ゆうきだけが とーもだっちさ~♪


…………………………。


「そこかぁ!!!!!」


いや、つっこむべき場所は、アンパン〇ンの友人の少なさではなく……


1日目ーあんぱん 2日目ー食パン 3日目……


ワンテンポ遅れて、秋葉の脳内に、あまりにも有名なその歌のフレーズが流れ出した。


あんぱん しょくぱん カレーパン

ジャムバタチーズ だだんだん~♪



黙。



「ところで、なんでだだんだんなの? 私ずっとららんらんだと思ってた」

「いや、そこは疑問に思わなくてもいいんだ。オレが疑問に思うのは、お前の思考回路だよ!!」


秋葉の脳内がすべてを理解したところで、忍はそう言ったが、司もそこは完全同意とばかりのため息をついただけだった。



果たして、6日目最終日に何が起こるのか。

司は、チーズの差し入れ(という名のお遊びの手伝い)をするのか。


……宮古は、一連の状況について、悟る日が来るのか。



すべては謎のままだった。

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